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ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫) [幻想文学]

お仕置きとして閉じ込められた部屋の中、鏡に映ったチェスの駒に誘われて「鏡のこっち側」の世界に迷い込んだぼく。雄弁に物語る白の王さまをはじめとする駒たちや、かつて一度でも鏡に姿を映したことのある人々とともに不思議なできごとに巻き込まれ、元いた場所へ戻る手立てを探るが……
わたくしがボンテンペッリを知ったのは筑摩書房のアンソロジーで、おもしろい名前でおもしろい話を書く人だなぁというので印象に残っていたですが、まさか今になって新しい翻訳で読めるとは想像だにしませんでした。長生きはするものです。
鏡の向こうの世界に行ってしまう少年が主人公ですからどうしても『鏡の国のアリス』を連想してしまいますが、この主人公の冒険は当然ながらだいぶ趣が異なります。鏡の中に存在するチェスの王さまやしゃべるマネキンとの対話は、ナンセンスでありながらもどこか哲学的で読者をひやっとさせるものがあります。もともとは子ども向けのお話なんですけれども、漫画っぽくくすりと笑える挿絵に引きつけられてすらすら読んでいると、びっくりするような形で鏡の中から作者がこっちを見ているような気がするんですよ。

鏡の前のチェス盤 (古典新訳文庫)


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高原英理編『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(ちくま文庫) [幻想文学]

かわいくて素敵な文章を集めたアンソロジーです。高原さんはこういうものも扱われてる方ですが今回は文句なしにかわいくてキュートで尊いのでご安心ください。
かわいいにもいろいろあるとお思いでしょうが、もう間違いなくかわいい小動物や犬や猫、幼子に加えて、使われていることばそれ自体がかわいい作品や味わい深いかわいさのある年配の人々、不思議ないきものまで集められています。形式も小説のほか短歌や俳句や詩、ひとつだけ挿絵つきの絵本も入っています。
甘いばかりではなくてたまにほろ苦かったりぴりっとしたりもするものの、とにかくかわいいことにおいては文句のつけようがありません。割とほかのところで目にしている作家さんの名前もありまして、どなたも以前からのイメージとはがらりと変わる思いがけないかわいさなのも新鮮でした。わたくしは町田康「私の秋、ポチの秋」、小川未明「月夜と眼鏡」でもうぶっ倒れるんじゃないかと思いましたね。何なんですかねこのかわいいテキストは。
一歩引いて頭を冷やして考えてみると、人に「かわいい」という感情を引き起こすものが何なのかを分析するための資料としても優れています。それはそれとしてかわいいです。かわいい。

ファイン/キュート 素敵かわいい作品選 (ちくま文庫)

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本堂平四郎『怪談と名刀』(双葉文庫) [幻想文学]

名刀にまつわる怪談、と言いますか主に化け物退治のエピソードを集めた連作です。羅生門の鬼とかそのくらいメジャーなやつは敢えて省いて、民間収蔵の刀を取り上げているのが新鮮です。
まずは刀にまつわる奇談を語り、それからそれぞれの章末で刀や刀工の来歴についても説明してくれる構成になっています。著者はじっさいに刀を手にすることもあった人なので、この解説の部分が実に楽しそうです。明治生まれの人でもありますけれども、文章はたまに会話が擬古文になるくらいでとても読みやすいです。
出てくる怪異はだいたい猛獣であったり化け猫であったりたまに怨念だったりして、どれも化け物はきっちり退治する昔話のような世界です。刀の来歴はしっかりした歴史に基づいているようなのに当たり前のように不思議な話がセットでついてくるんですよ。もっとも長い「藤馬物語」は幕末が舞台で、著者自身が面識のある人物が主人公なのですが、時代の流れに翻弄されるばかりかと思いきや終盤でいきなり化け物退治になります。
刀剣をテーマに絞っただけでこれだけ怪談が出てくるとは想像していなかったので大変興味深く読みました。刀はそうでもなくても妖怪に興味ある人にも楽しめそうです。

怪談と名刀 (双葉文庫)

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J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫) [幻想文学]

各種の怪奇小説アンソロジーの常連、「吸血鬼カーミラ」で知られるレ・ファニュの、なんと約半世紀ぶりになる日本オリジナル短篇集です。そうです前回が平井呈一によるその『吸血鬼カーミラ』です。
短めでファンタジーなこわい話が四つと、ちょっと長めで超自然要素のない犯罪小説系サスペンスが一つ入っています。後者が表題作の「ドラゴン・ヴォランの部屋」で、こちらがタイトルになっているということは一番おすすめの作品なんでしょうかね。わたくしも同感です。
ディケンズやウィルキー・コリンズと同時代の娯楽小説作家としてのレ・ファニュが楽しめる中篇で、幽霊はいっさい登場しないかわりに怪しい占い師や謎の美女、正体不明の貴族に人が消える部屋などミステリっぽい要素がぞろぞろ出てきます。1815年のフランスを舞台に、だいぶ脇が甘い英国人の主人公が活躍したりひどい目に遭ったりする、サスペンスのみならずユーモアも感じさせる名品です。ほどよい長さでさくさく進んでびしっと終わるキレの良さもよろしいです。
その他の短篇は悪魔や妖精が登場し、作者の故郷アイルランドの伝説を思わせる静かで少し不気味でもある作品が並んでいます。表題作とはがらりと雰囲気が変わるので、いっしょに読んでびっくりしていただきたいですね。

ドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)


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岡本綺堂『青蛙堂鬼談』(中公文庫) [幻想文学]

青蛙堂主人を名乗る紳士のもとに集められた参加者たちが順番に怪談を語る、百物語形式の短篇集です。
当時としてはまだ少し昔である江戸時代の話、あるいは語り手がじっさいに経験した怪異がたくさん出てくるので、なんともいえない実話っぽさがあります。実は元ネタがいろいろあって、主に中国の怪談をアレンジしているようなのですが、特に違和感なく日本の昔話のような気持ちで楽しめました。
ほのぼのと心温まるエピソードより、とにかくぞっとするお話が印象に残っています。怪異の原因がなんだったのか、はっきりと説明はされなくてもおぼろげに察しがつく回もありますけれども、まったく何なのかよくわからないまま終わる「猿の眼」は強烈です。特に大きな被害が出たわけではないのですが、とにかく怖いです。もともとこの会に集まった人々は怪談収集を本格的にやっているわけでもない一般市民の皆さんなので、隠された真相に迫る手段があるわけでもなく「その後どうなったかはわかりません」で平気で終わってしまうのも、本当にあったこわい話感を高めています。

青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂読物集二 (中公文庫)


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佐藤さくら『魔導の系譜』(創元推理文庫) [幻想文学]

魔導士が虐げられている国ラバルタ。辺境の村で私塾をいとなむ魔導士レオンは旧知の人物の依頼で、才能に恵まれながらも魔導の教育を拒否する少年ゼクスをあずかる。やがてレオンの指導のもとでたぐいまれな能力を開花させたゼクスは王家直属の魔術研究機関へ招かれるが、そこでの出会いはラバルタの歴史を揺るがし、師弟の運命をも大きく変えてゆくことに……
世界設定から舞台となる国の歴史までじっくり描かれる渋めのファンタジーでございます。田舎の村はずれに暮らす三流魔導士レオンが仕方なく弟子を引き受ける圧倒的に地味な滑り出し、独自の手法で辛抱強く指導を続けるレオンとゼクスの日々があるときを境にしてがらりと変わり、ゼクスが自分の道を歩みはじめてから物語が大きく動き出します。出発点を思えばとても信じられないような場所へ、読者は主人公たちといっしょに運ばれることになります。
文庫一冊で全三部構成のみっしり中身が詰まった長篇小説です。三冊で書こうと思えばできそうなくらい濃密な、ある国の歴史の一幕を目撃した読後感がありました。この本の中に書かれたことがすべてではないし、書かれていない部分に無数の物語が存在するとわかる、そういう小説がどうにも好みでいけません。

魔導の系譜 (創元推理文庫)


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ジャック・ヴァンス『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』(国書刊行会) [幻想文学]

