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サックス・ローマー『魔女王の血脈』(アトリエサード) [幻想文学]

美青年アントニー・フェラーラの現れる場所には、必ず謎の死がつきまとう。父とともに彼の正体を追う医学生ケルンは、やがて古代エジプトから続く恐るべき秘密を知ることに……
主にロンドンを舞台に、古代エジプトの魔術と戦う怪奇冒険小説です。1918年の作品なのでだいぶ古めかしくて、具体的にいうと東洋(エジプト含む)から来るものはみんな怖いと思っている時代のお話なんですけれども、ホラー小説としてちゃんと面白いです。どう見ても悪役であるフェラーラのほうが魅力的なところ、現代的です。
近代的なロンドンの夜を跳梁する魔物との戦いあり、エジプトまで赴いて敵のルーツを探る章ありと展開もメリハリがきいています。主人公の若き医学生は割と向こう見ずで考えるより先に行動しがちなのですが、彼の父であり魔術にも詳しいケルン医師が加わると反撃への糸口が見え始めます(それでもだいぶん苦戦するし主人公もひどい目に遭うので安心して下さい)。
著者は実在する魔術結社にも参加していた人なのですが、「はじめに」と題した文章でことわっているのが『この物語はフィクションです』とはひと味違う注釈なのもちょっといいですね。

魔女王の血脈 (ナイトランド叢書2-7)


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ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会) [幻想文学]

ポーランドの恐怖小説作家グラビンスキの、なんと三冊目の邦訳です。表題と同じ短篇集の収録作品にエッセイやインタビューを加えた日本オリジナル編集ということです。
短篇集『火の書』は、タイトルのとおり炎をテーマにした作品が八つ翻訳されています。前半は動的でダイナミックな炎が出現する作品群が多く、後半はがらりと傾向が変わってじわじわ怖い雰囲気の作品になってゆきます。
消防士や煙突掃除夫など、炎と戦う人々の姿はアクション映画さながらの面白さがあるのですが、一転して静かな狂気に向かう作品もまた印象的です。かと思うと童話みたいなふしぎで美しいお話もあり、共通したテーマを持ちながらバラエティに富んでいて飽きませんでした。直接的に火が出て炎上する話だと「火事場」、物理的に燃えるまでの長さがおそろしかったのは「ゲブルたち」ですねわたくしは。
後半には創作にまつわるエッセイと、雑誌に掲載されたグラビンスキへのインタビュー三本が収録されています。1930年代前後のポーランド文壇の事情を垣間見ることができる本ってめったにありませんよね。

火の書


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A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(アトリエサード) [幻想文学]

ニューヨークで次々に発生する原因不明の変死。年齢も職業も異なる人々を襲う死の謎を探る医師ローウェルは、部下を失った裏社会の顔役とも協力し、彼らと関わったある人物の存在を知るのだが……
1932年の雑誌に載った作品なので、医学関連の情報が明らかに古そうだったりするいろいろ昔風なお話なのですが、そのほかの描写や展開はびっくりするほどモダンホラーでふつうに楽しめます。昔の話とはいえ、医師である主人公が奇怪な現象を徹底して疑うタイプで、やや迷信深い協力者と好対照をなしています。
語り手でもあるこの主人公がとにかく現実的で、タイトルにある魔女なんか絶対信じないぞと意気込むものの(もちろん相手はほんものの魔女なので)自分を実験台にするはめになったり被害を広げたりもする等身大のキャラクターになっています。思慮深いんだか無鉄砲なんだかわかりませんが、おかげで読者は不気味な事件の一番こわいところ全てに立ち会えます。

魔女を焼き殺せ! (ナイトランド叢書2-6)


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ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス』(国書刊行会) [幻想文学]

