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アンドレアス・グルーバー『刺青の殺人者』(創元推理文庫) [ミステリ]

全身の骨を折られ、血を抜きとられた若い女性の他殺死体が発見される。身元確認にやってきた被害者の母は、行方不明になっているもう一人の娘と犯人を見つけようとみずから捜索に乗り出して……
この母親の行動力がものすごくてですね。わたくしはいっそ痛快でしたけれども、普段ひとに振り回されるお仕事をしている方にとってはストレスになるかもしれません。他にも目を覆いたくなるような描写がいろいろ出てくるので、映画化したらPG12ですまないくらいには面白く、そしてやめられないです。
彼女にさんざん引きずり回される、ぜんそく持ちでシングルファーザーのライプツィヒ刑事警察の上級警部が主人公です。もうひとりの主人公であるクライアントに振り回されるウィーンの弁護士も登場し、重なりそうで重ならないふたつのストーリーが並行して進んでゆきます。彼らふたりが最終的に協力してひとつの事件を追うシリーズですが、「前に別の事件でいっしょになったことがある」程度に触れられるだけなのでここから読み始めてもまったく問題ありません。

刺青の殺人者 (創元推理文庫)


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エラリー・クイーン『アメリカ銃の謎』(創元推理文庫) [ミステリ]

大観衆を集めたニューヨークのスタジアム、往年の西部劇スターによるショウが幕を開けた。しかしロデオ一座のカウボーイ四十人の拳銃がいっせいに火を噴いた瞬間、そこには落馬したスターの銃殺死体が……
国名シリーズ第六作にしてエラリー・クイーンの転換点ともいえる意欲作です。どこらへんが転換点なのかは太田忠司さんの解説が詳しいのでぜひご確認下さい。わたくしでもわかった違いとしては、これまでいわゆる「国名シリーズ」ではタイトルになった国とは全然関係ないストーリーだったところを、今回はがっつりアメリカの銃の話ばかりしているところですね。
衆人環視の中で起きた本作の事件は、容疑者が二万人の観客+ステージの四十人という目もくらむようなスケールの犯罪ですが、ちゃんと推理がまとまってちゃんと犯人が指摘されます。転換点という話が出ましたけれども、事件を取り巻く人々の描写に今までよりページを割いている印象があります。

アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)


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久生十蘭『魔都』(創元推理文庫) [ミステリ]

大晦日の東京の夜、夕陽新聞記者の古市加十は日比谷公園の鶴の噴水が唄うという奇妙な噂を耳にする。それをきっかけに知り合った来日中の安南国皇帝は行方をくらまし、さらに彼が持ち込んだとされる宝石をめぐる駆け引きが浮上して……
昭和九年の大晦日から一月二日未明、わずか三日間の東京を駆け抜ける長篇ミステリです。とはいえ明確に指名される犯人を追及するというより、探偵役をつとめる警視庁の眞名古明警視が対決するのはタイトルにもなっている「魔都」東京そのものという趣です。登場早々『レ・ミゼラブル』のジャヴェルそっくりと言われるこの警視と、冒頭で出てきたいかにもぱっとしない記者古市氏の名コンビでみごと事件を解決、という展開には最初に申し上げておきますがならないです。
安南国皇帝の愛人墜死事件、ダイヤモンド行方不明事件、噴水の鶴の歌事件と山積みの問題を前に、辞職願を懐に必死の捜査を続ける眞名古も特ダネを狙う加十も警察もやくざもその他の関係者たちも、みんなして無秩序に大きくなってゆく事件に引きずり回されていただけでは、と読み終えて振り返ると思います。1936年発表の、現実のきなくささをも匂わせる帝都の狂騒に読者もまた巻き込まれ、戻ってこられなくなりそうな都市小説でした。

魔都 (創元推理文庫)


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G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち』(創元推理文庫) [ミステリ]

画家にして詩人である青年ガブリエル・ゲイルが奇妙な出来事を奇妙な論理で解き明かす連作集です。日常の謎と呼ぶにはあまりにもなんだかいかれていて、かといって法に触れる犯罪行為ばかりでもない、不思議な話が八つ入っています。
殺人事件や失踪事件など、ふつうの犯罪もあるにはあるんですけれども、真相はいつも突拍子もないところに着地します。それを解き明かしてしまうガブリエル・ゲイルの探偵術(とも言えないような手法)が何よりの見どころです。犯罪に至る前の、そもそも犯罪でもなさそうな事件でも彼は異様な振る舞いを見せ、後に理由が明かされすっきりと解決するお話もあります。個人的にはこちらのお話に属する感じの「ガブリエル・ゲイルの犯罪」が一番ぞっとさせられました。
ずいぶん前に読んだもののいまひとつよくわからず、今回数年ぶりに新訳で再読してようやくわかるようになった感がありますので、初めて読まれる方は意味がわからなくてもしばらく間を置いて読み返していただければと思います。ミステリっぽくない、幻想小説のような現実描写も味わい深い名品です。