数十億年の超未来、科学が衰退し魔法が復活した滅びゆく地球。小悪党キューゲルは秘宝目当てに〈笑う魔術師〉イウカウヌの城へ忍び込むがまんまと捕まり、天界を映し出す魔法の尖頭を探す旅に送り出されてしまう。北の地に飛ばされたキューゲルは探し物を手に入れ、どこまでも広がる危険な荒野や砂漠を越えて魔術師への復讐を果たすことができるのか?
未来の話といっても魔法が復活した世界ですからだいたいはSFというよりファンタジーです。表紙のイラストにいる、ちょっとメカっぽい乗り物に乗った美女はちゃんと登場しますのでご安心下さい。そしてこれは大切なことなので最初に言っておきたいのですが、主人公がほんとうにしょうもない小悪党です。そもそも北の果てに飛ばされてさんざん苦労するはめになるのだって、魔術師のお宝を狙ってやり替えされての自業自得ですからね。
彼が似たり寄ったりの悪党たちを相手に悪知恵をはたらかせたり、人助けをしておいしいところだけ持って行こうとしたりしながらどうにか魔術師の城へ戻ろうとする連作集で、未来世界のろくでもないやつらがぞろぞろ登場します。キューゲルが行く先々で遭遇する異様な生き物や魔法のイメージは想像力豊かでどれも楽しくちょっと怖く、でも根っこのところがろくでなしのだましあいですから難しく考えなくても楽しいピカレスク・ロマンとなっています。

天界の眼: 切れ者キューゲルの冒険 (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

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ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』(国書刊行会) [幻想文学]

動きの悪魔』で一躍わたくしの注目を集めたステファン・グラビンスキの日本では二冊目の短篇集です。『動きの悪魔』は鉄道をテーマにした作品でまとめられていましたが、こちらはもっと幅広い怪異、心理的な恐怖をたくさん取り扱っています。
「ポーランドのラヴクラフト」、あるいはポーや夢野久作との類似点も指摘されているというお話が訳者あとがきにありますけれども、芥川龍之介の晩年みたいな得体の知れない不安感もちょっと感じました。
文章が詩的で濃密なぶん、明らかに道を踏み外してゆく主人公の心理がよけいにおそろしくてすばらしいです。どうあっても最終的に破滅に至るお話ばかりなんですけれども道筋はさまざまで、冒頭に置かれた「薔薇の丘にて」は耽美的でありながら不安な世界が一気に奈落へ落ち込むような結末でしょっぱなから痺れました。ポーともラヴクラフトとも違う作家を意識したと思われる、まるで冒険小説みたいな舞台設定を用意した「煙の集落」には驚かされましたね。

狂気の巡礼


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アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(アトリエサード) [幻想文学]

カナダの森林地帯をおとずれた狩猟家たちが遭遇する怪異を描いた表題作のほか、中篇2作品をおさめたぜいたくな幻想小説集です。
表題作では森林地帯にひそむ超越的な存在が主人公たちのそばを横切り、ほんの少しだ接触してまた森の中へ消えてしまいます。あれはいったい何だったのか確かなことは誰もわからないまま、怖ろしくも美しくぞっとするものに触れてしまった印象が残ります。きっとこういう何者かは、カナダだけじゃなく日本の山や森にもいるんですよ。
同時に収録された「砂」「アーニィ卿の再生」はいずれも、エジプトの砂漠やフランスの山中で人間の理解を超えた何かが出現する儀式に立ち会うお話です。舞台となる地域や結末はそれぞれ異なるのですが、「ウェンディゴ」も含め神秘的な存在との接触を題材にとった、境界線を踏み越えてやってくるもの(もしくは踏み越えた人間が目撃するもの)の目には見えない姿が忘れがたい名作でした。
わたくし初めてブラックウッドを読んだのはもうずいぶん前で、正直なところ秘儀参入とか幻視者の夢とかよくわからなかったのですが、今回は何となく味わいがわかるような気がして成長できたような気になりました。

ウェンディゴ (ナイトランド叢書)


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L・P・デイビス『忌まわしき絆』(論創社) [幻想文学]

小学校で起きた不可解な死亡事故。担当教師だったわたしは、同じクラスの少年の奇妙なふるまいに不審を感じて独自の調査を開始する。やがて少年と同じ特徴を持つ子どもたちの存在と、彼らの誕生にまつわるおそるべき秘密が明らかになり……
ミステリっぽい導入部からどんどん超自然的なホラーになってゆくサスペンス小説です。SF要素もありますし、1964年に出た頃はジャンル分けが難しかったというのもうなずけます。ざっくりとまとまると、つまり「こわくてハラハラする話」ですね。
SFでもありホラーでもありミステリでもありますが、率直に申し上げまして真相はものすごい力業だと思います(大好きです)。そこだけ切り取るとB級ホラーなのですが、ここに至るまでにあった過去の事件が明らかになるにつれ、別の要素が入り込んでくるところが面白かったです。ネタバレになってしまうので詳しくは話せませんが、ホラー小説好きの人にピンと来るし、それ以外の人はびっくりできるひとひねりある展開でした。

忌まわしき絆 (論創海外ミステリ)


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