山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫) [幻想文学]
大変今さらなニュースです。私の大好きな、しかし文句の付けようがないほどマイナーな作家である山尾悠子が、何と先頃ちくま文庫に収録されました。まさか普通の書店で、山尾悠子推しのPOPを目にする日が来るとは、いや全く夢にも思いませんでした。単行本を既に持っているにもかかわらず、思わず購入してしまいましたよ。
これはとてもめでたい報せなので、文庫化というそれだけのことでも記事にする価値があります。単行本が出たのはこのブログを始める前なので、ちょうど良い機会です。
本書は5つの短篇から成り立つ連作長篇小説で、それぞれ舞台設定も長さも雰囲気もばらばらです。その中では比較的つながりの見えやすい「閑日」と「竈の秋」が気に入っています。特に「竈の秋」の、どたばた喜劇の味わいがだんだん不吉な空気に染まってゆく流れはぞくぞくします。
崩壊が一つの音もなく信仰するような静かな破滅は、この人の作品の中で大好きなところなんですけれども、この連作ではその後の世界が続いています。続く「トビアス」「青金石」まで全て読み終えてからでないと、この本については語れません。最初から最後まで通して読むと、作品の雰囲気の移り変わりにあわせて自分の感じ方までくるくる変わるようで、一作ごとに別の世界を旅してきた気分になれます。
これを機に山尾悠子の他の作品にも触れる方が増えたら、こんなに嬉しいことはありません。ちょうど入門編にぴったりの傑作選『夢の遠近法』もありますしね。

これはとてもめでたい報せなので、文庫化というそれだけのことでも記事にする価値があります。単行本が出たのはこのブログを始める前なので、ちょうど良い機会です。
本書は5つの短篇から成り立つ連作長篇小説で、それぞれ舞台設定も長さも雰囲気もばらばらです。その中では比較的つながりの見えやすい「閑日」と「竈の秋」が気に入っています。特に「竈の秋」の、どたばた喜劇の味わいがだんだん不吉な空気に染まってゆく流れはぞくぞくします。
崩壊が一つの音もなく信仰するような静かな破滅は、この人の作品の中で大好きなところなんですけれども、この連作ではその後の世界が続いています。続く「トビアス」「青金石」まで全て読み終えてからでないと、この本については語れません。最初から最後まで通して読むと、作品の雰囲気の移り変わりにあわせて自分の感じ方までくるくる変わるようで、一作ごとに別の世界を旅してきた気分になれます。
これを機に山尾悠子の他の作品にも触れる方が増えたら、こんなに嬉しいことはありません。ちょうど入門編にぴったりの傑作選『夢の遠近法』もありますしね。

チュツオーラ『やし酒飲み』 [幻想文学]
こちらはアフリカ出身の作家による幻想的な冒険(?)小説です。カップリングの『アフリカの日々』とは全然タイプが違うので、切り替えが大変です。まず『アフリカの日々』で印象深かった果てしなく広がる大地の代わりに、ほとんど森の中で過ごすところからしてがらりと変わりますね。
あらすじを説明すると、やし酒が大好きな男が、死んでしまった自分専属のやし酒造りにもう一度会うために、はるばる死者の町まで旅をする話です。目的地までの道中、平気で数ヶ月~数年くらいの道草は食っています。
語り始めの部分では全く触れられませんが、途中で主人公が思い出したところによると彼は"この世のことはなんでもできる、神々の〈父〉"なので、どんな怪物に出会っても窮地に追い込まれても、不思議な力を駆使してピンチを切り抜けます。一寸法師や長靴を履いた猫とは違って、知恵やとんちではなく力業で対応し続けるのが新鮮ですね、こんな昔話の主人公はあんまり見かけませんよ。
旅の間に出会う化け物たちも奇想天外で、完全無欠の人間の姿に偽装する頭蓋骨だけの紳士とか、この世の全てを食い尽くしかねない「飢えた生物」など…この生物の正体については、「戦いを終えた時は夜明け前でまだ暗かったので、詳しく描写できない」と語られ、どういう存在なのかいまいち判然としません。化け物の相手をしている主人公も相当無茶で、他では見たことのないような展開で最初から最後までページが埋まっています。
アフリカのあまりにも原始的でステレオタイプな面を強調した文学だというので、発表当時は批判も多かった小説ですが、残念ながらすごく面白い作品です。ネガティブな偏見もポジティブな固定観念も全部外して、まあ一度読んでみて下さい。

