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ブレンターノ『ゴッケル物語』(岩波文庫) [幻想文学]

ドイツの森の中の古城で、妻と娘とともに暮らすゴッケル老人。ある日彼が父親から相続した雄鶏を譲り受けたいと、三人の自然哲学者がやってくるのだが……
びっくりするほど、もう本当にびっくりするほど教訓的なメルヒェンなんですよ。とりあえず「現世の虚栄に背を向け信仰を守ってつつましやかに生きなければならない」という強いメッセージは、ふつうに読んでいたら伝わると思われますので各自で受け止めておいてください。
それはそれとして幻想文学として読んだ場合には、びっくりするほどとっちらかっていて楽しいんですよ。ハツカネズミの王子と王女、魔法の指輪、一夜にして出現しそして消滅する豪華な城。そして物語をいろどる(だいたいの場合いきなり始まる)オペラ風の歌唱シーンなど、説教くさいのはくさいんですけれども楽しい読み物でもあるんです。ラストシーンがまた、教育的な意味くみ取り放題って流れなのが味わい深いです。

ゴッケル物語 (岩波文庫 赤 441-1)


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グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』(国書刊行会) [幻想文学]

表題作「ワルプルギスの夜」と「白いドミニコ僧」のふたつの長篇、初期短篇と後期短篇、さらにエッセイまで収録したずっしり重い一冊です。表紙もかっこいいです。
幻想小説集ですから幻想的な作品ばかり入っています。つまり何を言っているかわからない話、話者の頭を疑うような話、読者が自分の目を疑うような話でいっぱいです。ものすごく濃密で楽しくて、そして胃にもたれるので体調のいいタイミングを狙って読むべきです。
第一次世界大戦中のプラハにちなまぐさい戦いの歴史がよみがえる表題作、既にこの世にいない人物が作家の筆を通して語る「白いドミニコ僧」、続けて読むと脳がかなり疲れます。近代ヨーロッパの幻想小説かと思っていると、もっと古い時代から続く東洋の神秘思想が登場したりするんですよ。このあたりのアイデアはマイリンク自身の経験にもとづくもので、エッセイや解説でその一端に触れられます。作品もとんでもないですが本人も割と思想的に波瀾万丈の人生を送った人のようです。
いっしょに収録された短篇は、そこまでわかりづらいこともなく(短いですし)すらすらと読めると思います。特に後期のものはボルヘス的な味わいがあって楽しいですよ。

ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集


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鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』(河出文庫) [幻想文学]

ラテンアメリカの作家のこわい話を集めた本です。怪談といってもおばけとか幽霊が出てくるとは限らず、どちらかといえばそういうお話のほうが少ない印象です。ボルヘスとか国書刊行会をいろいろ読んでいるうちになじみになっていた名前がたくさん入っていて目次だけで期待が高まります。
ラテンアメリカ文学といえばのマジック・レアリズムや中南米の風土を背景とする作品ばかりではないのが楽しいです。ヨーロッパのどこかの国にロンドンの映画制作会社が絡み、思わぬ(ある意味予想通りの)方向に進むムヒカ=ライネス「吸血鬼」は抱腹絶倒しましたし、中国風の世界を舞台にしたレサマ=リマ「断頭遊戯」はだいぶびっくりしました。冒頭のルゴネス「火の雨」も詩的な悪夢のようで意表を突かれますし、ビオイ=カサレス「大空の陰謀」はまるっきりSFなんですよ。
初版は1990年、今回は新装版となりますのでまだの方はぜひ手に取ってみて下さい。既読の方も新鮮な気持ちでまた読んでみて下さい。

ラテンアメリカ怪談集 (河出文庫)


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マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』(国書刊行会) [幻想文学]

