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エリザベス・ベア『スチーム・ガール』(創元SF文庫) [SF]

ゴールドラッシュでにぎわう港町ラピッド・シティの"裁縫館"で働くカレンはある日、悪辣な同業者バントルに終われる少女と出会う。折しも町では、カレンたち娼婦だけを狙う連続殺人鬼が出没して…
19世紀っぽい北米西海岸の港町を舞台にしたスチームパンク大活劇です。なんといってもここは新大陸ですから、インディアンとか保安官とか解放奴隷とかゴールドラッシュとか、アメリカならではの要素が山盛りなんですよ。人種もアメリカらしくロシア人、インド人、中国人などバラエティに富んでいてわくわくします。
スチームパンクというからには、現実とは少し違った方向に進化したテクノロジーもみどころです。裁縫の他にもいろいろできるミシン(表紙イラストにあります)のほかにも、日常を彩る見慣れない機械仕掛けがたくさん登場しますし、悪いやつらが使うあやしげな装置ももちろん登場します。
ちょっと古めかしい時代で繰り広げられるSFが好きな方はぜったい見逃してはいけませんよ。特に終盤で大喜びできます。証人は終盤で大喜びしたわたくしです。

スチーム・ガール (創元SF文庫)


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いとうせいこう『想像ラジオ』(河出文庫) [国内小説]

深夜二時四十六分、高い杉の木の上に引っかかったDJアークがお送りする想像ラジオ。スポンサーもスタジオもラジオ局もなく、リスナーの皆さんの想像力によってお届けする深夜番組、ということになっていますけれども、あなたの想像力の中でだけオンエアされるので実は昼夜も関係ない番組。ラジオですからおしゃべりの間に音楽もかかりますが、これもリスナーの想像力任せなので選曲とは別のナンバーがかかったり、何なら音楽をすっ飛ばして次のコーナーに行ったりします。
何を言っているのかわからないようなお話ですが、DJアーク(本名は芥川さん)がどんな人で、どういうつもりでこのラジオをやっているのか、読んでいるうちにだんだん見えてきます。リスナーからのメールや電話中継もまじえての想像ラジオを文字で追っていくうちに、どうもこのDJは……というのがだんだん読者にもわかってきます。
全五章のうち第二章と第四章では、本の中の世界で想像ラジオを聴く側の人たちが出てきます。どうやら聴こえる人と聴こえない人がいるらしいこと、このラジオがいつごろ、どんな人たちのあいだで聴かれているのかも明らかになります。
本書が最初に刊行されたのは2013年3月で、そのときに出たことに意味はあるのですが、想像ラジオはそれより前から聴こえていたのかもしれないし、これから先にまた別のDJで始まることもきっとあるのでしょう。

想像ラジオ (河出文庫)

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アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(東京創元社) [海外小説]

誕生と同時に祖母から不思議な力を授かったが、そのために苦難の多い人生をたどることになったウィアード家の五人兄妹。余命わずかな祖母から自分たちに与えられた「
祝福」の話を聞かされた三女アンジーは、呪いとなってしまったその力を取り払うため、五人を祖母の元へ集めるべく旅に出ることに。
二十一世紀に出た本ですから現代を舞台にしていると思われるんですけれども、生まれたときに祝福されて不思議な力に守られた子どもたちですよ。まるっきりおとぎ話を現代でやっている世界で、でもみんなそんなに幸せそうでもないんですね。「道に迷わない」「危険を回避する」など、祝福としか呼びようのない力を持っていながら思い通りにいかない人生を送る彼らには教訓的なメッセージも感じられ、そういった意味でも現代のおとぎ話あるいは寓話という印象を受けました。
この一家は他にも問題を抱えていて、五人兄妹の旅は祖母に面会するだけで終わるわけではありません。そのあたりも含め、詠む人によっては笑ってばかりいられない深刻な小説であり、一方で型破りな一族の型破りな和解の物語でもあります。

奇妙という名の五人兄妹


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グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』(国書刊行会) [幻想文学]

