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酉島伝法『皆勤の徒』(創元SF文庫) [SF]

大変けっこうなSF小説です。わたくしは面白かったのですがだいぶくせのある描写と設定なので人を選びそうです。作者自身のイラストとあわせて虫とか臓物のようなものがたくさん出てくるので、まずは表紙を見て大丈夫そうな方と、未来における人類の存亡についてこだわりがない方に向いています。あとは『風の谷のナウシカ』の腐海の描写だけが好きな人とか、山尾悠子が好きな人に見ていただきたいです。意外と思われるかもしれませんがいけます。「破壊王」や「夢の棲む街」に似た歯ごたえがあります。
冒頭に収録された表題作は、よく見る単語に新しい意味と漢字を与えた風刺系ギャグかと思っていたですが(「外回り」が登場した時点でもう笑わずにいるのが無理でした)、どうも続く連作を読んでいくとそうでもないんですよ。われわれの知る人類や静物に近いキャラクターも出てきますし、ひとつずつがらりと趣をかえてゆく全四編と短い断章を通って解説にたどりつくと、やっと全貌がわかりやすく説明されてれっきとしたSFとして納得できました。
こちらの解説がほんとうにありがたくなる、床に額をつけて拝みたくなる明快さと濃密さでございました。読んでいるあいだは、ある程度何を言っているかわからないままでも問題ない小説なので、先ほどあげた条件がクリアできる方にはぜひともお試しいただきたい本です。お試しというのはこの場合「一度通して解説まで読む」ということです。

皆勤の徒 (創元SF文庫) (創元SF文庫)


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ダグラス・アダムス『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』(河出文庫) [SF]

紹介しようとしてストーリーの説明にものすごく困っています。
続発する怪事件に巻き込まれ、恋人との仲直りも思うようにゆかず八方塞がりの主人公リチャードが、変人として有名だった旧友ダーク・ジェントリーに助けを求める話なんですけれども、タイトルにある探偵事務所に駆け込むまでに全体の半分くらいが経過しています。そこに至るまでにリチャードの上司は殺害されて幽霊になるわ、恩師の教授は種も仕掛けもわからないマジックを披露するわ、電動修道士は荒野をさまようわでえらいことです。
私立探偵が出てきますし、殺人事件は起きますし、主人公は容疑者として追われますし、タイトルに探偵事務所が入っていますし、ミステリっぽく見えるですが表紙がなんだかよくわからないことになっています。でも大学のキャンパス・小太りの男・電話・コンピュータ・ソファ・車・切手・鳥・ドアなど、ここに写っているものはちゃんと全部出てきますし、何が何だかわからない事件はおおむね解決します。ただしミステリというよりSFと呼びたい真相が待っているので、SF小説として分類させていただきます。
特筆すべきは「訳者まえがき」がついていることです。そこまでして読者に伝えたいことは何かと言いますと『本書にはサミュエル・テイラー・コールリッジの詩が出てきます』ということなんですね。その後コールリッジの詩についての解説もあるくらい重要なポイントなので、もともとコールリッジの有名な作品をご存じの方にはぜひお読みいただきたいSF小説となっています。

ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所 (河出文庫)


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エリザベス・ベア『スチーム・ガール』(創元SF文庫) [SF]

ゴールドラッシュでにぎわう港町ラピッド・シティの"裁縫館"で働くカレンはある日、悪辣な同業者バントルに終われる少女と出会う。折しも町では、カレンたち娼婦だけを狙う連続殺人鬼が出没して…
19世紀っぽい北米西海岸の港町を舞台にしたスチームパンク大活劇です。なんといってもここは新大陸ですから、インディアンとか保安官とか解放奴隷とかゴールドラッシュとか、アメリカならではの要素が山盛りなんですよ。人種もアメリカらしくロシア人、インド人、中国人などバラエティに富んでいてわくわくします。
スチームパンクというからには、現実とは少し違った方向に進化したテクノロジーもみどころです。裁縫の他にもいろいろできるミシン(表紙イラストにあります)のほかにも、日常を彩る見慣れない機械仕掛けがたくさん登場しますし、悪いやつらが使うあやしげな装置ももちろん登場します。
ちょっと古めかしい時代で繰り広げられるSFが好きな方はぜったい見逃してはいけませんよ。特に終盤で大喜びできます。証人は終盤で大喜びしたわたくしです。

スチーム・ガール (創元SF文庫)


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ピーター・ワッツ『ブラインドサイト〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

