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ヴィリ・ザイデル『世界最古のもの』(沖積社) [幻想文学]

ドイツの小さな町に住む青年ハラルドは森の散策中、地中に埋まった奇妙な金属塊を発見する。それ以来奇妙な幻影を見るようになった彼のもとをある日、地質学者を名乗る中国人が訪れて……
ヨーロッパを舞台にしたなんとものどかな滑り出しながら、帯にてラヴクラフトとの類似点を指摘されている理由は読むうちにどんどんわかってきます。主人公が地中に見つけた物体の正体をめぐる展開は思いがけずSF的でもあり先が読めません。
全体を通して眺めてみると、ホフマンやエーヴェルスなどのドイツ怪奇小説の系譜につらなる作品であるなぁという印象になります。ただし本作品で語られる恐怖とそれがもたらす結果は、20世紀になって初めて意識されたものと感じました。訳者後記によるとまず1923年に発表され、1930年にごく短い「終章」だけが追加されたそうです。アルフレート・クビーンによる挿絵が、また不気味な味わいを醸し出していてよろしいです。

世界最古のもの


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東雅夫編『文豪山怪奇譚 山の怪談名作選』(山と渓谷社) [幻想文学]

この本の何がすばらしいかといいますと山と渓谷社から出たことです。それだけですべてOK語ることなし、タイトルに「山と渓谷社」と打ち込んだだけで出オチみたいな気持ちにさせてくれますが、職業がアンソロジストの東さんによるセレクトなので内容も大変濃いです。
とにかく山というのはこんなに怖いものがうろうろしている面白い場所なのか、と一篇読み終わるごとに思いました。河童ですとか山姥ですとか、既に名前がつけられている人間ではない生き物も多々登場しますけれど、一方で名付けようもない怪異や幽霊だったのかもしれないものとの出会いもあります。中勘助「夢の日記から」のような、夢の中で見た山中の出来事を淡々と短くえがいた作品もあって、すべてをひっくるめての「山怪」なんですよ。
怖さよりは不思議さが勝った泉鏡花「薬草取」から、昔話のような語り口で有りながら心底ぞっとする岡本綺堂「くろん坊」まで、山をテーマにしただけでこんなに豊かなアンソロジーが編めるものだと感服していました。編者解説にあるように、山へ連れていって読みたい一冊です。

文豪山怪奇譚 山の怪談名作選


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ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(白水uブックス) [幻想文学]

19~20世紀のロシアで活動し、革命後もソ連に残り共産党の一員としても活躍した詩人の短篇小説集です。ロシア市民の現実によりそったお話から歴史のなかの情景を切り抜いたような作品、SF的な未来都市が登場するものまでさまざまなスタイルの作品が入っています。どれも底冷えのする暗さが身に染みます。存在の耐えられない暗さ、そして毒の強さが美しいです。ポーの作品を描いたこともある人がイラストを担当していて、これもまたすばらしいんですよ。
表題作「南十字星共和国」は南極に建設された理想都市が伝染病によって崩壊するさまを報告するルポルタージュ風の作品で、明らかに作者がなんらかのメッセージを訴えたがっているなというか、要するに説教くさいんですけれども、わたくしは破滅SFとして単純に楽しみました。他に「鏡の中」「いま、わたしが目ざめたとき……」「塔の上」など、夢と現実の境界をあいまいにする短篇が並んでいるのが印象的です。中国の有名な故事を連想させる結末でありながら読後の印象がまったく異なります。

南十字星共和国 (白水Uブックス)


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サーバン『人形つくり』(国書刊行会) [幻想文学]

サーバンというふしぎなペンネームは「語り部」を意味するペルシャ語から採られたそうです。ふたつの中篇が収録されていて、いずれもイングランドの田舎で若い女性が出会う奇妙なできごとを描いています。
どんなできごとかというと、あやしい魅力を持つ男性によって未知の世界にとらわれそうになるような、そういう危うい事件なんですね。未知の世界というのはもちろん、超自然方面にこの世の理を踏み外した場所なんですけれども。表面的には何も起こらず日々が流れてゆくのですが、わたくしはそこかしこに大変官能的な雰囲気を感じました。
うっかりそちらの世界へ踏み込んでしまって戻れなくなりかねない話ということで、昔話に登場する妖精国にさらわれて戻れなくなる男のエピソードなどを思い出すところもあります。どちらも怪奇小説と呼ぶには穏やかでのどかなシーンの目立つ、けれどじんわりと怖い中篇でした。

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)