数年前に夫を亡くし、二人の子を育てながらフリーライターとして生活するスティーヴィ・クライ。ある日愛用の電動タイプライターが故障し、知人の紹介する業者に修理を依頼するが、戻ってきたタイプライターはひとりでに文章を打ち始め……
この勝手に動くタイプライターが打つ文章というのが、スティーヴィ・クライの日常の延長としか思えないホラー小説で、それが彼女のじっさいの日常生活と交互に登場します。身に覚えのない日常が勝手に小説として出力されてゆくスティーヴィも恐怖ですが、どこまでが事実(作中の)でどこまでがフィクション(作中の)なのかの境界があいまいになってゆくテキストを読み進めるわれわれ読者もなかなか恐怖です。
タイプライターとスティーヴィの対決もあり、スティーヴィががんばって書いた短篇小説も登場し、明らかにあやしい修理工とペットの猿や頼れる占い師などサブキャラクターもいちいち忘れがたい人物がぞろぞろ出てきます。帯に「スティーヴン・キング非推薦!?」とあるのも納得の、めちゃくちゃなようでいて大変ハイレベルな部分でまとまったホラー小説です。巻末の「三十年後の作者あとがき」も執筆秘話やネタばらし満載で楽しいので、ちゃんと読了後に読んで下さい。

誰がスティーヴィ・クライを造ったのか? (DALKEY ARCHIVE)


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サックス・ローマー『魔女王の血脈』(アトリエサード) [幻想文学]

美青年アントニー・フェラーラの現れる場所には、必ず謎の死がつきまとう。父とともに彼の正体を追う医学生ケルンは、やがて古代エジプトから続く恐るべき秘密を知ることに……
主にロンドンを舞台に、古代エジプトの魔術と戦う怪奇冒険小説です。1918年の作品なのでだいぶ古めかしくて、具体的にいうと東洋(エジプト含む)から来るものはみんな怖いと思っている時代のお話なんですけれども、ホラー小説としてちゃんと面白いです。どう見ても悪役であるフェラーラのほうが魅力的なところ、現代的です。
近代的なロンドンの夜を跳梁する魔物との戦いあり、エジプトまで赴いて敵のルーツを探る章ありと展開もメリハリがきいています。主人公の若き医学生は割と向こう見ずで考えるより先に行動しがちなのですが、彼の父であり魔術にも詳しいケルン医師が加わると反撃への糸口が見え始めます(それでもだいぶん苦戦するし主人公もひどい目に遭うので安心して下さい)。
著者は実在する魔術結社にも参加していた人なのですが、「はじめに」と題した文章でことわっているのが『この物語はフィクションです』とはひと味違う注釈なのもちょっといいですね。

魔女王の血脈 (ナイトランド叢書2-7)


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ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会) [幻想文学]

ポーランドの恐怖小説作家グラビンスキの、なんと三冊目の邦訳です。表題と同じ短篇集の収録作品にエッセイやインタビューを加えた日本オリジナル編集ということです。
短篇集『火の書』は、タイトルのとおり炎をテーマにした作品が八つ翻訳されています。前半は動的でダイナミックな炎が出現する作品群が多く、後半はがらりと傾向が変わってじわじわ怖い雰囲気の作品になってゆきます。
消防士や煙突掃除夫など、炎と戦う人々の姿はアクション映画さながらの面白さがあるのですが、一転して静かな狂気に向かう作品もまた印象的です。かと思うと童話みたいなふしぎで美しいお話もあり、共通したテーマを持ちながらバラエティに富んでいて飽きませんでした。直接的に火が出て炎上する話だと「火事場」、物理的に燃えるまでの長さがおそろしかったのは「ゲブルたち」ですねわたくしは。
後半には創作にまつわるエッセイと、雑誌に掲載されたグラビンスキへのインタビュー三本が収録されています。1930年代前後のポーランド文壇の事情を垣間見ることができる本ってめったにありませんよね。

火の書


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A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(アトリエサード) [幻想文学]

ニューヨークで次々に発生する原因不明の変死。年齢も職業も異なる人々を襲う死の謎を探る医師ローウェルは、部下を失った裏社会の顔役とも協力し、彼らと関わったある人物の存在を知るのだが……
1932年の雑誌に載った作品なので、医学関連の情報が明らかに古そうだったりするいろいろ昔風なお話なのですが、そのほかの描写や展開はびっくりするほどモダンホラーでふつうに楽しめます。昔の話とはいえ、医師である主人公が奇怪な現象を徹底して疑うタイプで、やや迷信深い協力者と好対照をなしています。
語り手でもあるこの主人公がとにかく現実的で、タイトルにある魔女なんか絶対信じないぞと意気込むものの(もちろん相手はほんものの魔女なので)自分を実験台にするはめになったり被害を広げたりもする等身大のキャラクターになっています。思慮深いんだか無鉄砲なんだかわかりませんが、おかげで読者は不気味な事件の一番こわいところ全てに立ち会えます。