表題作「ワルプルギスの夜」と「白いドミニコ僧」のふたつの長篇、初期短篇と後期短篇、さらにエッセイまで収録したずっしり重い一冊です。表紙もかっこいいです。
幻想小説集ですから幻想的な作品ばかり入っています。つまり何を言っているかわからない話、話者の頭を疑うような話、読者が自分の目を疑うような話でいっぱいです。ものすごく濃密で楽しくて、そして胃にもたれるので体調のいいタイミングを狙って読むべきです。
第一次世界大戦中のプラハにちなまぐさい戦いの歴史がよみがえる表題作、既にこの世にいない人物が作家の筆を通して語る「白いドミニコ僧」、続けて読むと脳がかなり疲れます。近代ヨーロッパの幻想小説かと思っていると、もっと古い時代から続く東洋の神秘思想が登場したりするんですよ。このあたりのアイデアはマイリンク自身の経験にもとづくもので、エッセイや解説でその一端に触れられます。作品もとんでもないですが本人も割と思想的に波瀾万丈の人生を送った人のようです。
いっしょに収録された短篇は、そこまでわかりづらいこともなく(短いですし)すらすらと読めると思います。特に後期のものはボルヘス的な味わいがあって楽しいですよ。

ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集


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チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社) [海外小説]

急速に都市開発が進む1970年代の韓国を舞台に、住居を失い貧富の格差が広がる社会で生きる人々の姿を描く連作小説集です。初出時はさまざまな雑誌に一つずつ発表されており(このあたりの事情は訳者あとがきに詳しいです)、一冊にまとめられたことでプロローグとエピローグの存在する長編小説のかたちとして通して読むことができるようになっています。
全十二章の語り手は交代しながら再登場し、また他の人物から見た姿で別の短編に姿を現します。最初に発表されたように一つずつでも読めますし、全体を順番に読むと配列の工夫にうならされました。
発展のかげで踏み潰される弱者をテーマにした本書は、二十世紀後半の韓国の小説であると同時に世界のどこでも起こりうる社会の姿を活写する普遍性があります。現代の韓国、高度成長期または現代の日本に置き換えても通用するでしょう。社会問題を扱った小説として読みごたえがあるだけでなく、枠物語ともとれる構成とタイトルからにじみ出る詩情がとても好きです。

こびとが打ち上げた小さなボール


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G・K・チェスタトン『ポンド氏の逆説』(創元推理文庫) [ミステリ]

温厚で小柄な紳士であるポンド氏には、会話の途中にさらりと突拍子もない発言をする奇妙な癖があった。何気ない世間話に別の方向から光を当て、意外な意外な真相を明らかにしてしまうポンド氏の論理の数々は……
死刑執行延期命令を持った使者が途中で死んだので囚人は釈放された、と言われたら「ん?」と思いますよね。そんな感じの首をかしげたくなるエピソードが、驚くことに間違いなく論理的な解説といっしょにぞろぞろ出てきます。ミステリ中心の文庫から出ていますけれども、身近で起きた犯罪や謎よりはもうちょっと非日常的な、でもシンプルな殺人や盗難ではない事件が多いんですよ。スケールの大きな設定も含まれていて、現代日本で読むと歴史小説のような趣を感じられて楽しいです。
作品それ自体とはあまり関係のないところの話をしますと、訳・南條竹則&解説・西崎憲って組み合わせ、ミステリファンよりむしろ幻想小説ファンが色めき立つ組み合わせじゃありませんかね。

ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫)


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ウェルズ・タワー『奪い尽くされ、焼き尽くされ』(新潮社クレスト・ブックス) [海外小説]

物騒なタイトルですけれどもそんなにバイオレンスに満ち満ちているわけではありません。もっとしけた感じの、安らかではない、登場人物全員が現在にいらついているような短篇集です。読みたくねぇなぁそんなもんと思いますでしょ。でも面白いんですよ。
そもそも自分とまったく関係のない他人がつまらなそうにしている姿というのは(自分とまったく関係がないので)面白いもんじゃないですか。それぞれの背景に見え隠れする家族とのもめ事や移動遊園地の事件など、いかにも現代アメリカらしい事情も読者の興味を引きます。さいごに置かれた表題作だけは現代ではなく、海を越えて略奪に繰り出すヴァイキングたちの話なのですが、血なまぐさくもすっきりしない味わいです。
どれも楽しくない話ではあるものの随所にユーモアがにじんで、深刻な顔で読み続けるのは難しいです。笑い事じゃないけど笑ってしまう空気ですね。