あらすじを説明すると、やし酒が大好きな男が、死んでしまった自分専属のやし酒造りにもう一度会うために、はるばる死者の町まで旅をする話です。目的地までの道中、平気で数ヶ月~数年くらいの道草は食っています。
語り始めの部分では全く触れられませんが、途中で主人公が思い出したところによると彼は"この世のことはなんでもできる、神々の〈父〉"なので、どんな怪物に出会っても窮地に追い込まれても、不思議な力を駆使してピンチを切り抜けます。一寸法師や長靴を履いた猫とは違って、知恵やとんちではなく力業で対応し続けるのが新鮮ですね、こんな昔話の主人公はあんまり見かけませんよ。
旅の間に出会う化け物たちも奇想天外で、完全無欠の人間の姿に偽装する頭蓋骨だけの紳士とか、この世の全てを食い尽くしかねない「飢えた生物」など…この生物の正体については、「戦いを終えた時は夜明け前でまだ暗かったので、詳しく描写できない」と語られ、どういう存在なのかいまいち判然としません。化け物の相手をしている主人公も相当無茶で、他では見たことのないような展開で最初から最後までページが埋まっています。
アフリカのあまりにも原始的でステレオタイプな面を強調した文学だというので、発表当時は批判も多かった小説ですが、残念ながらすごく面白い作品です。ネガティブな偏見もポジティブな固定観念も全部外して、まあ一度読んでみて下さい。

須永朝彦『天使』(国書刊行会) [幻想文学]
天使や吸血鬼がたくさん登場する、しかし幻想小説と呼ぶよりは耽美小説と呼びたい作品集です。『意志表』の次に手に取りまして、正直、何と楽に読めるのかと感動したですよ。精緻な描写が心地良く、イメージをそのまま楽しむ読書の時間を過ごしました。ただきれいなだけでなく全体的に毒があって、浮かれていて痛い目に遭う主人公を見ているのが楽しい、という部分も少々。
1970年代にさまざまな媒体に発表された作品を収録しており、最初から連作として書かれたわけではないと思いますが、各篇に共通する人名や地名がたびたび登場します。1度目は、見覚えのある名前が出てくるたびにいちいちページをめくって確かめながら読み終えたので、今度は勝手に各篇のつながりを整理しながら読み進めたいですね。

1970年代にさまざまな媒体に発表された作品を収録しており、最初から連作として書かれたわけではないと思いますが、各篇に共通する人名や地名がたびたび登場します。1度目は、見覚えのある名前が出てくるたびにいちいちページをめくって確かめながら読み終えたので、今度は勝手に各篇のつながりを整理しながら読み進めたいですね。

山尾悠子『歪み真珠』(国書刊行会) [幻想文学]
掌編集ということで、ごく短い小説15篇が収められた美しい1冊です。一つだけちょっと長めの「ドロテアの首と銀の皿」も短篇レベルの長さなので、どこから読んでもあっという間に終わる、ものすごく濃密な時間が15個詰まっているような様子です。
今まで読んできた短篇のイメージでは、割と異様な迫力に満ちた(=怖い)作品が多かったように思うですが、本書ではかわいいと思ってしまうような掌編もあってびっくりしました。と言いつつも、やっぱり一番気に入っているのは怖い怖いお話、季刊「幻想文学」誌に掲載された「夜の宮殿と輝くまひるの塔」なんですけれども。
バーン=ジョーンズの”The Passing of Venus”のイメージを元にした「美神の通過」の、雰囲気だけ見るときれいなのに実際に読み終えると狂躁と笑いが残る味わいが大変好きです。どういう話かと言われたら、美神が通過していくだけのお話ですよ、それはもう。
今回一冊の本にまとまったものを読んでみると、上に挙げた「美神の通過」「夜の宮殿と~」、その他の掌編にも絵画的なイメージが強く感じられました。象徴主義とかラファエル前派の不健康そうな部分が好きな方は、ちょっと読んでみて下さい。
ところで「向日性について」は、途中まで見えない都市 (河出文庫)』路線の話かと思っていたんですけれども、まさか日本の中国地方(山陽と山陰)についての話ではないですよね。岡山出身の人ですし。

