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西成彦『世界イディッシュ短篇選』(岩波文庫) [海外小説]

東欧系ユダヤ人の日常言語であるイディッシュ語による創作作品集です。共通点はそれだけなので、国も世代もばらばらです。
アルファベット表記だとドイツ語みたような雰囲気になるのでヨーロッパ系のイメージを持っていたのですが、ヘブライ文字表記だと右から左へ書きますしまったく違う印象になりますね。表紙がヘブライ文字なのでどうぞご覧下さい。
イディッシュ語による創作という一点でのみ結ばれた作品群でありながら、確かにイディッシュ文学というものは存在するんですね。手に取った時点でわたくしが知っていた名前は二つしかなかったんですけれども、略歴がついているので知らない人でも安心です。時代背景もあり、世界のあちこちに移動している作家が多く、流浪の悲しみのみならず軽妙さも感じられるところがありました。
「イディッシュ語」の成立が案外最近であることや、そこに至るまでの事情については巻末の解説に詳しいのであわせて読むと大変興味深いです。特に南アフリカでの流れがわかると、巻末の「ヤンとピート」の衝撃が深みを持ってきます。

世界イディッシュ短篇選 (岩波文庫)


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エドワード・ケアリー《アイアマンガー三部作》(東京創元社) [海外小説]

ごみの山から財を築き上げ、ロンドン郊外に巨大な屋敷を構えるアイアマンガー一族。生まれたときに与えられる「誕生の品」を一生身につけることを義務づけられた彼らの一人クロッドは、物の声が聞こえるという不思議な力を持っていた……
べらぼうに面白い以外の感想がないのですが、まず最初の滑り出しはこんな感じです。ごみの中の屋敷に暮らすアイアマンガー一族の異様さも不気味で目を引きますし、彼らとともに暮らす使用人たちや屋敷の外で生きる人々の姿もまた奇怪です。
ごみとアイアマンガー一族は文字通り切り離せない関係であり、おかげで全編がらくたやほこりや廃棄物にまみれた世界なのですが、思わず笑ってしまうような極端な個性づけをされたキャラクターがあまりに滑稽で漫画っぽいので抵抗なく読み進められました。ただ食事中に読むのは控えたほうがいいかもしれません。面白くて止まらない本ですがあんまりおすすめできません。
第一部はほとんどが屋敷の中で展開しますが、その後舞台はごみの山を離れてヴィクトリア女王の治めるロンドンに移ります。当時のロンドンの衛生状態が相当にひどかったことを考え合わせると、架空の物語にも一段上の現実味がにじみ出てきます。歴史小説のようでもあり絵本のようでもあり、ジャンル分けはどうでもいいのでとにかく大変面白いお話でした。

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1) 穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2) 肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)

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パトリシア・ハイスミス『見知らぬ乗客』(河出文庫) [海外小説]

不実な妻に悩まされる建築家ガイ・ヘインズは、離婚のための話し合いに向かう列車の中で、富豪の父を憎む青年ブルーノと知り合う。ブルーノがガイの妻を、ガイがブルーノの父を、お互いに邪魔な相手を殺す交換殺人を持ちかけられたガイは、真に受けることなくその場を後にするが……
著者の第一長編で映画化もされた小説の新訳決定版です。旧訳は入手しにくい状況が続いていたそうなので大変めでたいことです。
殺人をもくろむ人物は読者には最初からわかっているので倒叙ミステリというジャンルになるのでしょうか。ただしミステリかどうかは置いといても、先を知らずにどんどんページをめくっていってほしい小説なのであまりネタバレになるようなことが書けません。思いがけない展開と感じる人も予想通りの流れと感じる人もいそうです。わたくしは、まぁそうなるわなぁと思っていたら何度か本を取り落としそうになりました。
どう面白かったかと尋ねられると「ろくでもないやつがひどい目に遭うのがよかった」と答えざるを得ず、それではわたくしの人格が疑われそうなんですけれども、ろくでもない二人の男の苦悩と愚行を他人事のように眺めて面白い、ほんとうにそういう小説でした。

見知らぬ乗客 (河出文庫)


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アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ〔上・下〕』(ハヤカワ文庫) [海外小説]