奪い尽くされ、焼き尽くされ (新潮クレスト・ブックス)


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日影丈吉『内部の真実』(創元推理文庫) [ミステリ]

日本統治下の台湾で起きた軍人同士の決闘騒ぎ。一人は銃殺、一人は頭部を殴られ意識不明の状態で発見された事件は単純なものと思われたが、現場に残された拳銃には不審な点が。やがて捜査の過程で複雑な人間関係が浮かび上がり……
戦時中の台湾の雰囲気がとても印象的なので、まずはそこを楽しんでいただきたいです。そのうえで大変に本格的なミステリでした。うかつにしゃべるとネタバレになってしまいそうなタイプの。
主な探偵役となるのは軍でも鑑識の専門家として一目置かれる大手大尉、ではなくその助手の勝永伍長です。愛嬌のある描かれ方をする彼とは別に、冒頭から語り部として登場する小高軍曹の視点でストーリーが進んでいくのですが、小高が密かに思いを寄せる女性や彼女をめぐる軍人たちが絡み、小さな社会での単純な事件は解決の気配も見えないまま迷宮へと運ばれてゆきます。
軍隊だとか痴情のもつれだとかいうとなんだかとてもなまぐさいお話のようですが、特異な状況設定からかまるで長い夢を見ているかのような不思議な小説でした。それでいて間違いなく、本格ミステリでもあったんですよ。

内部の真実 (創元推理文庫)


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キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』(創元推理文庫) [ミステリ]

クリスマスを目前にしたある日、二人の少女が姿を消した。一人は州副知事の娘、もう一人はその親友でホラーマニアの問題児。十五年前の同じ時期に起きた誘拐事件で妹を殺された刑事、顔に傷跡のある女性法心理学者、州警察の捜査官やFBIが手がかりを追っているころ、誘拐された少女たちは力を合わせて監禁場所からの脱出を試み……
捜査に当たるメンバーが色んなところから来ている上にあまり褒められない性格の人物も少なくなく、あちこちで揉めながら捜査を進めてゆく群像劇の趣があって面白いのですが、同時進行で語られる誘拐された少女たちの冒険も大変です。B級から名作まで大量のホラー映画を鑑賞し、血まみれの目玉などの小道具で大人を驚かすのが大好きな問題児が、ホラーマニアとしての知識を駆使して誘拐犯をあざむき親友を励ましながら戦う、滑稽だけど泣ける展開ですよ。彼女の話題が濃すぎて巻末に「映画に関する註」がついてくるレベルです。
パトカーが一台しかない小さな町の事件、関係者はだいたい全員が顔見知り、その中に犯人がいるはずの状況ながら終盤までいっさい姿を現さない描写もみごとです。なかなか分厚い文庫本ですが納得の読みごたえです。

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)


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J・L・ボルヘス『語るボルヘス』(岩波文庫) [随筆・日記]

ボルヘスが1978年にブエノスアイレスのベルグラーノ大学でおこなった連続講演の記録です。テーマは「書物」「不死性」「エマヌエル・スヴェーデンボリ」「探偵小説」「時間」。ボルヘスの講演記録は前にも日本語訳がいくつか出てきますけれども、話し言葉なのでエッセイや小説よりちょっとわかりやすくて親しみ深いような気がしますね。
とりわけ興味深かったのは「探偵小説」の章です。ポーの話から入るのでお題とは関係のなさそうな詩についてしゃべり始めたり、ボルヘス自身も探偵小説が好きだというくだりもあります。探偵小説をこんなアプローチから話す人はあまりいらっしゃらないと思うので、ミステリ好きの方にはぜひ手に取っていただきたいボルヘスですね。冒頭にも書きましたとおり、話し言葉でぐっと読みやすくなっていますので(純文学好きの方はわたくしが何もおすすめしなくてもボルヘスやミステリを読んでいらっしゃると思っています)。

語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか (岩波文庫)


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