今まで読んできた短篇のイメージでは、割と異様な迫力に満ちた(=怖い)作品が多かったように思うですが、本書ではかわいいと思ってしまうような掌編もあってびっくりしました。と言いつつも、やっぱり一番気に入っているのは怖い怖いお話、季刊「幻想文学」誌に掲載された「夜の宮殿と輝くまひるの塔」なんですけれども。
バーン=ジョーンズの”The Passing of Venus”のイメージを元にした「美神の通過」の、雰囲気だけ見るときれいなのに実際に読み終えると狂躁と笑いが残る味わいが大変好きです。どういう話かと言われたら、美神が通過していくだけのお話ですよ、それはもう。
今回一冊の本にまとまったものを読んでみると、上に挙げた「美神の通過」「夜の宮殿と~」、その他の掌編にも絵画的なイメージが強く感じられました。象徴主義とかラファエル前派の不健康そうな部分が好きな方は、ちょっと読んでみて下さい。
ところで「向日性について」は、途中まで見えない都市 (河出文庫)』路線の話かと思っていたんですけれども、まさか日本の中国地方(山陽と山陰)についての話ではないですよね。岡山出身の人ですし。

『夢の遠近法 山尾悠子初期短篇選』(国書刊行会) [幻想文学]
2000年に出た『山尾悠子作品集成』の中から自選の短篇11作品を収録した普及版ぽい本です。私は集成をしっかり持っているにもかかわらず、表紙が格好良かったのでつい買ってしまいました。
どれも選りすぐりの、代表作と呼んで差し支えない短篇ばかりなので、まだ山尾悠子をご存じない方への入門編としておすすめできます。ここでピンと来たら、『集成』や最近の作品のほうに行ってみて下さい。長い沈黙を破って、今や「初期」短篇選を出せるくらい活動してらっしゃるので。
付録として、単行本未収録エッセイ4篇の入った栞が付いています。このエッセイにの中にはまるで短編小説のような趣を感じるものがあり、まるでエッセイのような顔をしてフィクションを書いていたボルヘスを連想しました。私が山尾さんの作品中で一番最初に触れた「遠近法」は、うっかり設定がボルヘスの短篇「バベルの図書館」と似てしまったという逸話があり、しかしこんなところでボルヘスとの妙なつながりを見つけるとは思いませんでした。
このおまけエッセイの一つ「ラヴクラフトとその偽作集団」には大いに頷くところがあったですが、その辺はまたの機会に。幻想文学のお好きな方には栞もおすすめです。

どれも選りすぐりの、代表作と呼んで差し支えない短篇ばかりなので、まだ山尾悠子をご存じない方への入門編としておすすめできます。ここでピンと来たら、『集成』や最近の作品のほうに行ってみて下さい。長い沈黙を破って、今や「初期」短篇選を出せるくらい活動してらっしゃるので。
付録として、単行本未収録エッセイ4篇の入った栞が付いています。このエッセイにの中にはまるで短編小説のような趣を感じるものがあり、まるでエッセイのような顔をしてフィクションを書いていたボルヘスを連想しました。私が山尾さんの作品中で一番最初に触れた「遠近法」は、うっかり設定がボルヘスの短篇「バベルの図書館」と似てしまったという逸話があり、しかしこんなところでボルヘスとの妙なつながりを見つけるとは思いませんでした。
このおまけエッセイの一つ「ラヴクラフトとその偽作集団」には大いに頷くところがあったですが、その辺はまたの機会に。幻想文学のお好きな方には栞もおすすめです。

東雅夫編『幸田露伴集 怪談』(ちくま文庫) [幻想文学]
〈文豪怪談傑作選〉シリーズに満を持して幸田露伴先生が登場です。山の奥で謎の美女と出会う「対髑髏」をはじめとした、まさに近代日本幻想文学のさきがけとも呼ぶべき作品が多数収録されており、シリーズファンの方は必読です。それにしても何故ここに来てやっと露伴なのかと思わず問いたくなる内容ですよ。何故ここに来てやっとだったのかについては、解説を読んで納得しました。
語り口調の心地良い「幻談」の終盤でじわじわ染みてくる怖さに腰を抜かしそうになった私ですが、勇気を出して読み進めてみると、そんなに怖い話ばかりではありませんでした。それよりも純粋に不思議な話や、どうしてこの人はこんなことを知っているのかと思うようなマニアックな話の多さに驚きです。浦島太郎の百代目の子孫が魔道を志す「新浦島」は、ぞろぞろ出てくる魔法やら妖術に目を奪われますし、「魔法修行者」や「怪談」で際限なく挙げられる歴史の中に登場する怪異の数々にはもう呆然としてしまいました。いくら漢籍に詳しいといっても、こんなところまで極める人はなかなかいないのじゃないでしょうか。
また、随筆の端々に見える露伴の人柄や、漢語が多くリズム感のある小説の文章も、慣れてくるとなかなか楽しいです。小説作品では、別に妖術も出てこないしどうという事は起きていないような気もする、しかし何か別の世界に一瞬だけ放り込まれたような「観画談」の不思議な味わいが好きですね。

