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ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』(河出書房新社) [漫画]

14~5世紀のイタリアでさまざまな奇蹟を起こしたとされるカーシャの聖女リータにまつわる絵物語です。ブッツァーティいわく「未だ知られざる奇蹟を描いた、想像上の奉納画」だそうです。著者がこの物語を知るに至ったいきさつもあわせて収録されていて、それを読むとどうも奉納画の形式を借りたフィクションじゃないかとしか思えないんですけれども、そこはひとまず置いておきまして。
信仰についての知識をいっさい持たずにページをめくると、ひたすら奇妙な事件を語る不条理な短篇集のような印象で、つまりいつものブッツァーティの味わいに近い本だと感じました。奉納画の中の聖女の活躍は20世紀にいたるまで続いていて、「巨大な怪物に襲われた」「悪魔が聖職者を誘惑した」などのいかにも聖人伝説らしいエピソードはともかく、「UFOが出現した」「火山から猫が噴出された」なんて、われわれは一体どんな顔をして読めばいいんですか。とにかく意外で異常な、時たま現代美術みたいな構図まで飛び出す奉納画たちも、添えられたキャプションも、真剣な悪ふざけとも切実な祈りとも判別できなくなってくるのが魅力的でした。
ブッツァーティの絵本といえば『シチリアを征服したクマ王国の物語』、ちょっと検索したらなんと文庫で出ているそうなのでいっしょにおすすめします。こちらはもっとわかりやすいストーリーとかわいい(本書に比べて)イラストがついた長篇物語絵本です。

モレル谷の奇蹟

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高野文子『ドミトリーともきんす』(中央公論新社) [漫画]

とも子さんと娘のきん子が暮らす下宿屋には、科学を学ぶ四人の学生たちが住んでいる。勉強のあいまに階下に降りてきては、科学への入り口を話してくれる彼らとのにぎやかな日々。
二階に住んでいる面々はトモナガ君、マキノ君、ナカヤ君、ユカワ君。もう一人、下宿屋の名前と関係のあるお客さんもやってきます。彼らの残したことばを、専門書や論文ではなく一般向けの書籍の中から選んで伝えてくれる、理科がわからなくても楽しく読めるまんがです。
学生さんたちの自由な言動を眺めるうちに、詩と科学が意外と近い関係であることを教えて貰える絵本のような本なんですけれども、テーマはなんと「自然科学の本の読書案内」なんですよ。これ一冊だけで読んでおもしろいのはもちろん、あわせて紹介されている本も絶対に読みたくなります。専門書ではなく随筆や講演録からの引用ばかりで、敷居が低めなのも嬉しいですね。
まんがの絵のことはよくわからないのですが、白黒でシンプルな画面は読んでいてとても心地良かったです。最初から最後まで同じ太さの線が引ける製図ペンを使われたというのが効いているのかなぁ、とぼんやり思っています。

ドミトリーともきんす

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棚橋正博監修『人魚なめ』(小学館) [漫画]

江戸時代の黄表紙を斬新な雰囲気で翻訳し、現代マンガ風に仕立てたシリーズの第2弾です。1冊目の『芋地獄』があまりにもすっ飛んでいて楽しかったので迷わず2冊目にも手を出しました。
今回は全3篇、全て山東京伝原作となっています。イラストは北尾重政や鳥居清長、北尾政演として浮世絵もやっていた京伝と大変豪華です。
浦島太郎と肴の遊女の間に出来た人魚が数奇な運命をたどる表題作のナンセンスっぷりが、もう群を抜いてばかばかしくてすばらしいです。何ごとかと思うようなタイトルで、実際その通りのお話なんですから開いた口がふさがりませんよ。ちょっとだけ教訓を交えつつ、最後はちゃんとめでたしめでたしで終わる草双紙のスタイルだけをきっちり守っているのがまた滑稽です。終わりよければ全て良しって、そりゃ登場人物はそうでしょうけれども読者としては突っ込みどころが多すぎですよ。
残る2作は道徳や遊郭の裏側をテーマにしたある種の教訓もので、説教臭いと言えば説教臭いです。そうは言っても、擬人化された耳や目や鼻や手が豪遊する絵の珍妙さはやはり捨てがたいものがあります。頭が巨大な口になった人物があんころ餅をどかどか食べてる絵とか、他ではまず見かけませんよ。

江戸マンガ 2 人魚なめ: 妖怪大集合

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アダム・カバット監修『江戸マンガ(1) 芋地獄』(小学館) [漫画]

