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深緑野分『戦場のコックたち』(東京創元社) [ミステリ]

料理を愛する祖母の影響で、従軍後はコック兵として働き始めたティム。1944年のノルマンディー降下作戦を初陣に、ティムと戦友たちはヨーロッパ各地の戦場でさまざまな謎と出会うことに……
このタイトルを見てもあましミステリとは思えないんじゃないかという感じなんですけれども、読んでみると間違いなくミステリです。ミステリの皮をかぶった青春小説でもあり、戦争小説でもあります。
おもしろいのは戦場を舞台にしながら、取り扱うのは重要人物の暗殺とかスパイが絡む謀略とか新兵器をめぐる暗闘などではなく、いわゆる日常の謎なんですよ。なぜか使用済みパラシュートを大量に集める兵士の話ですとか、戦場でしか発生しそうにない謎です。そちらのほうはティムと仲間たちの推理で意外な真相が明らかになってすっきり解決しますけれども、戦場なのでミステリの解決とは関わりなく犠牲者は出ます。
全五章にプロローグとエピローグ、1944年6月6日がはじまりですから、第二次世界大戦全体ではそれほど長い期間のお話ではありません。最終章にたどり着くまでに、なんだかものすごく長い時間を主人公たちと一緒に過ごしたような気持ちになっていました。

戦場のコックたち


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ジュリー・ベリー『聖エセルドレダ女学院の殺人』(創元推理文庫) [ミステリ]

十代の少女七人が在籍する寄宿学校で、ディナーを楽しんでいた校長とその弟が毒殺された。家に帰りたくない少女たちは死体を隠蔽し、押し寄せる来客をごまかしながらなんとか学校生活を続けようと奔走するが……
1890年のイングランド、個性的すぎるがゆえに実家から花嫁学校にぶちこまれた少女たちが活躍するお話です。児童文学の賞を取っていますし、人が死ぬのは死ぬとしてコミカルでスリリングで楽しめます。特に女の子(性別問わず)の皆さんにはおすすめです。
校長先生の知り合いや家政婦さんや巡査をあの手この手で追い返しつつ、間違いなくどこかにいるはずの(ひょっとすると少女たちの中の誰かかもしれない)殺人犯を捜す忙しさに加えて、外に出かける必要ができたり荷物を受け取ったりもするのでまぁ大騒ぎです。終盤までは家に帰りたくない女の子たちのどたばたが中心と見せかけて、真相が明らかになり始めるとこれまでの小さなネタがどんどんつながってゆくのは最高にミステリ的です。
19世紀の終わりという設定が効いていて、女の子ばかりの寄宿生活楽しそう!とも言えない時代背景を演出しているのがすばらしいところです。こればっかりは最初から最後まで読まないとわかりません。

聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)

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チャールズ・ボズウェル『彼女たちはみな、若くして死んだ』(創元推理文庫) [ミステリ]

19世紀後半~20世紀前半のアメリカとイギリスで起きた、女性が犠牲となった犯罪のみをとりあげたノンフィクションです。
全10編、冒頭にいかにも低俗な要約がついているですが騙されてはいけません、中身は扇情的な要素をいっさい排した冷静でていねいなノンフィクションです。なんといっても実話ですから、捜査の主役となるのは警察の地道な捜査。たまに有名な警視や探偵が出てくることはあっても、メインはどこまでも足を使った調査の積み重ねです。本書に影響を受けた作家が、後に警察小説の名作を生み出したというのも納得です。
読み心地はすぐれた警察小説集のような印象で、実話でありながらまるで小説のようとしか言いようがないドラマチックな展開を見せることもあります。実話であるがゆえの、小説ではちょっと考えられない驚きの結末も混じっていたりします。ひとつひとつは短いのでどれからでもすぐに読み始められる、警察小説に通じる犯罪実話ものの名作としておすすめです。

彼女たちはみな、若くして死んだ (創元推理文庫)


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ジェフリー・フォード『ガラスのなかの少女』(ハヤカワ文庫) [ミステリ]

