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佐藤和歌子『間取りの手帖remix』(ちくま文庫) [実用書]

日本のどこかに存在する間取り図を集め、ひとことコメントを添えて紹介する本です。たまに間取りから生まれたショートストーリーやコラム、巻末では間取りをめぐる対談四編も楽しめてお得です。
間取り、つまり賃貸雑誌や物件情報に山ほど載っているあれを、ひたすら集めて鑑賞するだけなんですけれどもめちゃくちゃ面白いんですよ。かなり無茶な間取り、楽しそうな間取り、じっさいに住めるかとなるとちょっと考えてしまう間取りなど盛りだくさんです。家賃もいっしょに書いてあるのでついつい引っ越しを考えたくなりますが、ちょっと落ち着きましょう。
子どもの頃、チラシに載っている間取り情報を引っ越しの予定もないのに眺めているのが好きだったことを思い出しました。間取り好きの皆さん(こんな本が文庫化までされるくらいですから一定数存在するはずです)は必見です。ひょっとすると我が家の間取りを見直し、気付かなかったけど案外どうかしてるんじゃないかという発見をするきっかけになるかもしれません。

間取りの手帖remix (ちくま文庫)


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『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(白水社) [海外小説]

わたくしは今までウォーは長篇ばかり読んでいて、そもそも短篇の存在を知らないくらいの素人だったんですけれども、短篇もやっぱり間違いなく面白いですね。
訳者あとがきの引用にもあるとおり、どうしたって笑ってしまうんですけれども間違いなく悲劇的な作品ばかりです。逆にいえばひどい話だけど笑えるんですよ文句なしに。
家庭環境や教師時代など、作者自身の体験から生まれたエピソードが相当盛り込まれているのですが、さっきも書いたとおり笑えるけど悲劇的な小説ばかりなんですよね。それでもやっぱり笑えるんですよ、主人公がそんないい人じゃないのも含めて。
全15編の傑作の中には当時の社会を皮肉った面も少なからずありますけれども、そのあたりはあとがきでわかりますので気にせず笑ったりなんとも言えない顔になったりして下さい。わたくしはラストまで引っ張って引っ張って引っ張りまくる「ラヴデイ氏のちょっとした遠出」、短くきりっと終わって主人公が比較的無事に済む「気の合う同乗者」が特に好きです。

イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)


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本堂平四郎『怪談と名刀』(双葉文庫) [幻想文学]

名刀にまつわる怪談、と言いますか主に化け物退治のエピソードを集めた連作です。羅生門の鬼とかそのくらいメジャーなやつは敢えて省いて、民間収蔵の刀を取り上げているのが新鮮です。
まずは刀にまつわる奇談を語り、それからそれぞれの章末で刀や刀工の来歴についても説明してくれる構成になっています。著者はじっさいに刀を手にすることもあった人なので、この解説の部分が実に楽しそうです。明治生まれの人でもありますけれども、文章はたまに会話が擬古文になるくらいでとても読みやすいです。
出てくる怪異はだいたい猛獣であったり化け猫であったりたまに怨念だったりして、どれも化け物はきっちり退治する昔話のような世界です。刀の来歴はしっかりした歴史に基づいているようなのに当たり前のように不思議な話がセットでついてくるんですよ。もっとも長い「藤馬物語」は幕末が舞台で、著者自身が面識のある人物が主人公なのですが、時代の流れに翻弄されるばかりかと思いきや終盤でいきなり化け物退治になります。
刀剣をテーマに絞っただけでこれだけ怪談が出てくるとは想像していなかったので大変興味深く読みました。刀はそうでもなくても妖怪に興味ある人にも楽しめそうです。

怪談と名刀 (双葉文庫)

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シャーリィ・ジャクスン『鳥の巣』(国書刊行会) [海外小説]