父親の暴力によって崩壊した家庭で育った三人兄弟。やがて独立した彼らは軍の倉庫から大量の武器を入手し、スウェーデン史上に例のない連続銀行強盗を計画する。
次々に銀行を襲う三人兄弟の過去と現在、彼らにかかわる人々、そして正体不明の強盗団に立ち向かうストックホルム市警のブロンクス警部の視点が交互に入れ替わりながらストーリーが進みます。あらすじはとてもシンプルなんですけれども言葉にならないくらい面白いです。実際の事件をモデルにした作品であり、それゆえのリアリティと描写の説得力については訳者あとがきと解説に詳しいのでどうか読了後にご覧下さい。
これは暴力と家族愛についての小説なんですよ。肉体的な苦痛の描写は少なくありませんし、精神的な苦しみについての記述はもっと多くてとても重たいのですが、小説としてほんとうに面白くて止まりません。過去から現在に至るまで暴力があふれているにも関わらず、これは紛れもなく家族愛の物語です。家族が団結すればどんな困難も乗り越えられると説く父親のいる家庭から、経験も裏社会とのつながりもなく銀行強盗を計画する長男が生まれるんですよ。
中心となるのは連続強盗犯の兄弟とそれを追跡する警部ですが、彼らを取り巻く多数の登場人物にも忘れがたいものがあります。共犯者となる兄弟の幼なじみや恋人、絵に描いたような理想の家庭を持つブロンクスの上司、事件現場に居合わせて被害者となった人々など……これは読んでいただきたいのでページ数で書くんですけれども、わたくしは下巻193ページの兄弟のやりとりでこの本を読んで良かったと心から思いました。

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫) 熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

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イジー・クラトフヴィル『約束』(河出書房新社) [海外小説]

ナチス・ドイツ保護領時代のチェコで鍵十字をかたどった邸宅を設計した過去を持つ建築家モドラーチェクは、共産体制下の現在もなお秘密警察のラースカ警部補につきまとわれていた。最愛の妹が秘密警察の尋問のあいだに命を落としたと知った彼は、恐るべき復讐をくわだてるのだが……
どんな復讐かここでは伏せますが、あまりにも明白なヒントが出るので始まる前にだいだいおわかりになるかと思います。たった一人の建築家に成し遂げられるのかと心配になりますが、実のところそんなに大丈夫でもなく想定外の事態へと突入します。失敗したわけでもなさそうなんですけれども、まぁ予想外です。
建築家モドラーチェクをはじめ、本名がひどいラースカ警部補、ヨガのポーズで事件の真相を透視する探偵ダン・コチーなど、複数の登場人物の視点を切り替えながら語られる本書は復讐をテーマにしたミステリのようですが、実のところ本当にグロテスクなのは主人公の選択ではなく、彼が生きている世界のほうでした。少年時代に父親が亡命し、秘密警察につきまとわれて過ごした著者自身の経験も織り込まれた展開は重苦しさがつきまといますけれども、現場近くで逆立ちを決めないと推理できない探偵なんて人も登場しますし、笑いに突き抜けた不条理さもちゃんと含まれています。
あとですね、本筋にも関係があるので書いておくとナボコフ好きの方にもおすすめです。知らなくても大丈夫です(読みたくなるかもしれません)。

約束


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ベン・ファウンテン『ビリー・リンの永遠の一日』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

たまたま戦場にテレビの撮影クルーが居合わせたことから、イラク戦争の英雄となったビリー・リンとブラボー分隊の仲間たち。二週間の一時帰国となり、アメリカ本国で各地のイベントにかり出される彼らは、現代アメリカと戦場の落差を目の当たりにさせられることに。
表題となっている一日のできごとを、主人公ビリーの回想を交えて語る長篇小説です。つまり作中の時間としてはほぼ一日で、その中にアメフトのハーフタイムショーへのゲスト出演やら、自分たちを映画化しようと寄ってくるプロデューサーやら、志願するまでのいきさつや家族との再会、驚くほど短い時間で落ちた恋、戦死した仲間の記憶、二日後には戦地に戻らなければならない現実、やたらフレンドリーに話しかけてくるアメリカ市民の皆さんなどがぎっしり詰まっています。
裏表紙のあらすじを見ただけでもわかってしまうくらい憤りを呼ぶひどい話なんですけれども、それはそれとして面白いんですよ。人の不幸が楽しいんじゃなくて笑えるという意味で。二転三転する映画プロデューサーの儲け話とか気の置けない兵士たちの会話とか、少し裏側を見ればやっぱりひどい話まみれなんですけれども。
さいごに一つ、どうせこのまま戦場に戻って終わるのだろうと思っていたことをお詫び申し上げます。

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

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アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(東京創元社) [海外小説]