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E・F・ベンスン『塔の中の部屋』(アトリエサード) [幻想文学]

英米の怪奇小説アンソロジーではちょくちょく名前を見かける気がするベンスンの短篇集です。カバーにいる不気味な老婆の肖像画はちゃんと登場しますのでご期待ください。
味つけのしっかりした料理のごとく、きっちりと怖いお話ぞろいです。その怖さがいろいろで、呪われたお屋敷にとりついた幽霊から伝説上の生き物、いかにもあやしげな魔女に説明不能な狂気とさまざまです。どういう話が得意な作家かと問われれば、怪談が得意な人というのが一番しっくりきます。
上記のように、怪談の中での細かいジャンル分けはいくらでも可能なんですけれども、種類による好みを問わず怖いお話が好きな方にはどなたにも読んでいただきたいですね。しんみりしたいい話に落ち着くことなく、さいごまでわけのわからない怖さで読者をびびらせてくれる作品が多いです。化け物がどんな形をしているのかまでは明らかになっても、原因や出自をたどる道はきれいに断ち切られてしまって探りようがない「広間のあいつ」などが特に好きです。伝統的怪談より少しモダンな作風とも思える、でもやっぱり昔なじみの”こわい話”の楽しみは損なわれていません。

塔の中の部屋 (ナイトランド叢書)


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ミハル・アイヴァス『黄金時代』(河出書房新社) [幻想文学]

かつて三年ほど滞在した大西洋に浮かぶ島を回想し、滞在記を執筆する語り手。
流れ落ちる水の中につくられた「上の町」と「下の町」、半透明の水の壁で区切られた家々、島を訪れたヨーロッパ人たちの遺産、隠れた王…やがて語り手は島にただ一冊しかない、島民たちによって自由に加筆や変更が行われる「本」の存在を知る。
大きく分けて前半がこの島についての記述、後半が語り手の出会った「本」に記された物語となっています。ただこの語り手さんも島を離れてしばらく経ちますし、いきなり最近自分の身に起きたできごとをしゃべり出したりする相当に自由な人です。読者が先を知りたがってるのはわかるけどまぁいいじゃないか、くらいの調子です。そういう島の話とは関係なさそうな部分にわたくしの一番好きなフレーズがあります。
後半で語られる島の「本」の中の物語は、昔話風のとらえどころのないオープニングから思いがけず広がりを見せます。主要な登場人物の関係者が別の物語の主人公になり、その人物が出会った別のできごとが切れ目のない語りの中で独立したストーリーとして語られ、さらにまた別の物語が立ちあがり…島に一冊きりの本はいくつものポケットを持ち、島民たちがそこにページを追加する形で自由にエピソードを挿入できるそうです。実物を手にすることはできませんが、ひとつのルートしか持たない本の形であっても、無限に増殖し寄り道を繰り返して成長する物語を体験することができました。
登場人物が語る物語の中の登場人物が語る物語の中の登場人物が語る物語の中の…という入れ子構造は千一夜物語でちょこちょこ出てきます。帯で古川日出男さんが触れてらっしゃいますけれども、まさにそんな形であらわれた物語も楽しめるとても贅沢な架空の滞在記でした。

黄金時代


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ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔法?魔法!』(徳間文庫) [幻想文学]

これまで主に長篇を中心に読んできたダイアナ・ウィン・ジョーンズの短篇集が文庫になっていたのでさっそく手を出してみました。
大人の読む文庫本の格好をしていますけれども、これはまぎれもなく子どもの本ですね。それも「子どもの頃に出会いたかった」となるタイプの読み物ではなく、読んでるあいだは読者を子どもにする本です。読み終えたあとは気持ち良く「面白かった!」で閉じることができます。わたくしはもともと十歳児くらいの頭で読んでいるので自然に楽しみましたけれども、もうちゃんと大人になった人が読んでもきっと子どものように楽しめます。
どこらへんが子ども向けかというと全体的に毒が効いてる辺りですね、すかっとします。嫌な大人はだいたいひどい目に遭いますし、むかつく子どももたいがいちゃんとひどい目に遭いますから。
とはいえ、読者は常に主人公に感情移入しておかしな世界を楽しんでられるというわけでもないんですよ。おたふく風邪で寝込んだ主人公がベッドの上から想像した小さな冒険者たちが大暴れする「二センチの勇者たち」は実に不穏ですばらしかったです。

魔法?魔法!: ダイアナ・ウィン・ジョーンズ短編集 (徳間文庫)


