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西成彦『世界イディッシュ短篇選』(岩波文庫) [海外小説]

東欧系ユダヤ人の日常言語であるイディッシュ語による創作作品集です。共通点はそれだけなので、国も世代もばらばらです。
アルファベット表記だとドイツ語みたような雰囲気になるのでヨーロッパ系のイメージを持っていたのですが、ヘブライ文字表記だと右から左へ書きますしまったく違う印象になりますね。表紙がヘブライ文字なのでどうぞご覧下さい。
イディッシュ語による創作という一点でのみ結ばれた作品群でありながら、確かにイディッシュ文学というものは存在するんですね。手に取った時点でわたくしが知っていた名前は二つしかなかったんですけれども、略歴がついているので知らない人でも安心です。時代背景もあり、世界のあちこちに移動している作家が多く、流浪の悲しみのみならず軽妙さも感じられるところがありました。
「イディッシュ語」の成立が案外最近であることや、そこに至るまでの事情については巻末の解説に詳しいのであわせて読むと大変興味深いです。特に南アフリカでの流れがわかると、巻末の「ヤンとピート」の衝撃が深みを持ってきます。

世界イディッシュ短篇選 (岩波文庫)


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新版画展 美しき日本の風景(~8/1) [美術鑑賞]

美術館「えき」KYOTOにて「新版画展 美しき日本の風景」を見てきました。一ヶ月くらいしかやっていないので大急ぎです。
江戸時代の浮世絵につづき、大正時代から昭和初期にかけて発展した新版画というジャンル、見ていただければ一目でわかるんですけれども、明らかに浮世絵と違う色使いがすてきです。印象派みたいなやわらかな色使いと陰影あり、逆に浮世絵っぽいくっきりしたシルエットと構図あり、時期と作者によって雰囲気もいろいろで見ていて飽きません。
今回は風景画に絞っての展示ということで、日本各地の景色を存分に楽しめます。浮世絵の流れにつながっているので連作などもあるんですけれども、プライベートで山が好きだった吉田博さんという人の「日本アルプス十二題」などは葛飾北斎「諸国瀧廻り」を連想させながら、いかにも明治大正らしくてわくわくしました。
浮世絵とは違うし日本画とも西洋画ともまた違う、いつまでも眺めていたくなる味わいのある作品ぞろいです。どうも浮世絵に比べると圧倒的に知名度が低いような気がしているので(わたくしが)、皆さん京都駅までちょっと新幹線に乗って見に来ていただきたいんですよね。
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エドワード・ケアリー《アイアマンガー三部作》(東京創元社) [海外小説]

ごみの山から財を築き上げ、ロンドン郊外に巨大な屋敷を構えるアイアマンガー一族。生まれたときに与えられる「誕生の品」を一生身につけることを義務づけられた彼らの一人クロッドは、物の声が聞こえるという不思議な力を持っていた……
べらぼうに面白い以外の感想がないのですが、まず最初の滑り出しはこんな感じです。ごみの中の屋敷に暮らすアイアマンガー一族の異様さも不気味で目を引きますし、彼らとともに暮らす使用人たちや屋敷の外で生きる人々の姿もまた奇怪です。
ごみとアイアマンガー一族は文字通り切り離せない関係であり、おかげで全編がらくたやほこりや廃棄物にまみれた世界なのですが、思わず笑ってしまうような極端な個性づけをされたキャラクターがあまりに滑稽で漫画っぽいので抵抗なく読み進められました。ただ食事中に読むのは控えたほうがいいかもしれません。面白くて止まらない本ですがあんまりおすすめできません。
第一部はほとんどが屋敷の中で展開しますが、その後舞台はごみの山を離れてヴィクトリア女王の治めるロンドンに移ります。当時のロンドンの衛生状態が相当にひどかったことを考え合わせると、架空の物語にも一段上の現実味がにじみ出てきます。歴史小説のようでもあり絵本のようでもあり、ジャンル分けはどうでもいいのでとにかく大変面白いお話でした。

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1) 穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2) 肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)

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パトリシア・ハイスミス『見知らぬ乗客』(河出文庫) [海外小説]