語り口調の心地良い「幻談」の終盤でじわじわ染みてくる怖さに腰を抜かしそうになった私ですが、勇気を出して読み進めてみると、そんなに怖い話ばかりではありませんでした。それよりも純粋に不思議な話や、どうしてこの人はこんなことを知っているのかと思うようなマニアックな話の多さに驚きです。浦島太郎の百代目の子孫が魔道を志す「新浦島」は、ぞろぞろ出てくる魔法やら妖術に目を奪われますし、「魔法修行者」や「怪談」で際限なく挙げられる歴史の中に登場する怪異の数々にはもう呆然としてしまいました。いくら漢籍に詳しいといっても、こんなところまで極める人はなかなかいないのじゃないでしょうか。
また、随筆の端々に見える露伴の人柄や、漢語が多くリズム感のある小説の文章も、慣れてくるとなかなか楽しいです。小説作品では、別に妖術も出てこないしどうという事は起きていないような気もする、しかし何か別の世界に一瞬だけ放り込まれたような「観画談」の不思議な味わいが好きですね。

東雅夫編『芥川龍之介集 妖婆』(ちくま文庫) [幻想文学]
〈文豪怪談傑作選〉の1冊。晩年には自分の分身を目撃したり、ほんまもんの幻想世界に足を踏み入れていた人だけあって、洒落にならないくらい恐い話が色々出てきます。
芥川龍之介作品の中で、”洒落にならないくらい恐い話”となると断然お気に入りなのは「羅生門」「地獄変」です。本書はもっとマイナーな名品が目白押しで、特に表題作「妖婆」の異様な雰囲気、念の入った怪異の演出は必見です。後に「アグニの神」に改鋳したということで作者自身は全集から省くよう注記したそうですが、単なる原型にとどまらない怖さがありました。これは子供が読んだら泣いてしまいますよ。
びっくりしたのは、〈The Modern Series of English Literature〉という旧制高校向けの英語副読本シリーズの序文抄録です。芥川が編集したこの全集の中身も巻末に収録されていて、目次を見たらびっくりです。ダンセイニだのポオだのビアスだの、幻想文学界でおなじみの名前が出るわ出るわ。だいたい1巻の表題が”Modern Fairy Tales.”って何ですか。ぜひ使ってみたい副読本です。

芥川龍之介作品の中で、”洒落にならないくらい恐い話”となると断然お気に入りなのは「羅生門」「地獄変」です。本書はもっとマイナーな名品が目白押しで、特に表題作「妖婆」の異様な雰囲気、念の入った怪異の演出は必見です。後に「アグニの神」に改鋳したということで作者自身は全集から省くよう注記したそうですが、単なる原型にとどまらない怖さがありました。これは子供が読んだら泣いてしまいますよ。
びっくりしたのは、〈The Modern Series of English Literature〉という旧制高校向けの英語副読本シリーズの序文抄録です。芥川が編集したこの全集の中身も巻末に収録されていて、目次を見たらびっくりです。ダンセイニだのポオだのビアスだの、幻想文学界でおなじみの名前が出るわ出るわ。だいたい1巻の表題が”Modern Fairy Tales.”って何ですか。ぜひ使ってみたい副読本です。

キアラン・カーソン『シャムロック・ティー』(東京創元社) [幻想文学]
摂取した人間に幻視をもたらす秘薬「シャムロック・ティー」をめぐる時空を越えた探索の物語、という感じの小説です。大筋を追いますと。というのも、これは本当にそっけなく枝葉を全部切り落としたあらすじで、部分部分を見ていくと全然そんな話をしていないからです。
自分が生まれた世界からはぐれて、別の世界へ来てしまったと語る主人公の一人称で進んでいくですが、これがしょっちゅう脱線して、語り手が主人公以外の人物になることもしばしば。ちょっと「千一夜物語」のようで楽しいです。また、このお話の中のお話に出てくる人々がまたバラエティに富んでいて、コナン・ドイルに(自称)シャーロック・ホームズ氏、ウィトゲンシュタイン、さらにキリスト教の聖人たちのエピソードが大量に登場します。つまり、探偵小説とかウィトゲンシュタイン、聖人伝に興味のある人は必読…と言えるような真面目な本では、あまりなかったですね。すいません。
別の世界云々という部分だけ取り出すと、ある意味でSF小説にもなりますし、執拗に繰り返される聖人たちの伝説にスポットを当てると幻想小説になってしまいます。また、目次にずらずら並んだ色を表す単語を見ていると、美術に興味がある人にも面白い本のような気がします。ヤン・ファン・エイクのアルノルフィーニ夫妻の肖像が重要な鍵を握っているので、西洋画についての本と呼ぶことも可能かもしれません。
とにかく不思議な話、キツネに摘まれたような話が好きな方はぜひ読んでみて下さい。あと、これは全くのイメージで言うんですけれども、ウィトゲンシュタインファンの方もぜひ。私は本書があまり面白かったので、勢いで『論理哲学論考』を購入してしまいました。

