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G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち』(創元推理文庫) [ミステリ]

画家にして詩人である青年ガブリエル・ゲイルが奇妙な出来事を奇妙な論理で解き明かす連作集です。日常の謎と呼ぶにはあまりにもなんだかいかれていて、かといって法に触れる犯罪行為ばかりでもない、不思議な話が八つ入っています。
殺人事件や失踪事件など、ふつうの犯罪もあるにはあるんですけれども、真相はいつも突拍子もないところに着地します。それを解き明かしてしまうガブリエル・ゲイルの探偵術(とも言えないような手法)が何よりの見どころです。犯罪に至る前の、そもそも犯罪でもなさそうな事件でも彼は異様な振る舞いを見せ、後に理由が明かされすっきりと解決するお話もあります。個人的にはこちらのお話に属する感じの「ガブリエル・ゲイルの犯罪」が一番ぞっとさせられました。
ずいぶん前に読んだもののいまひとつよくわからず、今回数年ぶりに新訳で再読してようやくわかるようになった感がありますので、初めて読まれる方は意味がわからなくてもしばらく間を置いて読み返していただければと思います。ミステリっぽくない、幻想小説のような現実描写も味わい深い名品です。

詩人と狂人たち (ガブリエル・ゲイルの生涯の逸話)【新訳版】 (創元推理文庫)


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マーガレット・ミラー『まるで天使のような』(創元推理文庫) [ミステリ]

無人の山中に置き去りにされたアマチュアギャンブラーの青年クインは、一夜の宿を求めて〈塔〉と呼ばれる新興宗教の施設にたどり着く。そこで出会った修道女からある男の捜索を頼まれるが、目的の人物は五年前に謎の死を遂げていた。
このあと主人公のクインは、何の関わりもない修道女の依頼を捨て置けずにずるずると調査を続けてゆくことになります。あらすじだけ見るとふつうのハードボイルド・ミステリのようですが、じっさいに読んでいると全編になんともいえない嫌な空気がただよっているのが印象的です。
主な舞台が住民の動向が全員に知れ割っているような小さな町と宗教団体の施設で、その中を行ったり来たりしながらひたすら閉鎖的な世界での人間関係をつきつめてゆく展開ですから、そりゃ重苦しくもなりますよ。
次から次へと事件が起こったり、新たな事実が明らかにされて息つく暇もないかというとさほどではないんですけれども、序盤から中盤、終盤までまんべんなく不気味で重たい雰囲気が楽しめます。読んでる最中の気持ちも読後感もたいへん良くない、それを全編保っていられるんですからまちがいなく傑作ではあります。しんどいですが傑作です。

まるで天使のような (創元推理文庫)

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イーデン・フィルポッツ『灰色の部屋』(創元推理文庫) [ミステリ]

チャドランズ屋敷には、そこで一夜を過ごした人間が謎の死を遂げるといわれる開かずの部屋があった。部屋の謎に挑戦しようとした現当主の娘婿も同じく死因不明の遺体となって発見され、ついにロンドンから派遣された名探偵が調査を開始するのだが……
これはちょっとびっくりしますね。確かに密室状態で人が変死するんですけれども、だからって犯人捜しから隠された因果関係が明らかになって名探偵が真相を明らかにする、そういうスタイルの推理小説とは少し違いますね。もっと大きな分類に入れられる小説だと思うので、ふつうの英国小説の流れの中に置いて読んでいただきたいです。もうちょっとはっきり申し上げますと、犯人捜しのつもりで読むと壁に投げつけたくなる恐れがあります。
とはいえ読んでいるあいだは面白かったです。本格的な調査が始まり真相の解明に向かうかと思われた矢先に発生する思いがけない事件といい、過去から現在までつづく呪われた部屋のミステリといい、英国貴族社会のどことなくのどかな雰囲気と先が気になる展開が絡み合う味わい深い小説でした。最後もミステリだと思っていると肩すかしを食らうような、でもちゃんとびっくりする結末ですし。

灰色の部屋 (創元推理文庫)


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コリン・ワトスン『浴室には誰もいない』(創元推理文庫) [ミステリ]