詩人と狂人たち (ガブリエル・ゲイルの生涯の逸話)【新訳版】 (創元推理文庫)


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マーガレット・ミラー『まるで天使のような』(創元推理文庫) [ミステリ]

無人の山中に置き去りにされたアマチュアギャンブラーの青年クインは、一夜の宿を求めて〈塔〉と呼ばれる新興宗教の施設にたどり着く。そこで出会った修道女からある男の捜索を頼まれるが、目的の人物は五年前に謎の死を遂げていた。
このあと主人公のクインは、何の関わりもない修道女の依頼を捨て置けずにずるずると調査を続けてゆくことになります。あらすじだけ見るとふつうのハードボイルド・ミステリのようですが、じっさいに読んでいると全編になんともいえない嫌な空気がただよっているのが印象的です。
主な舞台が住民の動向が全員に知れ割っているような小さな町と宗教団体の施設で、その中を行ったり来たりしながらひたすら閉鎖的な世界での人間関係をつきつめてゆく展開ですから、そりゃ重苦しくもなりますよ。
次から次へと事件が起こったり、新たな事実が明らかにされて息つく暇もないかというとさほどではないんですけれども、序盤から中盤、終盤までまんべんなく不気味で重たい雰囲気が楽しめます。読んでる最中の気持ちも読後感もたいへん良くない、それを全編保っていられるんですからまちがいなく傑作ではあります。しんどいですが傑作です。

まるで天使のような (創元推理文庫)

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イーデン・フィルポッツ『灰色の部屋』(創元推理文庫) [ミステリ]

チャドランズ屋敷には、そこで一夜を過ごした人間が謎の死を遂げるといわれる開かずの部屋があった。部屋の謎に挑戦しようとした現当主の娘婿も同じく死因不明の遺体となって発見され、ついにロンドンから派遣された名探偵が調査を開始するのだが……
これはちょっとびっくりしますね。確かに密室状態で人が変死するんですけれども、だからって犯人捜しから隠された因果関係が明らかになって名探偵が真相を明らかにする、そういうスタイルの推理小説とは少し違いますね。もっと大きな分類に入れられる小説だと思うので、ふつうの英国小説の流れの中に置いて読んでいただきたいです。もうちょっとはっきり申し上げますと、犯人捜しのつもりで読むと壁に投げつけたくなる恐れがあります。
とはいえ読んでいるあいだは面白かったです。本格的な調査が始まり真相の解明に向かうかと思われた矢先に発生する思いがけない事件といい、過去から現在までつづく呪われた部屋のミステリといい、英国貴族社会のどことなくのどかな雰囲気と先が気になる展開が絡み合う味わい深い小説でした。最後もミステリだと思っていると肩すかしを食らうような、でもちゃんとびっくりする結末ですし。

灰色の部屋 (創元推理文庫)


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コリン・ワトスン『浴室には誰もいない』(創元推理文庫) [ミステリ]

匿名の手紙をきっかけにした捜査で、ある家の浴室から死体を硫酸で溶かして下水に流した痕跡が見つかった。住人と家主はそろって行方をくらましており、被害者の存在も定かでないまま地元警察による捜索が開始される。一方、ある特殊な事情によりロンドンから派遣された情報部員チームも、独自に行方不明の住人の捜索を始めて……
硫酸で死体をとか情報部員が動くとか、絶対おどろおどろしい事態が待っていると思うじゃないですか。表紙の写真も人のいない浴室でどことなく不吉な感じですし。安心して下さい、そんなに怖くないです。本当ですからびびらずに手に取ってみて下さい。アントニイ・バークリーが本書を激賞したのは、すぐれた本格ミステリだからというだけではないはずです。絶対ちがいます。
意図的なものかそうでないのかわかりませんが、あらすじ紹介や装丁からは連想しにくいことに本書はユーモア・ミステリです。読み終わってから振り返ると、明らかに戦慄するより笑っているページのほうが長かったんですよ。笑ってしまう主なポイントは、地元警察の個性的というよりは好き勝手やっているだけのような面々と、ロンドンからやってきた情報部員の皆さんのどこかで見たような超かっこいい諜報活動です。おっかしいだけでは終わらず、終盤の二転三転する展開ではきっちりミステリの楽しみも味わえますので、ぜひ「硫酸で死体を溶かすとか怖い話では?」とびびりながら騙されたと思って詠んでみて下さい。そしてまんまと騙されて下さい。

