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山田風太郎『忍法相伝73』(戎光祥出版) [山田風太郎]

うだつの上がらない青年伊賀大馬は、密かに想いを寄せる女性の危難を知る。祖先が残したとされる忍法相伝書をひもとき、珍妙な忍法の数々を駆使して奮闘するが…

この一年間、ひとりで「国際『読もう読もうと思っていながら手を付けていなかった本をやっつける』年」を行っていました。おかげで大長編小説や名作文学をずいぶん楽しみましたが、掉尾を飾る一冊としてこれ以上のものはないとおそるおそる準備したのがこちらです。
自作を評価するインタビューにおいて「ABCの三段階だとP」という評価をとった問題作で、ファンのあいだでも(悪い意味で)幻の作品として知られてきた作品です。原型となった短篇は以前見たことがありましたが、実物をまるまる読める日が来るとは思いませんでした。編者の日下三蔵さんには感謝とお疲れ様でしたの言葉を捧げたいです。

感想なんですけれども、わたくしはそれなりに面白かったのですが人様に対しては自信を持っておすすめできません(「おすすめすることに自信が持てない」ではなく「おすすめできないことに自信がある」です)。
P評価の根拠を推し量るに、山盛りの時事ネタとストレートすぎる風刺、どぎつい笑い、終盤の打ち切り決定漫画のごとき駆け足っぷりが怪しいかなぁと思います。ただし大衆文学の一例としての史料価値は十分にあると思いますし、どうせ山風ファンの皆さんはわたくしが止めてもお読みになるんでしょう、わかってますよ。
編者解題にあるとおり、忍法帖ではなく現代を舞台にしたユーモアものとして読むべきですね。随所ににじみ出る山田風太郎らしさはちゃんとありますので決して面白くないことはない、ただしやっぱり人にはすすめられない作品です。はい。

忍法相伝73 (ミステリ珍本全集01)

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山田風太郎『戦中派復興日記』(小学館文庫) [山田風太郎]

山田風太郎の戦後日記文庫版、こちらが最終巻となりました。
昭和26年1月から始まるこの日記では作品を書き始める記述、どこまで書いた記述、書き終えた記述がばんばん出てきて、もうすっかり職業作家のようです。ファンなら知ってる初期作品のタイトルもちゃんと出てきます。編集者もしょっちゅう訪ねてきますし、原稿料のなまなましい話題にも事欠きません。年明け2日から、ちょうど合作をやっていた高木彬光が一日に三度来たりもしています。
それはそれとして、書くだけでなく読む側のペースもいっこうに落ちる気配がありません。ミステリも文学も小説の資料も、国内も海外も問わずに読みまくる様子は相変わらずで、何だか心が安らぎます。
興味深いのはたまに出てくる熱いミステリ論です。こんなエピソードもある人ですけれども、普段の全てから一歩距離を置いた冷めた視線が嘘のような語り口が印象的でした。そんなふうに熱心に語るとき以外は、終戦から既に6年が経った日本のありさまを冷徹に観察している山田さん(29)の考えることが、現代に読むとびっくりするほどタイムリーだったりすることがたびたびありました。歴史とは一周回って繰り返すものだと痛感します。

戦中派復興日記 (小学館文庫)

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山田正紀『神君幻法帖』(徳間書店) [山田風太郎]

神君徳川家康の御霊を東照社へ遷座する儀式に伴い、古来より歴史の闇に生きてきた山王一族と摩多羅一族が日光に集められた。徳川家に盤石の安泰をもたらすため、死力を尽くして戦うべしと命じられた「幻法者」の行く末やいかに…
導入部だけでピンときた方もいらっしゃるに違いないと思っています。ご覧の通り山田風太郎『甲賀忍法帖』を連想させるポイントが満載で、山風好きの私は要所要所でにやにやしながら読んでいました。そもそも表紙が佐伯俊男の時点で、これはもうわざとやっているとしか考えられなくなってましたよ。確信犯じゃなくて故意犯ですね。
徳川家の理不尽な命令で殺し合いが始まるわ、対立する両勢力の頭領が恋に落ちるわ、殺したはずなのに死なない男が登場するわ…『甲賀』を知っている頭で読んだときに面白いのは、人知を越えた能力の現代的な理由付けです。医者の勉強をした山風はもっぱら医学方面から屁理屈をこねていましたが、SF方面で活躍してきた山正(語呂の悪い通称)の解説はそこはかとなく科学寄りになっています。タンパク質とかニューロンに働きかけるとかRNAとか、絶対に信用してはいけない匂いがぷんぷんしますよ。
ただ、これがページを繰るにつれて『甲賀』をなぞるばかりではない展開に動き始めるのが読みどころです。幻法合戦の真の目的や、残りわずかとなってからの主人公たちの行動は、むしろそれ以降の山田風太郎忍法帖を思い出しました。結末ではさらに山風との違いを感じる一方で、立川文庫や吉川英治から続いた娯楽時代小説の新たな可能性に期待せずにいられません。