匿名の手紙をきっかけにした捜査で、ある家の浴室から死体を硫酸で溶かして下水に流した痕跡が見つかった。住人と家主はそろって行方をくらましており、被害者の存在も定かでないまま地元警察による捜索が開始される。一方、ある特殊な事情によりロンドンから派遣された情報部員チームも、独自に行方不明の住人の捜索を始めて……
硫酸で死体をとか情報部員が動くとか、絶対おどろおどろしい事態が待っていると思うじゃないですか。表紙の写真も人のいない浴室でどことなく不吉な感じですし。安心して下さい、そんなに怖くないです。本当ですからびびらずに手に取ってみて下さい。アントニイ・バークリーが本書を激賞したのは、すぐれた本格ミステリだからというだけではないはずです。絶対ちがいます。
意図的なものかそうでないのかわかりませんが、あらすじ紹介や装丁からは連想しにくいことに本書はユーモア・ミステリです。読み終わってから振り返ると、明らかに戦慄するより笑っているページのほうが長かったんですよ。笑ってしまう主なポイントは、地元警察の個性的というよりは好き勝手やっているだけのような面々と、ロンドンからやってきた情報部員の皆さんのどこかで見たような超かっこいい諜報活動です。おっかしいだけでは終わらず、終盤の二転三転する展開ではきっちりミステリの楽しみも味わえますので、ぜひ「硫酸で死体を溶かすとか怖い話では?」とびびりながら騙されたと思って詠んでみて下さい。そしてまんまと騙されて下さい。

浴室には誰もいない (創元推理文庫)


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海野十三『深夜の市長』(創元推理文庫) [ミステリ]

昼間とはまったく別の顔を見せる夜の東京で、深夜の散歩を趣味とする僕は奇怪な殺人事件に遭遇したことをきっかけに「深夜の市長」と呼ばれる怪老人と出会う。警視総監やT市長をも巻き込む陰謀にも関わりを持っているらしい深夜の市長の正体とは?
こんな設定で、一昔前の東京の夜に怪人や権力者たちが入り乱れる表題作のほか、SFっぽいものから本格風ミステリまで短篇作品をあわせて収録した作品集です。もうちょっとシンプルな、推理どころじゃなくひたすら怖いだけの話などもあります。
わたくしはもう「深夜の市長」というタイトルと、そういう名前のキャラクターが登場して大活躍するだけでわくわくしてどうしようもないのですが、昼の光の下とはまるで違う顔を見せる夜の大都市のイメージがまず強烈じゃありませんか。シリアスそうな雰囲気に反して、主人公の行動があまりにも行き当たりばったりで突っ込みどころにあふれていところですとか、大事な用事をすぐ先延ばしにして登場人物に突っ込まれるですとか、あまりにもざっくりした市政ですとか、なかなかドタバタしてコミカルなシーンも多数あります。
そんなに科学にも犯罪捜査にも詳しくないミステリ好きのわたくしが「??」となるところもあるんですけれども、それはそれとしてびっくりするようなアイデアがぞろぞろ出てくるのが楽しい本です。気がついたらこの文庫から海野十三傑作集がもう4冊目で、読めば納得の弾けっぷりでした。

深夜の市長 (創元推理文庫)

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連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』(宝島社文庫) [ミステリ]

それぞれ独立したストーリーのサスペンスもの全9作が収録された短篇集です。ながらく復刊を待ち望まれていた名作だそうで、わたくしはタイトルがあまりにもかっこいいので思わず手に取ったのですが、確かにこれはめったにないようなとんでもない傑作です。
長くても50ページくらいの短編ばかりで、そんなに短いものばかりなのにどれを読んでも何かしらの驚愕におそわれるんですよ。読者をあざむく工夫も、一作ごとに凝らされていて飽きが来ません。ただ読後感の暗さももれなく一緒についてくるので、まとめて読むと気持ちは沈みますね。
短いお話ばかりなのでちょっと内容に触れるとネタバレになってしまいますし、詳しい説明がいるほど長いものはないので、とにかくお読みいただいて技巧に感嘆していただきたい作品集です。わたくしは特に表題作「夜よ鼠たちのために」のおぞましさと純粋さの背中合わせなところが、すごく嫌ですけれども大好きです。

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)


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R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫) [ミステリ]

エジプト学者ベリンガムが謎の失踪を遂げて二年。生死不明のままとなっている彼の遺産相続問題が持ち上がった頃、各地でばらばらになった人間の遺骨が発見される。ベリンガムの遺書をめぐる争いを知った医師バークリーは、法医学者ソーンダイク博士にこの奇妙な事件についての相談を持ちかける……
1911年の古典ともいえる時代の名作ミステリの完訳です。密室状態からの失踪と生死不明の人物、彼の生死如何によって大きく意味が変わる遺言書の存在など、どうにもならなさそうな謎を並べたうえできっちり論理的に片付けるさまは地味ながら手堅く味わい深いです。意外すぎる結末や不可能犯罪などの派手な演出がなく退屈という意見もあるようですが、要所要所で出てくるエジプト学トークは読者を煙に巻くいいアクセントになっています。
謎解き以外の味つけがまったく何にもないということはないんですよ。主人公とある女性のあいだに生まれる恋愛要素もありまして、たぶん作者が好きで入れたものだと思うですがほんとうに緊張感に欠けると言いますか、時代を感じるなぁというわかったふうな顔で読むしかありません。そこはすっ飛ばしまして、本格ミステリとしては十分おもしろいですよ。

オシリスの眼 (ちくま文庫)