自分が生まれた世界からはぐれて、別の世界へ来てしまったと語る主人公の一人称で進んでいくですが、これがしょっちゅう脱線して、語り手が主人公以外の人物になることもしばしば。ちょっと「千一夜物語」のようで楽しいです。また、このお話の中のお話に出てくる人々がまたバラエティに富んでいて、コナン・ドイルに(自称)シャーロック・ホームズ氏、ウィトゲンシュタイン、さらにキリスト教の聖人たちのエピソードが大量に登場します。つまり、探偵小説とかウィトゲンシュタイン、聖人伝に興味のある人は必読…と言えるような真面目な本では、あまりなかったですね。すいません。
別の世界云々という部分だけ取り出すと、ある意味でSF小説にもなりますし、執拗に繰り返される聖人たちの伝説にスポットを当てると幻想小説になってしまいます。また、目次にずらずら並んだ色を表す単語を見ていると、美術に興味がある人にも面白い本のような気がします。ヤン・ファン・エイクのアルノルフィーニ夫妻の肖像が重要な鍵を握っているので、西洋画についての本と呼ぶことも可能かもしれません。
とにかく不思議な話、キツネに摘まれたような話が好きな方はぜひ読んでみて下さい。あと、これは全くのイメージで言うんですけれども、ウィトゲンシュタインファンの方もぜひ。私は本書があまり面白かったので、勢いで『論理哲学論考』を購入してしまいました。

ロバート・W・チェイムバーズ『黄衣の王』(創元推理文庫) [幻想文学]
後にラヴクラフトが絶賛したり作品に引用したことでタイトルだけが有名になっていた、戯曲「黄衣の王」を巡る連作短篇4作品が日本語で読めるようになりました。これは正直に言って感動しますよね、「おお、これがあの!!」という調子で。
実際、絶賛にふさわしい素晴らしい雰囲気のある作品で、これはラヴクラフトが好きでも嫌いでもぜひ読んでおくべき幻想小説だと思いました。具体的な恐怖を全面に押し出してくるよりも、不吉な出来事や意味ありげな単語で盛り上げながらクライマックスまで持ってくる、実に渋い連作です。悲鳴を上げるよりは泣きそうになるタイプの恐怖を感じました。1920年のアメリカで書かれた手記という設定の「評判を回復する者」が、出だしからあ然とするような狂いっぷりで特に素晴らしいです。
最初に書いたように、戯曲「黄衣の王」はラヴクラフトが絶賛して自分の小説に借用し、その後ダーレスがラヴクラフトの作品世界を広める段階で、幻想怪奇小説のファンの間でえらい有名になりました。ですけれども今回元ネタである本書を読んで、黄衣の王の正体がどうだとか惑星ヒュアデスがどうのこうのという説明を考えたり分析したりする必要はなかったんじゃないかと思いました。タイトルだけが一人歩きしていた感のある「黄衣の王」は、実はクトゥルー神話とは全然関係ないすぐれた幻想怪奇小説だったんですよ、と…要するに、怖くて面白いお話が好きな人やファンタジー好きの人は絶対読むべきだということです。はい。
連作「黄衣の王」の短篇に加えて、本書には暗殺教団と女魔術師の戦いを題材にした長篇「魂を屠る者」が収録されています。こちらは「黄衣の王」とはがらりと雰囲気の違う、妖術を駆使する敵との命がけの死闘やミステリアスな美女が続々出てくる伝奇小説。現代日本でいうと、なんとかノベルズから出ていそうなイメージですね。
巻末の解説によれば、怪奇小説ばかりではなく普通の恋愛小説や歴史小説もたくさん書いていた売れっ子作家だったそうで、今後は他の作品も日本に紹介されないものかと思ってしまいました。