神君幻法帖 (徳間文庫)

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山田風太郎『戦中派動乱日記』(小学館文庫) [山田風太郎]

山田風太郎の(そろそろこの名前で活動する小説家になりつつある時期です)昭和24~25年にかけての日記です。医学校を卒業してインターンになったかと思ったら、5月あたまにはもう作家となる決意を固める年からのスタートです。つまり大半は新人作家としての活動記録なので、小説家としての山風ファンには必読の一冊になっています。
この時期に執筆された作品のうち、切支丹ものについては徳間文庫の『山屋敷秘図』に収録されているので、手元に置いておくと日記に出てきた作品がすぐに読めておすすめです。資料を集める→何日か執筆する→掲載される→原稿料を受け取る、という流れで、かなりの作品名が登場しています。中には勝手にタイトルを変えられるとか、当初予定していたのと違う雑誌に何故か掲載されていたとか、稿料が入るまでにえらく時間が空いたりするケースもあり、終戦後の娯楽小説雑誌の裏側をのぞき見た気分になれます。
かなりの勢いで書きまくっている著者もですが、それ以上に次から次へと出てくる小説誌の名前の多さに驚きます。その一方で「新青年」誌がなくなる話も出てきますし、他には現実の事件と絡めた執筆依頼なども世相を如実に映していて興味深いところです。先輩作家たちと関わる機会も格段に増え、江戸川乱歩に横溝正史に高木彬光にと、しょっちゅう知ってる人の名前が出てくるのも探偵小説好きにはたまりません。
敗戦後から4年経って社会情勢が少しは落ち着いてきたのか、物価についての記述はかなり減ったような気がします。相変わらずなのは読書量で、特に資料というわけでもなく国内外の書物を貪り読む生活は変わっていないようです。増えてきたような気がするのは遊びに行った話で、と言っても店の名前しか出ていないんですけれども、そこで貰ってきた病気をペニシリンの集中的な服用で治した記述には笑ってしまいました。すみません。

戦中派動乱日記 (小学館文庫)

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山田風太郎『戦中派闇市日記』(小学館文庫) [山田風太郎]

戦中派焼け跡日記』に続く昭和22~23年、戦後の激動期に書かれていた日記です。この頃の山田風太郎は医学生として勉強しながらついに作家デビューを果たしており、日記の記述も「○○を勉強した」「○○を書いた」「○○を読んだ」が増えて来て、これだけでほぼ一ヶ月埋まっていることもあります。内容がだんだん自分のことに向かいつつあるのは世間が落ち着いて来たのか、山風自身が学業と創作に集中するようになったからか、どちらでしょうね。
学業が忙しいので小説の依頼を断ったりもしている中で、相変わらず本はあほみたいに読みまくっているんですけれども、この頃になると明らかに小説のためと思われる読書が増えて来ています。国内国外のミステリとか資料として借りてきてた本の名前がぞろぞろ出てくるのと並行して、見覚えのある初期作品のタイトルが見られるのがファンとしては大変興味深いです。
昭和21年の記録『戦中派焼け跡日記』での、どこを開いても怒りの声と未来への絶望がしみ出してくるような記述に比べると、本書では特に後半に行くにつれてだいぶ落ち着いて来たように感じます。映画やミステリの批評、小説に対する考えなんかが随所に見られるので、「戦後の記録」としてだけでなく「若き小説家の肖像」として読むことも出来ますね。
占領下の日本での衣食住の大変さ(つまり金がかかるという話です)、帝銀事件や吉田内閣など、歴史的な出来事に触れた記事も読みどころです。もちろん、これが当時の日本の一般的な感想というわけではないんでしょうけれども。
戦中派闇市日記 (小学館文庫)

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山田風太郎『ラスプーチンが来た』(ちくま文庫) [山田風太郎]