江戸時代に愛された絵入りの通俗読み物「黄表紙」を、現代マンガのスタイルで楽しめる素敵なシリーズです。絵入り読み物と言いますか、絵本の余白にびっしり台詞が書き込まれたような趣の画面で、こりゃどう見ても面白いぞと思いながらも書き文字が判読できなかったわたくしはもう大喜びですよ。現時点で2冊出ているようで、ぜひともどんどん続けて刊行していただきたいものです。
まず表題作の「芋地獄」がですね、芋(皆さんご存じのさつまいもや里芋)だけが行く地獄の話なんですよ。蛸の大王(芋蛸南京だけに)の治める芋地獄で人間の姿に描かれた芋たちが責め苦に遭っている、という…何を言ってるのかおわかりにならないかと思いますが、本当にそんなお話なんです。これはひょっとして擬人化の遙かな先駆けではないかとか、しょうもないことを考えながら笑っていました。画面の内外にこまごまと入ってくる注釈が無駄に古典の教養を滲ませていて、勉強にならないこともないかもしれません。
この「芋地獄」は原作・原画が山東京伝です。他にも十返舎一九原作の化け物婚活ばなしなど妖怪ものを中心に全部で4作を収録。通俗読み物だからって甘く見てはいけませんよ、北尾政美なんかがばりばり挿絵を描いてますからね。

江戸マンガ 1 芋地獄: 芋地獄/人魚なめ

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『衝撃の絵師 月岡芳年』(新人物往来社) [漫画]

江戸末期~明治にかけて活躍した浮世絵師月岡芳年の作品集です。知ってる人にはおなじみの「奥州安達がはらひとつ屋の図」なのでまた無残絵特集かと思われそうですが、中身はむしろそれ以外の作品を積極的に集めている印象です。
確かに第一章はいきなり血みどろ絵の特集で、安達ヶ原どころではない残酷な画面ばかりなので苦手な人には絶対におすすめできませんが、その後は歴史上の人物や妖怪を題材にした浮世絵が満載です。有名な伝説の一場面あり江戸時代のあの事件あり、日本史(少しだけ外国の話もあります)好きの人ならかなり楽しめそうです。私は何度見ても仁木弾正&鼠が大好きです。
しかしながら一番見ていただきたいのは、ごく一般的な浮世絵の美人画っぽいシリーズ「風俗三十二相」です。無残絵とも武者絵とも違う、女性たちの日常のふとした仕草を題材にした情緒溢れる作品群は永井荷風も絶賛とのこと。奥様から芸者、官女までさまざまな立場の女性が次々に出てくるので見ていてちっとも飽きません。芳年のイメージからはかなり遠い感じで、これは掘り出し物でした。

衝撃の絵師 月岡芳年

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安村敏信『河鍋暁斎 暁斎百鬼画談』(ちくま学芸文庫) [漫画]

河鍋暁斎最晩年の傑作「暁斎百鬼画談」をまるごとカラーで収録している、それだけでも価値のある一冊です。しかもていねいな解説付きで、百鬼夜行絵巻の基礎知識と暁斎の生涯、両方を楽しく学べるんですから、もう最高じゃありませんか。
化け物の絵姿を見ているだけでも面白い本書ですが、この妖怪の出典はどこら辺にあるのか、行列の動きにはどんな意味があるのか…等々、素人が眺めているだけでは気付かない部分を指摘して貰いながら読み進められるのがポイントです。
暁斎の絵のうまさを単純に楽しむだけでも良いですし、ぞろぞろ出てくる妖怪の中には他に類を見ない妙ちきりんなのも混ざっていて見応えがあります。百鬼夜行本はもう読んだことがあるし…という人にこそおすすめしたい本です。
私としましては、60ページから登場する巨大なサイズの妖怪がたまりませんでした。数ページにわたって広がる布の下に隠れているので正体は不明なのですが、鉤爪なんかがちらっと見えているのでいかにも凶悪そうです。それでいて全体のタッチはユーモラスで、というギャップに痺れます。

河鍋暁斎 暁斎百鬼画談 (ちくま学芸文庫)


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『大日本名将鑑 月岡芳年の武者絵』(アスキー・メディアワークス) [漫画]