ある日突如として地球を覆った六万五千五百三十六個の正体は異星から送り込まれた探査機だった。特異な能力を持つメンバーを乗せ、宇宙船《テーセウス》は調査のため太陽系外縁部を目指して出発する……
この調査チームのリーダーが吸血鬼、そのほか平和主義の軍人と四重人格の言語学者と感覚器を機械化した生物学者、そして語り手の「統合者」は脳の半分を失った男です。吸血鬼は皆さんの知っている吸血鬼で、その生態についての生物学的な説明もおもしろいのですが、それは本書に含まれるアイデアのほんの一部です。
一人称で語り続ける主人公の設定も一風変わっていますし、そもそもあまりいいやつでもありませんし、人間と人間でないものの対話もひんぱんに出てくるので読んでいるとなかなか大変です。わたくしも全部わかったとは正直口が裂けても言えませんが、ものすごいことになっているSFであり、最後にはしみじみとSFを読んだ気持ちになったので紹介させていただきます。日本語版書き下ろし解説を寄せているテッド・チャンが「この本で書かれている主張には同意しないけどすごくおもしろいよ。同意しないけど」ということを何度も書いているので、その辺りからおもしろさをくみとっていただければ幸いです。
続編『エコープラクシア〔〕』もその後の地球に舞台を移し、人間置いてけぼりの未来世界が描かれる大変なSFです。解説がわかりやすいので、二作読んでもようわからんかった人にはぜひともご覧いただきたいです(ネタバレです)。

ブラインドサイト〈上〉 (創元SF文庫) ブラインドサイト〈下〉 (創元SF文庫)

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ジャック・ヴァンス『スペース・オペラ』(国書刊行会) [SF]

未知の惑星からやってきた第九歌劇団は、地球の人々の前でみごとなパフォーマンスを披露した後に忽然と姿を消した。彼らを探し出すべく、オペラを愛する資産家のデイム・イサベル・グレイスは世界中から選りすぐったメンバーで歌劇団を結成し、宇宙各地の惑星で地球のオペラを上演するツアーに出発する……
ということで、宇宙でオペラをやる小説です。いわゆるSFの一ジャンルとしてのスペース・オペラでは全然ないのでどうかご安心下さい(もしくはがっかりして下さい)。
地球人とはまったく異なる生態や文化を持つ人々にオペラが理解されるのかという問題ももちろんのこと、大所帯の歌劇団にはさまざまな騒動が持ち上がります。デイム・イサベルとその甥のロジャー・ウール、腹に一物ありげな水先案内人の船長に謎の美女らを中心に、行く先々の星でも宇宙船の中でもどたばたが繰り広げられます。
彼らの訪れる惑星の幻想的な風景、見たこともない奇妙な住人たちの描写も魅力的ですし、なぜか予定外の星への訪問を執拗に求める人物とその目的が明らかになる章など寄り道もあり、SFを読んでいる気持ちにさせてくれるのですが、それはそれとして地球の歌劇団の皆さんはしっちゃかめっちゃかです。
タイトルの中篇のほかに、またそれぞれにがらりと雰囲気が変わった四つの短篇が収録されています。頭を切り替えながらひとつひとつ味わいたいところです。

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

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キャリー・パテル『墓標都市』(創元SF文庫) [SF]

かつての文明を滅ぼした〈大惨事〉から数百年後、人々が地下で暮らす時代が続いている世界。ヴィクトリア朝時代の文化が栄え、過去の知識や文献が禁じられた都市リコレッタで歴史学者が殺害される事件が発生。市警察の捜査官マローンは新任のパートナーとともに捜査を開始するが、貴族階級からの妨害が入って……
文化レベルは19世紀の英国風ですが都市の建築技術は明らかに未来の産物ですし地上世界は一度滅びているらしい時代が舞台となるSFです。ただし読んでいるあいだの印象は、ほとんどがヴィクトリア朝風の階級社会で展開するミステリなんですね。マローンの捜査と並行して、殺人事件に巻き込まれたリコレッタの洗濯女ジェーンの冒険も語られ、きらびやかな上流社会と混沌とした下層階級の二重性が明かされてゆきます。
地上世界も人間の住めない場所ではなく農村や他の都市も存在するようなのですが、あくまでも都市内部でのできごとが中心になっているので、SFミステリではなく歴史ミステリみたような気持ちで読んでいました。終盤で大きな事件が起こり、いったん完結しながら次巻以降に続く結末となりますが、「第一部・完」の現在でもなかなか面白く読みましたので紹介させていただきます。

墓標都市 (創元SF文庫)

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今日泊亜蘭『光の塔』(ちくま文庫) [SF]

火星から地球へ帰る宇宙船の中から目撃された正体不明の閃光。同じころ地球では、すべての電気が一時的に機能を停止する謎の現象が頻発していた。奇怪な事件を前兆として、やがて事態は「光」を操る侵略者による人類への一方的な攻撃へと発展し……
最初に出たのが1962年ですからもう半世紀も前の小説です。それを差し引いてもあまりにも世界観が悪い意味で古めかしくて、読むのが疲れるのですが、これが間違いなく面白いんですよ。どこから来たのかも何が目的かもわからない対話不能の侵略者をはじめとして、ちょくちょくミステリ的な謎が提示されるのもストーリーを引っ張ってゆくポイントです。
未来社会とは思えないアナクロな設定が意図的なものであろうと思われますけれどもそれでもなお古い、という話は先ほどもしましたが、それでも終盤にて明かされる侵略者の正体についてはやはり大したものだとうならされました。主人公の身辺にかかわる伏線もちゃんと回収されます。
ただ登場人物の設定は本当に口にするのがはばかられるノリですよ。特に女性キャラの魅力のなさといったら、解説で野田昌宏に苦言を呈されるレベルです。これは明記しておかないと法に触れます。