不実な妻に悩まされる建築家ガイ・ヘインズは、離婚のための話し合いに向かう列車の中で、富豪の父を憎む青年ブルーノと知り合う。ブルーノがガイの妻を、ガイがブルーノの父を、お互いに邪魔な相手を殺す交換殺人を持ちかけられたガイは、真に受けることなくその場を後にするが……
著者の第一長編で映画化もされた小説の新訳決定版です。旧訳は入手しにくい状況が続いていたそうなので大変めでたいことです。
殺人をもくろむ人物は読者には最初からわかっているので倒叙ミステリというジャンルになるのでしょうか。ただしミステリかどうかは置いといても、先を知らずにどんどんページをめくっていってほしい小説なのであまりネタバレになるようなことが書けません。思いがけない展開と感じる人も予想通りの流れと感じる人もいそうです。わたくしは、まぁそうなるわなぁと思っていたら何度か本を取り落としそうになりました。
どう面白かったかと尋ねられると「ろくでもないやつがひどい目に遭うのがよかった」と答えざるを得ず、それではわたくしの人格が疑われそうなんですけれども、ろくでもない二人の男の苦悩と愚行を他人事のように眺めて面白い、ほんとうにそういう小説でした。

見知らぬ乗客 (河出文庫)


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酉島伝法『皆勤の徒』(創元SF文庫) [SF]

大変けっこうなSF小説です。わたくしは面白かったのですがだいぶくせのある描写と設定なので人を選びそうです。作者自身のイラストとあわせて虫とか臓物のようなものがたくさん出てくるので、まずは表紙を見て大丈夫そうな方と、未来における人類の存亡についてこだわりがない方に向いています。あとは『風の谷のナウシカ』の腐海の描写だけが好きな人とか、山尾悠子が好きな人に見ていただきたいです。意外と思われるかもしれませんがいけます。「破壊王」や「夢の棲む街」に似た歯ごたえがあります。
冒頭に収録された表題作は、よく見る単語に新しい意味と漢字を与えた風刺系ギャグかと思っていたですが(「外回り」が登場した時点でもう笑わずにいるのが無理でした)、どうも続く連作を読んでいくとそうでもないんですよ。われわれの知る人類や静物に近いキャラクターも出てきますし、ひとつずつがらりと趣をかえてゆく全四編と短い断章を通って解説にたどりつくと、やっと全貌がわかりやすく説明されてれっきとしたSFとして納得できました。
こちらの解説がほんとうにありがたくなる、床に額をつけて拝みたくなる明快さと濃密さでございました。読んでいるあいだは、ある程度何を言っているかわからないままでも問題ない小説なので、先ほどあげた条件がクリアできる方にはぜひともお試しいただきたい本です。お試しというのはこの場合「一度通して解説まで読む」ということです。

皆勤の徒 (創元SF文庫) (創元SF文庫)


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アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ〔上・下〕』(ハヤカワ文庫) [海外小説]

父親の暴力によって崩壊した家庭で育った三人兄弟。やがて独立した彼らは軍の倉庫から大量の武器を入手し、スウェーデン史上に例のない連続銀行強盗を計画する。
次々に銀行を襲う三人兄弟の過去と現在、彼らにかかわる人々、そして正体不明の強盗団に立ち向かうストックホルム市警のブロンクス警部の視点が交互に入れ替わりながらストーリーが進みます。あらすじはとてもシンプルなんですけれども言葉にならないくらい面白いです。実際の事件をモデルにした作品であり、それゆえのリアリティと描写の説得力については訳者あとがきと解説に詳しいのでどうか読了後にご覧下さい。
これは暴力と家族愛についての小説なんですよ。肉体的な苦痛の描写は少なくありませんし、精神的な苦しみについての記述はもっと多くてとても重たいのですが、小説としてほんとうに面白くて止まりません。過去から現在に至るまで暴力があふれているにも関わらず、これは紛れもなく家族愛の物語です。家族が団結すればどんな困難も乗り越えられると説く父親のいる家庭から、経験も裏社会とのつながりもなく銀行強盗を計画する長男が生まれるんですよ。
中心となるのは連続強盗犯の兄弟とそれを追跡する警部ですが、彼らを取り巻く多数の登場人物にも忘れがたいものがあります。共犯者となる兄弟の幼なじみや恋人、絵に描いたような理想の家庭を持つブロンクスの上司、事件現場に居合わせて被害者となった人々など……これは読んでいただきたいのでページ数で書くんですけれども、わたくしは下巻193ページの兄弟のやりとりでこの本を読んで良かったと心から思いました。

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫) 熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

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ダグラス・アダムス『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』(河出文庫) [SF]