誕生と同時に祖母から不思議な力を授かったが、そのために苦難の多い人生をたどることになったウィアード家の五人兄妹。余命わずかな祖母から自分たちに与えられた「
祝福」の話を聞かされた三女アンジーは、呪いとなってしまったその力を取り払うため、五人を祖母の元へ集めるべく旅に出ることに。
二十一世紀に出た本ですから現代を舞台にしていると思われるんですけれども、生まれたときに祝福されて不思議な力に守られた子どもたちですよ。まるっきりおとぎ話を現代でやっている世界で、でもみんなそんなに幸せそうでもないんですね。「道に迷わない」「危険を回避する」など、祝福としか呼びようのない力を持っていながら思い通りにいかない人生を送る彼らには教訓的なメッセージも感じられ、そういった意味でも現代のおとぎ話あるいは寓話という印象を受けました。
この一家は他にも問題を抱えていて、五人兄妹の旅は祖母に面会するだけで終わるわけではありません。そのあたりも含め、詠む人によっては笑ってばかりいられない深刻な小説であり、一方で型破りな一族の型破りな和解の物語でもあります。

奇妙という名の五人兄妹


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チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社) [海外小説]

急速に都市開発が進む1970年代の韓国を舞台に、住居を失い貧富の格差が広がる社会で生きる人々の姿を描く連作小説集です。初出時はさまざまな雑誌に一つずつ発表されており(このあたりの事情は訳者あとがきに詳しいです)、一冊にまとめられたことでプロローグとエピローグの存在する長編小説のかたちとして通して読むことができるようになっています。
全十二章の語り手は交代しながら再登場し、また他の人物から見た姿で別の短編に姿を現します。最初に発表されたように一つずつでも読めますし、全体を順番に読むと配列の工夫にうならされました。
発展のかげで踏み潰される弱者をテーマにした本書は、二十世紀後半の韓国の小説であると同時に世界のどこでも起こりうる社会の姿を活写する普遍性があります。現代の韓国、高度成長期または現代の日本に置き換えても通用するでしょう。社会問題を扱った小説として読みごたえがあるだけでなく、枠物語ともとれる構成とタイトルからにじみ出る詩情がとても好きです。

こびとが打ち上げた小さなボール


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ウェルズ・タワー『奪い尽くされ、焼き尽くされ』(新潮社クレスト・ブックス) [海外小説]

物騒なタイトルですけれどもそんなにバイオレンスに満ち満ちているわけではありません。もっとしけた感じの、安らかではない、登場人物全員が現在にいらついているような短篇集です。読みたくねぇなぁそんなもんと思いますでしょ。でも面白いんですよ。
そもそも自分とまったく関係のない他人がつまらなそうにしている姿というのは(自分とまったく関係がないので)面白いもんじゃないですか。それぞれの背景に見え隠れする家族とのもめ事や移動遊園地の事件など、いかにも現代アメリカらしい事情も読者の興味を引きます。さいごに置かれた表題作だけは現代ではなく、海を越えて略奪に繰り出すヴァイキングたちの話なのですが、血なまぐさくもすっきりしない味わいです。
どれも楽しくない話ではあるものの随所にユーモアがにじんで、深刻な顔で読み続けるのは難しいです。笑い事じゃないけど笑ってしまう空気ですね。

奪い尽くされ、焼き尽くされ (新潮クレスト・ブックス)


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シャーリィ・ジャクスン『処刑人』(創元推理文庫) [海外小説]

家族の元を離れ、大学進学と同時にはじめての寮生活に入った17歳のナタリー。抑圧的な家族から離れたものの、不可解な大学生活の習慣や尊大な上級生たちに振り回される夢見がちな彼女は、やがてトニーという風変わりな少女と親しくなるのだが……
主人公のナタリーが相当に変わった少女で、家族との会話と並行して刑事に尋問される自分をありありと想像していたりするんですよね。ただし妄想で自分を守っているわけではなくほんとうにナイーブで不安定で、寮での生活が始まる前から彼女の世界は不安な予感にあふれています。大学でも開放されるどころか別の閉塞感に悩まされ(二十世紀半ばの女子教育を視野に入れた読み方ができると思います)、ようやくトニーという友人を見つけるのはかなりページ数が進んでからになります。
最後の最後まで息詰まる不安感が抜けない、表紙とはうらはらに落ち着きのないこわい小説ですが、ラストシーンは著者の作品としてはさわやかで前途の開けた印象をわたくしは受けました。

処刑人 (創元推理文庫)


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