実際、絶賛にふさわしい素晴らしい雰囲気のある作品で、これはラヴクラフトが好きでも嫌いでもぜひ読んでおくべき幻想小説だと思いました。具体的な恐怖を全面に押し出してくるよりも、不吉な出来事や意味ありげな単語で盛り上げながらクライマックスまで持ってくる、実に渋い連作です。悲鳴を上げるよりは泣きそうになるタイプの恐怖を感じました。1920年のアメリカで書かれた手記という設定の「評判を回復する者」が、出だしからあ然とするような狂いっぷりで特に素晴らしいです。
最初に書いたように、戯曲「黄衣の王」はラヴクラフトが絶賛して自分の小説に借用し、その後ダーレスがラヴクラフトの作品世界を広める段階で、幻想怪奇小説のファンの間でえらい有名になりました。ですけれども今回元ネタである本書を読んで、黄衣の王の正体がどうだとか惑星ヒュアデスがどうのこうのという説明を考えたり分析したりする必要はなかったんじゃないかと思いました。タイトルだけが一人歩きしていた感のある「黄衣の王」は、実はクトゥルー神話とは全然関係ないすぐれた幻想怪奇小説だったんですよ、と…要するに、怖くて面白いお話が好きな人やファンタジー好きの人は絶対読むべきだということです。はい。
連作「黄衣の王」の短篇に加えて、本書には暗殺教団と女魔術師の戦いを題材にした長篇「魂を屠る者」が収録されています。こちらは「黄衣の王」とはがらりと雰囲気の違う、妖術を駆使する敵との命がけの死闘やミステリアスな美女が続々出てくる伝奇小説。現代日本でいうと、なんとかノベルズから出ていそうなイメージですね。
巻末の解説によれば、怪奇小説ばかりではなく普通の恋愛小説や歴史小説もたくさん書いていた売れっ子作家だったそうで、今後は他の作品も日本に紹介されないものかと思ってしまいました。

ハーバート・ヴァン・サール編『終わらない悪夢』(論創社) [幻想文学]
イギリスのアンソロジストによる、びっくりするほどマイナーな作家がどっさり入った怪奇小説のアンソロジーです。短めの作品が多く20篇も入っているので、それでもどこかで見た名前が4分の1くらいはいるんじゃないかと思っていたら、結局二人しか知っている人がいませんでしたよ。
その二人が誰かというと、まず日本でも短篇集がたくさん編まれているジョン・コリア「緑の想い」。これもいろんなアンソロジーに採られている有名な作品ですね。もう一人はジョン・レノンで、同姓同名の無名作家とかではなく、あなたの知っているあのジョン・レノンです。そして残りの十数人が、全員を合わせてもこの二人の知名度に及ばないのじゃないかというくらいの、忘れ去られた作家揃いなんですよ。いや本当に。
略歴が10行にもならずに終わる作家や「身元や経歴が不明」「インターネットで調べても不明」の文字がぞろぞろ出てきて、ああーこりゃいかにもあの頃(?)流行った雑誌に載ってそうな短篇だなあ、と感じる作品がある一方で、これは傑作!と声に出して推薦したい作品がひょっこり出てくるのがたまりません。場面が映画のセットのように浮かび上がる「レンズの中の迷宮」が、私にとっての本書のMVPです。
惜しいのは、収録された作家の小説がもっと読みたくなっても、ちょっと入手困難な人の割合が大きいことですね。

その二人が誰かというと、まず日本でも短篇集がたくさん編まれているジョン・コリア「緑の想い」。これもいろんなアンソロジーに採られている有名な作品ですね。もう一人はジョン・レノンで、同姓同名の無名作家とかではなく、あなたの知っているあのジョン・レノンです。そして残りの十数人が、全員を合わせてもこの二人の知名度に及ばないのじゃないかというくらいの、忘れ去られた作家揃いなんですよ。いや本当に。
略歴が10行にもならずに終わる作家や「身元や経歴が不明」「インターネットで調べても不明」の文字がぞろぞろ出てきて、ああーこりゃいかにもあの頃(?)流行った雑誌に載ってそうな短篇だなあ、と感じる作品がある一方で、これは傑作!と声に出して推薦したい作品がひょっこり出てくるのがたまりません。場面が映画のセットのように浮かび上がる「レンズの中の迷宮」が、私にとっての本書のMVPです。
惜しいのは、収録された作家の小説がもっと読みたくなっても、ちょっと入手困難な人の割合が大きいことですね。