日露戦争中、ロシア革命支援工作で活躍した快男児明石元二郎の若き日の物語。明治22年、乃木希典少々一家の幽霊騒ぎに首を突っ込んだ明石は、怪しげな占い師の手から美しい娘雪香を救出する。折しもロシア皇太子の訪日を控えた日本では、東京の貧民窟に入り込んだ謎の異端僧の不気味な影がちらついて…
「もし日露戦争前夜の日本にラスプーチンが来ていたら」略して「もしラス」ですよ。徹頭徹尾フィクションのはずなんですけれども、ちょうどこの時代に合わせた歴史上の人物が物語を彩り、全体に不思議な説得力を醸し出しています。内村鑑三、森鴎外、ロシア文学関係者数人、さらにある大事件の犯人まで出てくるので、物語の舞台になる時代を予習しておくとさらに楽しめるかもしれません。
雑誌連載時の初出タイトルは「明治化物草紙」だったそうで、主人公の明石元二郎を皮切りに、これもまた明治の化け物…という人々が次から次へと登場します。中でもやはり強烈なのは、明石の破天荒なキャラをもってしても中和できないラスプーチンの不気味さ。この人たったひとりのおかげで、物語の後半のトーンががらりと変わってしまいます。山田風太郎は主に日本を舞台にした小説を書いていた人なので、外国人がネタになるのはなかなか珍しいんですけれども、海の向こうにもこんなにネタになる化け物がいたことを改めて思い知らされます。

このほど再読したですが、本書を日露戦争の前哨戦と思って読んでおくと、これから読む日露戦争についての小説は全て本書の後日談として楽しめることに気がつきました。どうしましょう、次あたり『坂の上の雲』いってみましょうか。


ラスプーチンが来た 山田風太郎明治小説全集 11 ちくま文庫

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山田風太郎『明治十手架』(ちくま文庫) [山田風太郎]

元与力の十字架原胤昭は文明開化の後、ヘボン博士と美しいクリスチャン姉妹の影響で出獄人保護の仕事を始める。姉妹の営む絵草紙屋の番頭をこなす彼の前には古なじみの囚人たち、非道な看守や巡査、自由党の壮士らが入れ替わり立ち替わり現れ…
これは明治ものの中で1番好きな作品です。
5人のならず者vs.5人の邏卒という構図に、ちょっと、忍法帖のチーム戦を連想させるところがありまして。
明治維新の闇をそのまま引きずって文明開化の光の中に出てきたような彼らが戦い、次々に倒れてゆくさまも、主人公の原胤昭はともすれば呆然と蚊帳の外から見ているだけで、これも彼が既に明治という新しい時代の人間になっていたためだったのじゃないか、と今になって少し思います。巻末の清水義範氏の解説にある分析を興味深く読みました。
もっとも原は、江戸とか明治という以前にどうしようもなくわかっていないところがあり、読むたびに心の中で歯がみをしながらののしらずにいられないんですけれども、それでもこの荒削りのヒーローと後に山風の別の明治小説の中で再会した時は嬉しかったものです。
本書は山田風太郎の小説には珍しく主人公の一人称が用いられていますが、もう1つ山風にしては珍しく、理屈のわからない超自然的なアイデアが用いられているレアな作品でもあります。どんな奇想天外な忍法でも(納得できるかどうかはさておき)医学的なこじつけで全て明らかにしていたのに…と、科学だけでは説明のつかない不思議を残した結末が印象に残っています。

と、長々と書いてきた話は実は、本書を1番好きな理由とはあまり関係がなくてですね。私に取って本書の1番の魅力は邯鄲お町、彼女に尽きます。手のつけようのない悪女なんですけれども、全くもって理想。彼女/妻にしたいという意味ではなく、女性に生まれたらこうありたいという意味での理想の女性です(境遇じゃなくて内面の話です)。皆さんもぜひこの本を読んでいただき、彼女に骨抜きにされて下さい。

他に短篇「明治かげろう俥」「黄色い下宿人」も収録されています。「明治かげろう俥」は、別途紹介する予定の長篇『ラスプーチンが来た』と併せてお楽しみいただくのがおすすめ。「黄色い下宿人」は、ある分野のアンソロジーにちょくちょく採られているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。私も以前別のところで読んでいて、なるほどこれも明治ものか、とここで初めて気がつきました。

明治十手架〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈13〉 (ちくま文庫) 明治十手架〈下〉―山田風太郎明治小説全集〈14〉 (ちくま文庫)

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山田風太郎『幻妖桐の葉おとし』(ハルキ文庫) [山田風太郎]