イギリスの小説家ヴァーノン・リー(筆名は男性ですが女性作家です)の幻想小説集です。日本では幻想小説のアンソロジーでときどき目にする名前で、本書にはそうした既訳の短篇もいくつか収録されています。
幻想小説といってもさまざまで、収録された十四の作品も、すべて不思議なできごとを語っているものの読後感はさまざまです。こわい話もありますしロマンティックな話もありますし、笑える話やちょっといい話もあります(すごく泣ける感動秘話はないんじゃないかなと思います)。
帯に「伝説的な幻の女性作家」と書かれるくらいの知る人ぞ知る作家だと思っていたので、立派な一冊の本にまとまって日本語の作品集が出たのは、わたくし個人としては大変な驚きでしたし他にもびっくりした人はたくさんいると思います。すでに名前を知っている人はもちろん、知らない方にもぜひ一つ一つ読んでいただきたい作家さんなんですよ。
キリスト教以前のヨーロッパの神々やなくなって久しい人物など、ふいに現れて人々を翻弄する過去の美しさが印象的ですが、懐古趣味だけにとどまらず、ところどころで思いがけないユーモアがにじみ出るのも素敵です。聖人伝風味のものや、タイトルどおりのお話としかいいようがない「神々と騎士タンホイザー」などは全体の中ではちょっと異色に見えるけれどヴァーノン・リーらしくて面白いです。

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

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『幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集』(松籟社) [幻想文学]

副題がふるっているじゃありませんか。ベルギーはオランダ語・フランス語・ドイツ語の三つが公用語となっている国ですが、中でも二十世紀後半までフランス語が日常的に使われていた北部フランドル地方を中心に編まれた幻想文学のアンソロジーです。これだけエリアと地域を絞って、テーマに沿った短編集ができるんですからたいしたものです。
収録された作家は全部で八人。マーテルランクやローデンバックは日本でもご存じの方はたくさんいらっしゃるかと思いますが、あとは見たこともない名前がいくつも並んでいます(わたくし調べ)。わたくし自身は以前読んだ『マルペルチュイ』があまりにすばらしかったジャン・レーが目当てで手に取りました。ジャン・レーの新しく日本語で読める作品がここにあることが嬉しいです。
それにしても、こんなに「幻想」の二文字が似合う地域ってなかなかありませんよね。ベルギーの文化の特異な歴史については解説でも少しだけ触れられていますけれども、日常生活からの踏み外し方がどの作品も感動するほどみごとです。そもそも日常なんてあったのかと疑いたくなるような世界に入り込んで、しばらく戻ってこられない覚悟で読みたい一冊です。
フランス・エレンス「分身」は比較的現実的な世界のお話で、アメリカやヨーロッパの怪奇小説でもよく出てくるテーマを扱っているのですが度肝を抜かれました。ほんとうに地に足のついた語り口なのですが、幻想小説のようなSFのような得体の知れない展開をします。

幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集


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キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫) [幻想文学]

真夜中に車を飛ばすマイクは、家まで乗せてほしいと頼む少女をきっかけに、十代の子どもたちだけが眠る墓地へと迷い込む。そこでは若くして命を落とした少年少女が、自分たちの最期の物語を次々と語り出して……
19~21世紀のシカゴ周辺、時代も環境もばらばらな十代の子どもたちの幽霊がひたすら自分たちの死に際を語る連作短篇集です。因果応報であったり理不尽であったり、そこに至る理由はさまざまですが、とにかく結末はぜんぶ最初から決まっています。そもそも子どもたちの幽霊が出てくる時点でファンタジーなんですけれども、彼らを死に追いやる存在もエイリアンに悪魔に古代の呪いにとバラエティに富んでいます。驚くことに、ひどい話ぞろいながら読後感はそれほど悪くなかったんですよ。語られる時代の並びはばらばらですが、年代順に追ってゆくとシカゴの歴史が浮かび上がってくる楽しみもあります。
とにかくさいごに死ぬ話ばかりなのでお気に入りを語り合うのもはばかられますが、どの作品もどこかしらユーモアが感じられるのも素敵なところです。わたくしは慣れ親しんだ名前と場面がいくつも出てくる「エドガー」が特に好きです。

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)


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レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫) [幻想文学]

虚実入りまじった幻想的歴史小説でわたくしの心をわしづかみにしているレオ・ペルッツの待望の短篇集です。待望していたのはわたくしだけではないはずです。
長篇の緻密さ濃密さをコンパクトに凝縮した読みごたえある中篇、短いながらも作風のよくあらわれた短篇など8作品が収録されています。まさかいきなり文庫で読めるとは思わなかったので嬉しい驚きです。19~20世紀に移り変わる時代のヨーロッパを背景に、月を憎み恐れる一族や自分の息子がアンチクリストであると確信した男など、異様な思考にとりつかれた人々の繰り広げる予想もつかない物語を、この機会にぜひたくさんの方々に読んでいただきたいです。訳者の垂野さんがブログで原作本挿し絵(ネタバレあり)を公開してくれましたので読後にどうぞ。
解説でも少し触れられているですが、長篇でもしばしば登場したテーマが中短篇だとよりはっきり見えているので、こちらを足がかりにして長篇にも手を伸ばしていただきたいものです。翻訳が出てほんとうに嬉しい作家なので、わたくしの感想などよりとにかくたくさんの人にペルッツの名前が知られればと思っています。