金持ち相手に荒稼ぎするいんちき霊媒師のシェルは、ある日の降霊会でその場にいるはずのない少女の姿を目撃する。やがて思わぬ場所から彼女の正体を知ったシェルは、仲間たちとともにその行方を追いはじめるが……
語り手は(自称)霊媒師シェルを父のように慕う助手の少年ディエゴ。1932年のアメリカを舞台にしたサスペンス小説であると同時に、ほろにがい青春小説の味わいもあります。メキシコからの不法移民であるディエゴをはじめとする、社会からはみだした人々の活躍も見どころですが、虐げられたものたちの苦難と悲哀ばかりには終わらず、たくましさやユーモアまでも織り込んだストーリーが展開します。第二次世界大戦前のアメリカという時代背景がノスタルジーだけにとどまらない、別の側面を見せ始める中盤からの謎解きがみごとです。さいごにもう一度プロローグを読み返したくなるタイプの小説ですね。

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


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カーター・ディクスン『かくして殺人へ』(創元推理文庫) [ミステリ]

牧師の娘モニカは初めて書いた小説が大ヒットし、自作を映画化することになったプロデューサーのもとを訪れる。ところが脚本を担当するのは別人と聞かされ、モニカ自身も他の原作者による脚本の執筆を依頼されるも、仕事中の彼女の身に次々と危険が降りかかって……
序盤で第二次世界大戦が始まってしまい、撮影どころではなくなった映画スタジオが舞台のミステリです。と言いたいのですが世間が撮影どころでないと思っていようが、映画界のどたばたはそんなに変わることもなく続いているんですよね。駆け出し作家のモニカと、初対面の印象は最悪ながらもなぜか彼女を気にかけてしまう探偵小説作家カートライトのやりとりは軽妙で、つまり不可能犯罪よりはラブコメの度合が強いほうのカーター・ディクスンです。
戦時下の緊迫した雰囲気を背景に、正体も目的もわからない人物からの殺意におびえる若い女性なんていかにも怖そうなんですけれども、探偵役がヘンリ・メリヴェール卿なこともあってびっくりするほど楽しげな読後感が残りました。ラストシーンもそうですし、ある人物の正体が明かされるくだりでは腹を抱えて笑いましたよ。

かくして殺人へ (創元推理文庫)


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ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫) [ミステリ]

2014年、カリフォルニア州で解体寸前の家の屋根裏から見つかった貴重品箱。中には1945年に出版されたB級スパイスリラー、その本の編集者による手紙の束、そして同じ著者による未刊の手書き原稿が収められていた。
このスパイ小説と手紙と手書き原稿の三つがかわるがわる本文にあらわれ、並行して進んでゆくスタイルの小説です。それぞれのパートはさほど長くないですし本書もそんなに分厚くはないので、頭がこんがらがる心配はないと思います。
それに同時に発見されたことからわかるように、三つのテキストは密接につながりあっているんですよ。二つの小説の著者と編集者の手紙の宛先は同一人物で、スパイ小説は手紙による編集者のアドバイスを受けながら手直しされた形跡がそこここに見られます。刊行されなかった手書き原稿はハードボイルド小説のような出だしから思いがけない展開を見せ、混乱しながら読み進めるうち、読者の前には1940年代のアメリカで生きた作家志望の青年の物語が浮かび上がってきます。
作品の外側にある部分を読み解くタイプのミステリで、大きな手がかりとなるのは編集者からの手紙なのですが、これがなかなかのくせ者です。最後の一通で明かされる真相で、歴史の一場面だけでなく二人の登場人物のごく個人的なエピソードをも語っていたのではないかと感じました。

青鉛筆の女 (創元推理文庫)


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ヘレン・マクロイ『死の舞踏』(論創社) [ミステリ]