光の塔 (ちくま文庫)

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ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

ネット上にドラッグのレシピが出回り、使用者の人格まで書き換える化学物質が出回る近未来の北米。精神疾患専門の治療施設に入院中の神経科学者ライダは、自分が十年前に仲間たちと開発し、世に出すことなく封印した化学物質が流通していることを知る。統合失調症の特効薬となるはずだったその薬物には、服用者に「神」の幻覚を見せるという副作用が……
まず主人公からして、自分にしか見えない天使(昔ながらの女医スタイル)の幻覚と会話しているですが、彼女の協力者をはじめとした主な登場人物がだいたいそんな感じなので心配しないで下さい。プリンタで出力された薬物がやりとりされている世界なんですよ。ちょっと想像しがたく思える設定ですが、天才科学者だった妻への追憶にさいなまれる主人公や薬物摂取で人格が一変する殺し屋、裏社会の大物おばあちゃんなど個性的なキャラクターたちにどんどん引き込まれていきました。
薬物によって自我があっさりと塗り替えられてしまう時代を背景にした脳科学SFであると同時に、十年前の事件の亡霊を追うミステリでもあり、カナダとアメリカを股にかけて展開する冒険小説のようでもあります。主人公とパートナーのやりとりの中でさらりと語られる脳科学豆知識など、すみずみまで少し先の未来らしさにあふれて読みごたえはたっぷりです。

迷宮の天使〈上〉 (創元SF文庫) 迷宮の天使〈下〉 (創元SF文庫)

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ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房) [SF]

第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、アメリカの西半分が日本合衆国となった1988年のロサンジェルス。検閲局に勤務する石村大尉は、アメリカが戦勝国となった世界を舞台にしたゲームがひそかに流行していると知らされる。そのゲーム「USA」のの開発には、かつて石村の上官だった人物が関係しているらしく……
表紙がものすごく日本のアニメっぽい人型巨大メカなのですが、それよりもフィリップ・K・ディックですよ。とにかく大変な『高い城の男』だったので大丈夫です、安心してお読み下さい。わたくしが保証します。どちらかといえば、表紙のメカが中盤までなかなか出てこないほうが心配です。
日本合衆国(以下USJ)はスマホのように多機能な端末として電卓が発展した便利な社会であり、ネットゲームや非合法の娯楽も発展していますが同時におそるべき管理社会でもあります。主人公も、彼と行動をともにする特別高等警察課員も肉体的精神的にきつい目に遭いますし誰かをきつい目に遭わせたりもします。血みどろの攻防と巨大メカの戦闘と反政府戦力とゲーセンが入り混じった、二十一世紀らしいとんでもない娯楽小説になっています。
ゲームの中に存在する夢と希望の「アメリカ合衆国」が現実にはあり得ないと知りながら読めば、さらにものがなしさが強まって味わい深くなります。本書のテーマと説得力については、解説で著者の略歴を読むと納得できるところがありますね。

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

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シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

アメリカの片田舎で見つかった、イリジウム合金製の巨大な手。それは数千年前に地球を訪れた何ものかが遺した、巨大な人型ロボットのパーツのひとつだった。発見者の少女ローズは後に物理学者となり、謎の人物「インタビュアー」とともに地球上に散らばったパーツを回収するプロジェクトを開始する。
これはロボットアニメ好きな人っぽいなぁというあらすじです。実際そんな調子なので日本のロボットアニメしか知らない方でも面白く読めると思います。正体不明のパーツがどこから来たのかとか、どうやら身長60メートル以上の女性型らしいとか、ロボットそのものについての謎と並行してプロジェクトにかかわる人々のドラマが進行するのが特にアニメ的です。
語り口が独特で、ほぼ前編がインタビュアーと呼ばれる正体不明の人物によるインタビューによって構成されています。この人はインタビューをするだけではなくパーツ回収プロジェクトの推進者でもあり、合衆国大統領補佐官とトークしたり個人的に外部の人間と対話したりと忙しい人物です。他にも軍のパイロット、技術者、科学者などの行動と思惑が絡み合い、上巻の終わりで起きる衝撃的な事件からは予想外の展開が相次ぎます。本作はいったん上下巻で終わっているのですが、さいごにもうひとつびっくりする展開が用意されていますので続編の翻訳を楽しみに待ちましょうね。
巨神計画〈上〉 (創元SF文庫) 巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

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