博物館で働く平凡な女性エリザベスは原因不明の頭痛や、何ものかが自分に宛てて書いた手紙に悩まされていた。医師の診断を受けて明らかになったのは、彼女の中にひそむ別の人格の存在で……
1954年に発表された多重人格ものサスペンスです。ちょうどこのころに多重人格もののブームがあり、その中でも先駆けとなったのが本書だそうです。すでに何度か多重人格ブームを経た現在でも十分に新鮮で、かつ強烈にいやな感じです。
登場する人格は最初から登場する主人公を含めて全部で四人。決して多くはありませんし、その他の登場人物も主人公と同居する叔母さんと医師が二人くらいです。しかもほとんどのシーンでは一対一のやりとりで、どこをとっても落ち着かない緊迫感にあふれています。
重苦しくはあるものの、主人公の人格が次々に入れ替わり、振り回される医師が対応に悪戦苦闘するシーンなどは笑いを誘われます。なかなか意地悪で笑える作家でもあるんですよね。一方で一番怖かったのは、健康的な人であるはずの叔母さんとの対話です。
最終章において、主人公の複数の人格は無事ひとつに統合されているのですが、その後どうなったかは読者の想像にゆだねられている感じです。全然すっきりはしてませんね。

鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)


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マーガレット・ミラー『まるで天使のような』(創元推理文庫) [ミステリ]

無人の山中に置き去りにされたアマチュアギャンブラーの青年クインは、一夜の宿を求めて〈塔〉と呼ばれる新興宗教の施設にたどり着く。そこで出会った修道女からある男の捜索を頼まれるが、目的の人物は五年前に謎の死を遂げていた。
このあと主人公のクインは、何の関わりもない修道女の依頼を捨て置けずにずるずると調査を続けてゆくことになります。あらすじだけ見るとふつうのハードボイルド・ミステリのようですが、じっさいに読んでいると全編になんともいえない嫌な空気がただよっているのが印象的です。
主な舞台が住民の動向が全員に知れ割っているような小さな町と宗教団体の施設で、その中を行ったり来たりしながらひたすら閉鎖的な世界での人間関係をつきつめてゆく展開ですから、そりゃ重苦しくもなりますよ。
次から次へと事件が起こったり、新たな事実が明らかにされて息つく暇もないかというとさほどではないんですけれども、序盤から中盤、終盤までまんべんなく不気味で重たい雰囲気が楽しめます。読んでる最中の気持ちも読後感もたいへん良くない、それを全編保っていられるんですからまちがいなく傑作ではあります。しんどいですが傑作です。

まるで天使のような (創元推理文庫)

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小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』(角川書店) [SF]

全人類が記憶障害に陥り、外部記憶装置を利用して長期記憶を保存するようになった世界。個人の記憶がメモリとして保管可能な時代に、複数の人生を記憶している語り手「わたし」とは何者なのか?
第一部ではすべての人類が原因不明の記憶障害に見舞われ、それにともなって起こりうるカタストロフをすんでの所で回避する人々の奮闘が描かれます。分量としては全体の四分の一くらいですがスリルと緊迫感とイライラにあふれ(何せ記憶が続かないのでしょっちゅう同じやりとりを繰り返しているのです)、ここだけでも短篇小説として楽しめます。そのあとの短い幕間で外部記憶装置の発展と文明の再構築に至る経緯が語られ、それからようやく冒頭のあらすじに繋がります。
個人の記憶が保存された外部メディアというアイデア自体は、SFの世界ではだいぶ前からいくつもあると思うですが、USBメモリやウェアラブル端末が身近になった現在では説得力が格段に増しています。イタコや審神者など、日本の伝承をうまいこと織り込んであるのも面白いですね。
「わたし」が思い出す無数の記憶は、それ自体がSFのみならずミステリ、恋愛、人情噺などさまざまにジャンル分けできそうな短篇小説にもなっています。技術によって記憶が管理される世界がべつだん無味乾燥でもなく、かえって感情的な問題が次々に生まれつつあるのが読みどころです。

失われた過去と未来の犯罪


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ハンガリーの名窯 ヘレンド(~7/30) [美術鑑賞]

大阪市立東洋陶磁美術館の特別展「ハンガリーの名窯 ヘレンド」に行ってきました。
ヘレンドはハンガリー南西部の小さな村で、19世紀から磁器の生産が始まり、先行する各地の磁器に学んでほどなく高い水準に達したそうです。ハンガリーの小さな村と書きましたけれども、参考資料として出ている地図がヨーロッパ全体を網羅する勢いでしたからね。
ヨーロッパの富裕層や王侯貴族に愛された磁器ですから、どれをとっても驚くような美しさです。陶磁最先端の技術じゃないですかね、色も実に鮮やかなんですよ。彩色だけでなく造形もおもしろくて、編み目の透かし彫りやなんだかよくわからない生き物がたくさん見られました。美しいだけでなく、現在のわたくしたちからすると見ていて楽しい作風でもあります。
また、びっくりするほど中国~日本のやきものを意識した作品が多かったです。そのまま伊万里風なのもありますし中国っぽい様式や色使いなど、当時のブームが痛感されます。量は少ないのですが第二次大戦後の国有化された時代、そして現代のヘレンド窯の作品はまた別の意味で興味深い展示でした。
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J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫) [幻想文学]

各種の怪奇小説アンソロジーの常連、「吸血鬼カーミラ」で知られるレ・ファニュの、なんと約半世紀ぶりになる日本オリジナル短篇集です。そうです前回が平井呈一によるその『吸血鬼カーミラ』です。
短めでファンタジーなこわい話が四つと、ちょっと長めで超自然要素のない犯罪小説系サスペンスが一つ入っています。後者が表題作の「ドラゴン・ヴォランの部屋」で、こちらがタイトルになっているということは一番おすすめの作品なんでしょうかね。わたくしも同感です。
ディケンズやウィルキー・コリンズと同時代の娯楽小説作家としてのレ・ファニュが楽しめる中篇で、幽霊はいっさい登場しないかわりに怪しい占い師や謎の美女、正体不明の貴族に人が消える部屋などミステリっぽい要素がぞろぞろ出てきます。1815年のフランスを舞台に、だいぶ脇が甘い英国人の主人公が活躍したりひどい目に遭ったりする、サスペンスのみならずユーモアも感じさせる名品です。ほどよい長さでさくさく進んでびしっと終わるキレの良さもよろしいです。
その他の短篇は悪魔や妖精が登場し、作者の故郷アイルランドの伝説を思わせる静かで少し不気味でもある作品が並んでいます。表題作とはがらりと雰囲気が変わるので、いっしょに読んでびっくりしていただきたいですね。

ドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)


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岡本綺堂『青蛙堂鬼談』(中公文庫) [幻想文学]

青蛙堂主人を名乗る紳士のもとに集められた参加者たちが順番に怪談を語る、百物語形式の短篇集です。
当時としてはまだ少し昔である江戸時代の話、あるいは語り手がじっさいに経験した怪異がたくさん出てくるので、なんともいえない実話っぽさがあります。実は元ネタがいろいろあって、主に中国の怪談をアレンジしているようなのですが、特に違和感なく日本の昔話のような気持ちで楽しめました。
ほのぼのと心温まるエピソードより、とにかくぞっとするお話が印象に残っています。怪異の原因がなんだったのか、はっきりと説明はされなくてもおぼろげに察しがつく回もありますけれども、まったく何なのかよくわからないまま終わる「猿の眼」は強烈です。特に大きな被害が出たわけではないのですが、とにかく怖いです。もともとこの会に集まった人々は怪談収集を本格的にやっているわけでもない一般市民の皆さんなので、隠された真相に迫る手段があるわけでもなく「その後どうなったかはわかりません」で平気で終わってしまうのも、本当にあったこわい話感を高めています。

青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)


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佐藤さくら『魔導の系譜』(創元推理文庫) [幻想文学]

魔導士が虐げられている国ラバルタ。辺境の村で私塾をいとなむ魔導士レオンは旧知の人物の依頼で、才能に恵まれながらも魔導の教育を拒否する少年ゼクスをあずかる。やがてレオンの指導のもとでたぐいまれな能力を開花させたゼクスは王家直属の魔術研究機関へ招かれるが、そこでの出会いはラバルタの歴史を揺るがし、師弟の運命をも大きく変えてゆくことに……
世界設定から舞台となる国の歴史までじっくり描かれる渋めのファンタジーでございます。田舎の村はずれに暮らす三流魔導士レオンが仕方なく弟子を引き受ける圧倒的に地味な滑り出し、独自の手法で辛抱強く指導を続けるレオンとゼクスの日々があるときを境にしてがらりと変わり、ゼクスが自分の道を歩みはじめてから物語が大きく動き出します。出発点を思えばとても信じられないような場所へ、読者は主人公たちといっしょに運ばれることになります。
文庫一冊で全三部構成のみっしり中身が詰まった長篇小説です。三冊で書こうと思えばできそうなくらい濃密な、ある国の歴史の一幕を目撃した読後感がありました。この本の中に書かれたことがすべてではないし、書かれていない部分に無数の物語が存在するとわかる、そういう小説がどうにも好みでいけません。

魔導の系譜 (創元推理文庫)


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