紹介しようとしてストーリーの説明にものすごく困っています。
続発する怪事件に巻き込まれ、恋人との仲直りも思うようにゆかず八方塞がりの主人公リチャードが、変人として有名だった旧友ダーク・ジェントリーに助けを求める話なんですけれども、タイトルにある探偵事務所に駆け込むまでに全体の半分くらいが経過しています。そこに至るまでにリチャードの上司は殺害されて幽霊になるわ、恩師の教授は種も仕掛けもわからないマジックを披露するわ、電動修道士は荒野をさまようわでえらいことです。
私立探偵が出てきますし、殺人事件は起きますし、主人公は容疑者として追われますし、タイトルに探偵事務所が入っていますし、ミステリっぽく見えるですが表紙がなんだかよくわからないことになっています。でも大学のキャンパス・小太りの男・電話・コンピュータ・ソファ・車・切手・鳥・ドアなど、ここに写っているものはちゃんと全部出てきますし、何が何だかわからない事件はおおむね解決します。ただしミステリというよりSFと呼びたい真相が待っているので、SF小説として分類させていただきます。
特筆すべきは「訳者まえがき」がついていることです。そこまでして読者に伝えたいことは何かと言いますと『本書にはサミュエル・テイラー・コールリッジの詩が出てきます』ということなんですね。その後コールリッジの詩についての解説もあるくらい重要なポイントなので、もともとコールリッジの有名な作品をご存じの方にはぜひお読みいただきたいSF小説となっています。

ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所 (河出文庫)


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E・F・ベンスン『見えるもの見えざるもの』(アトリエサード) [幻想文学]

大変けっこうな短篇集でした。怪談の本なので、けっこうというのはこの場合「生活に悪い影響を与えない程度にこわい」という意味です。
以前に出ていた同じ作家の『塔の中の部屋』に比べると、ぐっと近代的な印象を受けました。出版年も十年以上空いていますし、科学者とか降霊会がどんどん出てきますしね。とはいうもののやはり現代まではまだしばらく時間のある時代、怪物や幽霊に限らない怪異が出てくるところは前作と変わっていません。次はどんなこわい話が飛び出すのか、わくわくしながら読み進めました。
さいごに置かれた「ロデリックの物語」の語り手はベンスン本人をモデルにしたと思われる作家で、彼と友人のやりとりには予想外のユーモアを見た気がしました。実話かどうかはわかりませんが、これもちゃんとこわいです。
見えるもの見えざるもの (ナイトランド叢書3-1)


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ジョーン・エイケン『レンタルの白鳥』(文芸社) [幻想文学]

ジョーン・エイケンの本は子どものころ図書館の児童室にあったのを読んでいて大好きでした。こちらは大人向けの短篇集です。
サブタイトルが「その他のちょっと怖いお話十五篇」なんですけれども、ちょっとどころではなく怖いです。得体の知れない存在の引き起こす理不尽な出来事ももちろん怖いですし、身近に実在しなくてほんとうによかったと思わされるような人間も登場します。淡々と人が死んだり事故に遭ったりしますし。
どこまでをファンタジーとするかの線引きはあまり気にせずに読める、とにかく怖い本です。表題作は(比喩表現ではなく、じっさいに魔法が出てくるタイプの)現代のおとぎ話で、後半の展開に本を取り落としそうになりました。怖いですよ。わたくしは「この暗い道路を下って行くのはだれか」がどうしようもなくて特に好きです。
あとこれは書かないと訴えられるかもしれないので明記しておくですが、日本語訳の文章がわたくし基準でだいぶぎこちなく感じられました。

レンタルの白鳥 その他のちょっと怖いお話十五篇


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長山靖生編『豊島与志雄メランコリー幻想集 丘の上』(彩流社) [国内小説]

豊島与志雄をご存じですか。内田百閒や芥川龍之介の友人で、彼らと同じ学校でフランス語を教えていたこともある人です。『レ・ミゼラブル』を翻訳した人でもあります。
わたくしはたまたま童話作家としての彼を知っていて、ふしぎで牧歌的で少しかなしい作品群が大好きなのですが、本書は子どもに見せても全然おもしろくなさそうな作品ばかりです。
現実の世界を舞台にしているはずなのにどこか地に足がついていないような、別の世界を見ているような人々がたくさん出てくるんですよ。「秦の憂愁」や「沼のほとり」といった豊島が生きた時代を背景にした作品も、そんなに昔ではない中国を舞台にした作品も、実在したとしてもおかしくない登場人物を配しながら疑いようもなく幻想的です。
さいごに置かれた「絶縁体」はなんだか随筆っぽく(だからといって実話とは限りません)、隣のおじいさんが変わり者である話なんですけれども、このおじいさんにはわたくし割と共感しましたね。わかりみがあります。

丘の上 豊島与志雄 メランコリー幻想集


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