浴室には誰もいない (創元推理文庫)


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海野十三『深夜の市長』(創元推理文庫) [ミステリ]

昼間とはまったく別の顔を見せる夜の東京で、深夜の散歩を趣味とする僕は奇怪な殺人事件に遭遇したことをきっかけに「深夜の市長」と呼ばれる怪老人と出会う。警視総監やT市長をも巻き込む陰謀にも関わりを持っているらしい深夜の市長の正体とは?
こんな設定で、一昔前の東京の夜に怪人や権力者たちが入り乱れる表題作のほか、SFっぽいものから本格風ミステリまで短篇作品をあわせて収録した作品集です。もうちょっとシンプルな、推理どころじゃなくひたすら怖いだけの話などもあります。
わたくしはもう「深夜の市長」というタイトルと、そういう名前のキャラクターが登場して大活躍するだけでわくわくしてどうしようもないのですが、昼の光の下とはまるで違う顔を見せる夜の大都市のイメージがまず強烈じゃありませんか。シリアスそうな雰囲気に反して、主人公の行動があまりにも行き当たりばったりで突っ込みどころにあふれていところですとか、大事な用事をすぐ先延ばしにして登場人物に突っ込まれるですとか、あまりにもざっくりした市政ですとか、なかなかドタバタしてコミカルなシーンも多数あります。
そんなに科学にも犯罪捜査にも詳しくないミステリ好きのわたくしが「??」となるところもあるんですけれども、それはそれとしてびっくりするようなアイデアがぞろぞろ出てくるのが楽しい本です。気がついたらこの文庫から海野十三傑作集がもう4冊目で、読めば納得の弾けっぷりでした。

深夜の市長 (創元推理文庫)

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連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』(宝島社文庫) [ミステリ]

それぞれ独立したストーリーのサスペンスもの全9作が収録された短篇集です。ながらく復刊を待ち望まれていた名作だそうで、わたくしはタイトルがあまりにもかっこいいので思わず手に取ったのですが、確かにこれはめったにないようなとんでもない傑作です。
長くても50ページくらいの短編ばかりで、そんなに短いものばかりなのにどれを読んでも何かしらの驚愕におそわれるんですよ。読者をあざむく工夫も、一作ごとに凝らされていて飽きが来ません。ただ読後感の暗さももれなく一緒についてくるので、まとめて読むと気持ちは沈みますね。
短いお話ばかりなのでちょっと内容に触れるとネタバレになってしまいますし、詳しい説明がいるほど長いものはないので、とにかくお読みいただいて技巧に感嘆していただきたい作品集です。わたくしは特に表題作「夜よ鼠たちのために」のおぞましさと純粋さの背中合わせなところが、すごく嫌ですけれども大好きです。

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)


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R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫) [ミステリ]

エジプト学者ベリンガムが謎の失踪を遂げて二年。生死不明のままとなっている彼の遺産相続問題が持ち上がった頃、各地でばらばらになった人間の遺骨が発見される。ベリンガムの遺書をめぐる争いを知った医師バークリーは、法医学者ソーンダイク博士にこの奇妙な事件についての相談を持ちかける……
1911年の古典ともいえる時代の名作ミステリの完訳です。密室状態からの失踪と生死不明の人物、彼の生死如何によって大きく意味が変わる遺言書の存在など、どうにもならなさそうな謎を並べたうえできっちり論理的に片付けるさまは地味ながら手堅く味わい深いです。意外すぎる結末や不可能犯罪などの派手な演出がなく退屈という意見もあるようですが、要所要所で出てくるエジプト学トークは読者を煙に巻くいいアクセントになっています。
謎解き以外の味つけがまったく何にもないということはないんですよ。主人公とある女性のあいだに生まれる恋愛要素もありまして、たぶん作者が好きで入れたものだと思うですがほんとうに緊張感に欠けると言いますか、時代を感じるなぁというわかったふうな顔で読むしかありません。そこはすっ飛ばしまして、本格ミステリとしては十分おもしろいですよ。

オシリスの眼 (ちくま文庫)

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