日本の歴史をよみなおす』を読んでからどんな本が面白くなったかというと、たとえばこんな本です。神話時代から江戸時代までの日本の名将を題材にした浮世絵のシリーズで、刊行は明治11~15年。当時の価値観で選定されているので今ではマイナーな人物もいますし神話の登場人物もいます。キャプションの現代語訳もついているので、全然知らない人が描かれている作品でも大丈夫ですよ。
月岡芳年と言いますと「英名二十八衆句」の血みどろの無惨絵がすぐに浮かんできてしまうんですけれども、このシリーズは日本史教育の副読本みたいな意味合いがあったそうで、目を覆いたくなるような絵はありません。歴史上の有名な場面を斬新な構図で描いているのが新鮮で、今読んで日本史の勉強になるかどうかはさておき、近代の視点を取り入れた画集として楽しめます。私は中臣鎌足や毛利元就のページに強烈なインパクトを受けました、ぜひ色んな人に見て欲しいですね。
明治時代のセンスで編まれたシリーズなので、現代のイメージからすると「?」となるような人物やシーンがたまに出てくるのが面白いです。北条時頼は能「鉢木」の頃の姿で入っていて、名将と言われてもちょっとピンと来ません。藤原秀郷の絵が百足退治ではなく平将門との対面になっているのにはヘンな感じがしたんですけれども、一番違和感があったのは足利尊氏と楠正成が両方載っていたことです。足利尊氏は最近まで逆賊扱いだったんじゃないかと思っていたら、巻末にコラムで謎が解けました。南朝を正統とする立場が確立されたのは本シリーズ刊行の翌年、明治16年だそうです。何とまたぎりぎりのところで。

大日本名将鑑―月岡芳年の武者絵

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酒井抱一『光琳略画』(芸艸堂) [漫画]

江戸琳派の絵師酒井抱一が、光琳の世界を描いたカット集です。明治時代に発行されたものを当時と同じ体裁で復刻。12cm×8.5cmくらいの、手のひらサイズで大変かわいらしい画集です。
とにかく抱一のタッチが最高にかわいらしく、なおかつユーモラスで、ポケットに入れて時々開いてみて心を和ませて貰いたい本です。草花、動物、七福神、十二支とおなじみのモチーフも、歴史上の一場面のかとも実に丸っこくて愛らしい。鬼と戦ってる武士の絵は、たぶん渡辺綱なんじゃないかと思うんですけれども、これがまたえらいキュートで。
琳派というと、金箔や鮮やかな絵の具で満艦飾の世界が浮かびますけれども、墨だけで書いた動物の絵なんかはデフォルメと余白の使い方が巧みで、また別の味わいがあります。本書の動物の中でも、特に犬のかわいらしいことと言ったら。何で日本画の犬はこんなにかわいい系なんでしょうね。応挙ですとか。
出版元の芸艸堂という社名は、復刻版でも原版でも同じです。明治三十九年印刷と書かれた原版の奥付と、平成二十一年発行の復刻版奥付を見比べるのも一興。

光琳略画

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いしいひさいち『COMICAL MYSTERY TOUR 4』(創元推理文庫) [漫画]

副題「長~~~いお別れ」。
正直言って、このシリーズの新刊が出るとすら思っていませんでした(発売予定リストに入ってからも半信半疑でした)。ラヴクラフト全集と言い、日本探偵小説全集・名作集1と良い、東京創元社は時々こんなことをしてくれるから気が抜けません。ぜひこの調子で『サラゴサ手稿』も(以下略)

閑話休題。
最近のミステリをネタにした作品も多数収録されており、これまでのシリーズをご存じない方にも楽しめる内容となっています。何となく、今回はミステリとしての結構それ自体に突っ込んだ、メタフィクショナルな論理展開が多く見られるような気がします(と気取って書いてみましたが、いつも通りの感じです)。
おすすめは冒頭の長編「ペトロフ某重大事件」。時代背景の綿密な考察と、ミステリファンらしい遊び心に満ちた全4ページの(本書中での)大作です。

COMICAL MYSTERY TOUR 4 長~~~いお別れ


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鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫) [漫画]

江戸時代の妖怪画集。名前のみ知っていたんですが、狩野派でちゃんと勉強した画家だったとか、古今東西の古典が作品の題材として使われていることは全く知りませんでした。お恥ずかしい。
全画集ということで、この文庫本一冊で「画図百鬼夜行」「今昔画図続百鬼」「今昔百鬼拾遺」「百器徒然袋」の作品が一度に楽しめてとてもお得です。
ページをめくるごとに見覚えのある妖怪が登場し、子供の頃読んだ妖怪図鑑の元ネタはこれだったのか!と感心、感動、驚愕することしきり。その後の妖怪画の世界に多大な影響を与えた、妖怪学を語る上で絶対にはずせない人物であることが良くわかりました。(妖怪学の世界というものは間違いなく存在しますよね、江戸時代からこちら)
とりあえず水木しげるや京極夏彦の好きな人は読んで損はないです。後は「山海経」みたような、何だかよくわからない化け物が好きな人もぜひ。

鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集


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