この記事を書いている時点で入手困難な短篇を収めた山田風太郎の作品集です。本書の発行が1997年、私が手に取ったのが2012年。その間ずっと入手困難が解消されなかったのは、これらの作品が忍法帖や明治ものといったシリーズに分類されない、一般的な時代小説だからのようです。だって時代小説マニアでなくても知っている歴史上の有名人が、当たり前のように主人公になっているんですよ。これはちょっと山風にしては画期的です。
もちろん、たとえ豊臣秀吉を主人公にしても『妖説太閤記』みたいなことになるこの人なので、登場人物がメジャーなのでストーリー展開もメジャー、とはいきません。秀吉没後の豊臣家の重臣が次々と殺される表題作「幻妖桐の葉おとし」なんか、進むほどに大気中の山風らしさが濃くなって、最後はもうあっぷあっぷでしたよ。冒頭に置かれた、この異色のミステリ風作品の真相があっさりピンと来てしまった私は、明らかに山田風太郎の読み過ぎだと思いました。桜田門外の変で討たれた井伊直弼の首が思わぬ運命をたどる「首」なども、日本史上の有名な事件のその後を綴って怖いけど笑える、笑えるけど洒落にならないくらい怖い、不可思議な味わいがあります。

幻妖桐の葉おとし―山田風太郎奇想コレクション (ハルキ文庫)


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山田風太郎『修羅維新牢』(ちくま文庫) [山田風太郎]

明治元年。官軍に明け渡された江戸で、薩摩兵が次々に惨殺される事件が発生する。これに激怒した薩摩軍の中村半次郎は、下手人が名乗り出るまでの間、無作為に捕らえた10人の旗本を一人ずつ処刑してゆくことを宣言する。
こうして理不尽に捕らえられた10人の旗本の、それまでの人生と薩摩軍に掴まる直前までの敬意を語る連作が、本書のメインになります。間違っても旗本たちを暴君薩摩の手から救出したり、正義感あふれる第三者が真犯人を捜す流れにはなりませんので、ご承知置き下さい。
完全なとばっちりで捕まった旗本たちの中には、主従や友人、怨敵同士など、複雑な人間関係で結ばれた者が多数います。さらに偶然ながら、本当に官軍殺傷事件に関わった人物も実は捕らえられた旗本たちの中に…という、全体の十分の一くらいの分量でしかないクライマックスになる章で、ようやく10人が揃ってからが圧巻です。
薩摩の中村半次郎の登場時の印象の良さや、その後彼がどうなったかなどを考えると、この人がむちゃくちゃをやったから全部悪い、とはとても思えません。この時代には、たまたま官軍という形で現れた激烈な運命としか呼びようのないものに引っかき回されて、しかし歴史の表舞台には何の傷跡も残すことなく終わる人々ですから、決して楽しい話ではない…ですが、事件に関わったもう一人の旗本が登場する終章で、全体の印象ががらりと変わります。まるまるハッピーエンドになるわけじゃありませんが、最後の最後まで読み終えて、やっと全体を語れるようになる本でした。

修羅維新牢 山田風太郎幕末小説集 (ちくま文庫)

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山田風太郎『戦中派焼け跡日記』(小学館文庫) [山田風太郎]

作家デビュー直前、医学生時代の山田風太郎が見た昭和21年の日記です。昭和20年の日記『戦中派不戦日記』から続けてどうぞ。
戦争がやっと終わってさぁこれからだ頑張ろう、という空気は一切ないので、復興への希望のようなものを求めて読むのはあまりおすすめできません。敗戦翌年の日本の若者の間にあった空気の一部に触れられる貴重な資料です。資料価値と言えば、心情だけでなく物価についての記述も興味深いですね。物価統制令の公布・施行をはじめ、社会の大きな動きが何度もあった年で、それが反映された日記は現代史に興味がある方にも面白いんじゃないかと思います。もちろん山田さん個人の生活の記録としても楽しく、戦後だろうが何だろうが本を読んで感想を書き、映画を見に行っては感想を書き、そして日々医学書で勉学に励んでいる姿が見られます。
ページ数で見ると明らかに前半6月までの方が分量があり、だんだん落ち着いて来たのか何なのか、後半は記述が短くまとまった傾向があります。小説家としての修業に目が向き始めて文章がうまくなった、という見方もできるかもしれません。そうなんです、この年の11月にはデビュー作「達磨峠の事件」の原稿料を受け取っており、作家・山田風太郎の誕生前後の記録でもあるんですね。

戦中派焼け跡日記 (小学館文庫)

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