魔女を焼き殺せ! (ナイトランド叢書2-6)


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ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス』(国書刊行会) [幻想文学]

イギリスの小説家ヴァーノン・リー(筆名は男性ですが女性作家です)の幻想小説集です。日本では幻想小説のアンソロジーでときどき目にする名前で、本書にはそうした既訳の短篇もいくつか収録されています。
幻想小説といってもさまざまで、収録された十四の作品も、すべて不思議なできごとを語っているものの読後感はさまざまです。こわい話もありますしロマンティックな話もありますし、笑える話やちょっといい話もあります(すごく泣ける感動秘話はないんじゃないかなと思います)。
帯に「伝説的な幻の女性作家」と書かれるくらいの知る人ぞ知る作家だと思っていたので、立派な一冊の本にまとまって日本語の作品集が出たのは、わたくし個人としては大変な驚きでしたし他にもびっくりした人はたくさんいると思います。すでに名前を知っている人はもちろん、知らない方にもぜひ一つ一つ読んでいただきたい作家さんなんですよ。
キリスト教以前のヨーロッパの神々やなくなって久しい人物など、ふいに現れて人々を翻弄する過去の美しさが印象的ですが、懐古趣味だけにとどまらず、ところどころで思いがけないユーモアがにじみ出るのも素敵です。聖人伝風味のものや、タイトルどおりのお話としかいいようがない「神々と騎士タンホイザー」などは全体の中ではちょっと異色に見えるけれどヴァーノン・リーらしくて面白いです。

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

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『幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集』(松籟社) [幻想文学]

副題がふるっているじゃありませんか。ベルギーはオランダ語・フランス語・ドイツ語の三つが公用語となっている国ですが、中でも二十世紀後半までフランス語が日常的に使われていた北部フランドル地方を中心に編まれた幻想文学のアンソロジーです。これだけエリアと地域を絞って、テーマに沿った短編集ができるんですからたいしたものです。
収録された作家は全部で八人。マーテルランクやローデンバックは日本でもご存じの方はたくさんいらっしゃるかと思いますが、あとは見たこともない名前がいくつも並んでいます(わたくし調べ)。わたくし自身は以前読んだ『マルペルチュイ』があまりにすばらしかったジャン・レーが目当てで手に取りました。ジャン・レーの新しく日本語で読める作品がここにあることが嬉しいです。
それにしても、こんなに「幻想」の二文字が似合う地域ってなかなかありませんよね。ベルギーの文化の特異な歴史については解説でも少しだけ触れられていますけれども、日常生活からの踏み外し方がどの作品も感動するほどみごとです。そもそも日常なんてあったのかと疑いたくなるような世界に入り込んで、しばらく戻ってこられない覚悟で読みたい一冊です。
フランス・エレンス「分身」は比較的現実的な世界のお話で、アメリカやヨーロッパの怪奇小説でもよく出てくるテーマを扱っているのですが度肝を抜かれました。ほんとうに地に足のついた語り口なのですが、幻想小説のようなSFのような得体の知れない展開をします。

幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集


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キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫) [幻想文学]

真夜中に車を飛ばすマイクは、家まで乗せてほしいと頼む少女をきっかけに、十代の子どもたちだけが眠る墓地へと迷い込む。そこでは若くして命を落とした少年少女が、自分たちの最期の物語を次々と語り出して……
19~21世紀のシカゴ周辺、時代も環境もばらばらな十代の子どもたちの幽霊がひたすら自分たちの死に際を語る連作短篇集です。因果応報であったり理不尽であったり、そこに至る理由はさまざまですが、とにかく結末はぜんぶ最初から決まっています。そもそも子どもたちの幽霊が出てくる時点でファンタジーなんですけれども、彼らを死に追いやる存在もエイリアンに悪魔に古代の呪いにとバラエティに富んでいます。驚くことに、ひどい話ぞろいながら読後感はそれほど悪くなかったんですよ。語られる時代の並びはばらばらですが、年代順に追ってゆくとシカゴの歴史が浮かび上がってくる楽しみもあります。
とにかくさいごに死ぬ話ばかりなのでお気に入りを語り合うのもはばかられますが、どの作品もどこかしらユーモアが感じられるのも素敵なところです。わたくしは慣れ親しんだ名前と場面がいくつも出てくる「エドガー」が特に好きです。

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)


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