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『奥の部屋 ロバート・エイクマン短篇集』(ちくま文庫) [幻想文学]

こわい話の本です。こわい話が好きな人は、ロバート・エイクマンという名前を聞いたことがあろうがなかろうが手にとってください。20世紀に国書刊行会から出ていたものに、新訳を含む二編が追加されています。
どれをとっても不気味でぞっとさせられる作品ばかりなのですが、どこがどう怖いのかと問われると言葉につまります。だいたい怪異の正体が全部きれいに明らかにされるお話ばかりではないですし、本当はすべて主人公の妄想で超自然的な出来事なんて何も起きていなかったんじゃないかと解釈できないこともない短篇もあるのです。ですけれどもそう受け取ってしまうと、今度は幽霊でも怪物でも呪いでもなく地に足の付いた現実をよりどころにしてこんなおそろしい経験をしていたのかと考えるしかなくなって往生するんです。
表題作「奥の部屋」は、子どもの頃持っていた人形の家とそっくりな家に迷い込んだ主人公が理不尽な恐怖にさらされるお話なんですけれども、どうとも説明できない気持ちの悪さが最後までつきまといます。誰が悪いからこうなったとは言えませんし、小さいときにおもちゃを持っていた人が感情移入して読むと寒気がしそうです。今回増補された「何と冷たい小さな君の手よ」は間違い電話がきっかけで見知らぬ女性とつながった男の話で、このロマンスを匂わせる設定の怪談は他にもあると思うですが、正視できないような結末に着地しました。

奥の部屋: ロバート・エイクマン短篇集 (ちくま文庫)

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ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(アトリエサード) [幻想文学]

暗礁に乗り上げ沈没したグレン・キャリグ号から脱出し、救命ボートで南方に広がる未知の海域をさまよう「わたし」と船員たち。行く手に待ち受けるのは見たこともない奇怪な生物が待ち受ける島々、海藻に覆われた船の墓場……
何がおどろいたかって、もうびっくりするくらい正統派の海洋冒険小説だったことですよ。語り手は子どもには不向きな恐怖と呼んでいますけれども、ちょっと書き直したら子ども向けのシリーズに入っていても違和感がなさそうです。そのくらいまっとうな万人向けの冒険ものでした。
嵐を乗り切る描写など、船員の経験を持つ作者ならではの迫力がありますし、帆やマストなど船のパーツの名前がぞろぞろ出てくるのもリアリティがあります。トップマストとかバウスプリットとか、そういう単語が並んでるだけで嬉しくなる人はちょっと試してみて下さい。
こわいもの好きの皆さんにおかれましては、一行が最初にたどりつく孤島で遭遇する怪物や、回想に覆われた海に棲息する奇怪な生き物が読みどころです。同じ作者の『幽霊海賊』に比べるとはっきり姿がわかるほうですが不気味さは十分です。本書の主人公が乗り込む救命ボートは前述の『幽霊海賊』の船よりずっと装備は貧弱ですが、最終的な被害を考えるとこっちの船員たちは大健闘だと思いますね。

〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書)


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ゾラン・ジヴコヴィッチ『12人の蒐集家/ティーショップ』(東京創元社) [幻想文学]

ベオグラード出身の作家ゾラン・ジヴコヴィッチによる連作短篇「12人の蒐集家」に、中篇「ティーショップ」をカップリングした作品集です。見返しにもイラストが入った造本で、紫色が印象的な装丁がとても素敵です。
コレクションをテーマにした「12人の蒐集家」は、何かを蒐集する人、持っている何かを蒐集される人が入れ替わり立ち替わり登場します。目次を見ると「サイン」「切り抜き」などの想像しやすいものから、「小説」「希望」などちょっと理解に苦しむものまでさまざまな蒐集物が並んでいます。どれをとってもふつうのコレクションではありませんし、切り抜きやサインだってみんながしているような集め方をしているわけじゃないんですよ。しかも最後の12話目のタイトルは「コレクション」、どうです気になりませんか。ひとつひとつの作品は短く、さくさく読み終わっては呆然とするのを12回繰り返した気分です。
同時収録の「ティーショップ」もテンポ良く読み進められる不思議な勢いのあるお話です。紅茶を飲んでお喋りを聞いているだけなんですけど、「12人の蒐集家」に輪をかけて狐につままれたような展開で一気読み間違いなしです。あらすじを説明してもどこが面白いのかさっぱりわからない作家ですが、はまるともっと読みたくなりますね。

12人の蒐集家/ティーショップ (海外文学セレクション)

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