冬の早朝、マンハッタンに積もる雪の下から発見された若い女性の死体。真冬の雪の夜にもかかわらず、被害者の体は熱射病での死亡時のように熱かった。やがて捜査陣の前に、被害者とうり二つの女性が現れて……
精神分析医ベイジル・ウィリング博士初登場作品であり、マクロイのデビュー作でもある長篇です。冒頭のあらすじをちょっと紹介しただけで、もう著者の作品に頻出するテーマが出てきているんだからたいしたものです。
被害者の意外な身元が判明すると同時に、警察に駆け込んできた女性をめぐるたくらみが明らかになり、さらにダイエット食品やら軍需産業やら社交界デビューする娘たちやら、いろんな要素が絡まってお話が広がっていきます。ちゃんとまとまるのか、事件の謎解きとは別の意味ではらはらしながらページをめくってゆくとちゃんとまとまります。このあたりも、今までマクロイの作品を読んでいると納得できるデビュー作ならではのおもしろさがありました。ウィリング博士の精神分析による推理がちょっとストレートすぎるのも、若々しさを感じさせます。

死の舞踏 (論創海外ミステリ)


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エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫) [ミステリ]

第二次世界大戦のさなか、ドイツ占領下のフランスでイギリス軍のスパイとして捕虜になった女性。彼女は尋問の中断とひきかえに情報を求められ、親友である女性飛行士の物語を小説形式の手記として書き留めてゆく……
ぱっと見たところは女性ふたりによる戦時下の青春小説なんですけれども、冒頭から語り手が信頼できないのが大切なポイントです。最初っから、捕虜である主人公が読ませることを前提に書いている手記ですからね。
主人公は戦争中の思い出や親友の出会いと並行して、自分を尋問するドイツ軍人や捕虜としての生活など、現在の生活についても貴重な紙を消費してどんどん執筆してゆきます。おとなしく情報を渡して無事に解放されそうな性格とはとてもいえない彼女なりの戦いは、後半にさしかかって思いがけない展開を見せ、作品それ自体も戦争小説からミステリのような別の顔を見せてくれます。戦争小説でもあり青春小説でもあり殺人事件の起きないミステリでもあり、カーネギー賞の最終候補に残っているので児童文学でもあるぶあつい小説です。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)


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アンドレアス・グルーバー『刺青の殺人者』(創元推理文庫) [ミステリ]

全身の骨を折られ、血を抜きとられた若い女性の他殺死体が発見される。身元確認にやってきた被害者の母は、行方不明になっているもう一人の娘と犯人を見つけようとみずから捜索に乗り出して……
この母親の行動力がものすごくてですね。わたくしはいっそ痛快でしたけれども、普段ひとに振り回されるお仕事をしている方にとってはストレスになるかもしれません。他にも目を覆いたくなるような描写がいろいろ出てくるので、映画化したらPG12ですまないくらいには面白く、そしてやめられないです。
彼女にさんざん引きずり回される、ぜんそく持ちでシングルファーザーのライプツィヒ刑事警察の上級警部が主人公です。もうひとりの主人公であるクライアントに振り回されるウィーンの弁護士も登場し、重なりそうで重ならないふたつのストーリーが並行して進んでゆきます。彼らふたりが最終的に協力してひとつの事件を追うシリーズですが、「前に別の事件でいっしょになったことがある」程度に触れられるだけなのでここから読み始めてもまったく問題ありません。

刺青の殺人者 (創元推理文庫)


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エラリー・クイーン『アメリカ銃の謎』(創元推理文庫) [ミステリ]

大観衆を集めたニューヨークのスタジアム、往年の西部劇スターによるショウが幕を開けた。しかしロデオ一座のカウボーイ四十人の拳銃がいっせいに火を噴いた瞬間、そこには落馬したスターの銃殺死体が……
国名シリーズ第六作にしてエラリー・クイーンの転換点ともいえる意欲作です。どこらへんが転換点なのかは太田忠司さんの解説が詳しいのでぜひご確認下さい。わたくしでもわかった違いとしては、これまでいわゆる「国名シリーズ」ではタイトルになった国とは全然関係ないストーリーだったところを、今回はがっつりアメリカの銃の話ばかりしているところですね。
衆人環視の中で起きた本作の事件は、容疑者が二万人の観客+ステージの四十人という目もくらむようなスケールの犯罪ですが、ちゃんと推理がまとまってちゃんと犯人が指摘されます。転換点という話が出ましたけれども、事件を取り巻く人々の描写に今までよりページを割いている印象があります。

アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)


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