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ジョン・ディクスン・カー『テニスコートの殺人』(創元推理文庫) [ミステリ]

雨上がりのテニスコートの真ん中で発見された絞殺死体。残された足跡は被害者のものと、被害者の婚約者ブレンダが死体まで往復したものだけだった。彼女の無実を信じる事務弁護士ヒューは、彼女への容疑を逸らしつつ真相を探り始めるが……
足跡が片道しかない絞殺死体という、これはもう誰がどう見ても実行不可能な犯罪ですよ。犯人捜しはもちろんのこと、どうやって実行したのかも追求される歯ごたえのある探偵小説なのですが、全体的なイメージはラブコメディです。殺された男がすごく嫌なやつだわ、婚約者の女性と主人公の青年がうまくいきそうになったりいかなくなりそうになったりするわ、ヒロインには過保護な後見人が付いてたりするわでそりゃもうラブコメです。探偵役として中盤から顔を出すギディオン・フェル博士が奮闘を始める前から、すでに十分コメディ要素が山盛りです。
カーといえばおどろおどろしいオカルト仕立ての舞台設定や人間業では考えられない不可能犯罪のイメージが強いですが、毎回のように作品を彩る男女の恋愛をめぐるどたばたも忘れてはいけません。ついでにもうひとつ外してはいけないと個人的に信じているのが「科学的だけど実現には無理がありそうなトリック」で、本作の足跡なき殺人の真相もまぁ、他のケースには応用できないし無茶だと思いますよ正直なところ。それも含めて、カーの喜劇的で楽しいミステリの中でも代表作と呼んで差し支えないのではないかと思います。

テニスコートの殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

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ジョン・ディクスン・カー『緑のカプセルの謎』(創元推理文庫) [ミステリ]

毒入り菓子事件で不穏な空気が漂う町で、みずから提案した心理学的テストの最中に毒殺された実業家。正体不明の人物に緑のカプセルを飲まされる瞬間を複数の人物が目撃し、テストの一部始終を記録した映像が存在するにもかかわらず、犯人像はいっこうに定まらず……
手がかりは最初からごろごろ転がっているように見える事件なのですが、目撃者の証言は微妙に食い違い、容疑者は浮かび上がったかと思えばすぐに訂正せざるを得なくなる八方ふさがりです。被害者がおこなっていた「心理学的テスト」というのがくせもので、ことあるごとにその内容が思い出される展開になっています。
始まって早々に起こる毒殺事件以前に発生した毒入りチョコレートボンボン事件も未解決のまま、さらにいくつかの事件が発生し、終盤から一気にそれらが収束するさまはお見事でした。振り返ってみるとサブタイトルの「心理学的殺人事件」が大変大きなヒントになっていたような気がします。
事件を記録した映像が重要なカギとなるの著者のハイテク好きな部分が出ていますし、例によって男女の恋愛模様が絡んでくるところもばっちりカーでした。

緑のカプセルの謎【新訳版】 (創元推理文庫)


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マイケル・スレイド『髑髏島の惨劇』(文春文庫) [ミステリ]

カナダ各地で次々と発生する、女性を狙った残虐な殺人事件。カナダ連邦騎馬警察のディクラーク警視正は、事件の背後に19世紀の連続殺人犯の気配を見いだす。一方カナダ連邦騎馬隊のチャンドラーは、呪われた孤島で開催されるミステリ作家たちの推理ゲームに招待されるのだが…
一見まったく無関係なふたつの出来事が同時進行し、いつの間にかリンクして…といいたいところですが、犯人の視点によるシーンがたびたび挿入されるので読者から見るとどう考えてもふたつの出来事には密接な奸計があります。故事成語で表現されるところの「志村後ろー!」という状態です。
とにかく惨劇に次ぐ惨劇、目を覆いたくなる残酷描写が山ほど入っているので人を選ぶ小説です。特に後半、推理ゲームが開始されてからは息つく暇もないので、苦手な方は飛ばし読みも控えたほうが賢明です。
おまけに文庫にして約三センチの厚さの中、延々と繰り広げられる黒魔術講義もあり、しかもそれがちゃんと謎解きとリンクしている辺り『黒死館殺人事件』を彷彿とさせる物量です。仕掛けだらけの城が出てくるところもちょっと似ています。
シリーズ作品ではありますが、メインキャラクターたちの過去がドコドコ明かされるくらいで詳細なネタバレはそんなにはありませんでした。具体的には「これまでのシリーズで健闘空しく大切な人を失ってきた」ことしかわかりません。そういう重たい事情を背負った主人公たちがますますひどい目に遭いながら奮闘する、展開がごちゃごちゃしすぎとか必然性の怪しい殺害シーンとか、しんどい部分も多いもののパワーあふれる小説でした。

髑髏島の惨劇 (文春文庫)


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