アンチクリストの誕生 (ちくま文庫 ヘ 13-1)

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オーガスト・ダーレス『ジョージおじさん』(アトリエサード) [幻想文学]

現在ではもっぱらラヴクラフトのファンとして名前を知られているホラー作家の短篇集です。多少はラヴクラフトが好きそうなのもありますけれども大半はそうではない、地に足のついた怖いお話です。わたくしはいわゆるクトゥルー神話の世界観考察やラヴクラフトのファン創作っぽいのより、彼の書いた一般的な怪奇小説が読みたかったので、こういう本が出てくれたのはたいへん嬉しいです。
伝統的な怪奇小説っぽい呪いや幽霊が登場する一方で、表題作をはじめとした小さな子どもが出てくる作品がいくつか入っているんですね。副題に「十七人の奇怪な人々」とあるように、日常に隣り合った世界にあらわれる不思議な人物たちが印象的です。黒人が魔術的なものを察知したり子育てでしくじったら母親が悪いとか、そういう一昔前の価値観が見えるのでモダンとはつけにくい感じです。
ただ、これはとてもラヴクラフト(もしくは彼の愛したアーサー・マッケン)ぽいと思った「ロスト・ヴァレー行き夜行列車」が個人的には大変面白かったです。


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ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫) [幻想文学]

お仕置きとして閉じ込められた部屋の中、鏡に映ったチェスの駒に誘われて「鏡のこっち側」の世界に迷い込んだぼく。雄弁に物語る白の王さまをはじめとする駒たちや、かつて一度でも鏡に姿を映したことのある人々とともに不思議なできごとに巻き込まれ、元いた場所へ戻る手立てを探るが……
わたくしがボンテンペッリを知ったのは筑摩書房のアンソロジーで、おもしろい名前でおもしろい話を書く人だなぁというので印象に残っていたですが、まさか今になって新しい翻訳で読めるとは想像だにしませんでした。長生きはするものです。
鏡の向こうの世界に行ってしまう少年が主人公ですからどうしても『鏡の国のアリス』を連想してしまいますが、この主人公の冒険は当然ながらだいぶ趣が異なります。鏡の中に存在するチェスの王さまやしゃべるマネキンとの対話は、ナンセンスでありながらもどこか哲学的で読者をひやっとさせるものがあります。もともとは子ども向けのお話なんですけれども、漫画っぽくくすりと笑える挿絵に引きつけられてすらすら読んでいると、びっくりするような形で鏡の中から作者がこっちを見ているような気がするんですよ。

鏡の前のチェス盤 (古典新訳文庫)


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高原英理編『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(ちくま文庫) [幻想文学]

かわいくて素敵な文章を集めたアンソロジーです。高原さんはこういうものも扱われてる方ですが今回は文句なしにかわいくてキュートで尊いのでご安心ください。
かわいいにもいろいろあるとお思いでしょうが、もう間違いなくかわいい小動物や犬や猫、幼子に加えて、使われていることばそれ自体がかわいい作品や味わい深いかわいさのある年配の人々、不思議ないきものまで集められています。形式も小説のほか短歌や俳句や詩、ひとつだけ挿絵つきの絵本も入っています。
甘いばかりではなくてたまにほろ苦かったりぴりっとしたりもするものの、とにかくかわいいことにおいては文句のつけようがありません。割とほかのところで目にしている作家さんの名前もありまして、どなたも以前からのイメージとはがらりと変わる思いがけないかわいさなのも新鮮でした。わたくしは町田康「私の秋、ポチの秋」、小川未明「月夜と眼鏡」でもうぶっ倒れるんじゃないかと思いましたね。何なんですかねこのかわいいテキストは。
一歩引いて頭を冷やして考えてみると、人に「かわいい」という感情を引き起こすものが何なのかを分析するための資料としても優れています。それはそれとしてかわいいです。かわいい。

ファイン/キュート 素敵かわいい作品選 (ちくま文庫)

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