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今日泊亜蘭『最終戦争/空族館』(ちくま文庫) [SF]

日本SFの黎明期から活動している伝説的作家の文庫オリジナルアンソロジーです。「宇宙塵」同人にも参加ですとか、佐藤春夫に紹介されて探偵小説を書き始めたとか豪華なエピソードがもりもり出てきます。
そのくらいの人ですから当然いろんな作家に影響を与えていて、本書に収録された作品だけでも星新一や筒井康隆を想起させる要素がぼちぼち含まれています。ミステリっぽい雰囲気のものから子ども向けのややほんわかした作品まで幅広く、クスッと笑えるしゃれた結末もあるしぞっとするカタストロフィも入っています。表題作のうち「最終戦争」は毒を含んだ風刺がありますが、もう一方の「空族館」は登場人物たちにとってはさっぱり笑えない喜劇です。
わたくしは「博士の粉砕機」が無慈悲ですばらしいと思いますね。子ども向けにリライトされたバージョンも収録されてるですが文章がやさしくなった以外に特に違いはないです。

最終戦争/空族館 (ちくま文庫)


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ジャック・ヴァンス『宇宙探偵マグナス・リドルフ』(国書刊行会) [SF]

あるときは数学者、またあるときは老哲学者、しかしてその実体は宇宙を駆ける凄腕のトラブルシューター。白髪白鬚の紳士マグナス・リドルフの活躍する全10篇をおさめた短篇集です。宇宙が舞台ですから基本的にはSFですが、ミステリあり海洋冒険ものありカジノとの対決ありとバラエティ豊かな展開です。
まずお伝えしておきたいのは、この表紙のじいさんは強きを挫き弱きを助ける正義の味方では全然ありませんよということです。トラブルシューターとして仕事をするのは自分が大損をしたときばっかりですし、そもそも濡れ手で粟の儲け話の当てが外れたケースもありそうな雰囲気ですし。ターゲットとなる悪党どもも大概ですが、その斜め上を行く手で彼らを出し抜き、澄ました顔で自分の儲けはしっかり確保してゆくタイプの主人公です。
そもそもなんで数学者だったり哲学者だったりするのかというと設定が固まっていなかったからではないかと思われるところがあるなど、かっこよさより笑いに多くポイントが入るような連作だなぁというのがわたくしの個人的な感想です。オイルサーディン缶詰の異物混入に端を発する事件が未知の○○○との接触につながる「ユダのサーディン」ですとか、とある惑星で起きた住民行方不明事件に隠されたスケールのでかい真相「暗黒神降臨」など、大変シリアスなSFでありながら大笑いです。

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)


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ハル・クレメント『20億の針』(創元SF文庫) [SF]

太平洋に墜落した二隻の宇宙船。一方は逃亡中の犯罪者でもう一方は追跡中の捜査官、いずれも高い知性とゼリー状の体を持ち、他の生物を宿主としなければ活動することができない。墜落地点近くの島で出会った少年の体を借りた捜査官は、彼と協力して別の人間に寄生したはずの犯罪者を捜すことに……
20億は地球の人口ですけれども、じっさいの容疑者は島の住人150人程度に絞られているのでご安心下さい。ただそれにしても、この捜査官氏は宿主の体を長時間離れていられないものですから敵がどこにいるかを調べるのも一苦労です。
幸運だったのは宿主に選んだのが15歳の少年だったことです。それなりの判断力と知的好奇心、行動力を併せ持った彼との二人三脚でお話が進むので、ちょっと児童文学みたいな趣もありますね。もっとも子どもだから自由にならないこともあり別の苦労も発生します。そもそも主人公たちが接触するのは休暇で島に帰省している最中のことだったので、その後始まる学校をどうするかという問題が真っ先に立ちふさがりますし。
基本的に宿主の肉体を傷つけられない異星人たちなので寄生された人間がどうなるということはなく、島の住人たちから容疑者を絞り込むのは至難の業です。エイリアンの便利な超技術もなく地道に推理を重ねてゆく、このあたりはもミステリ小説ですね。

20億の針【新訳版】 (創元SF文庫)


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J・G・バラード『ハイ・ライズ』(創元SF文庫) [SF]

ロンドンの中心部にそびえ立つ地上40階、一千戸、専用プールやスーパーマーケット、小学校まで備えた高層マンション。下層・中層・上層に分かれた巨大な人工世界は、ある夜の停電をきっかけに階層間の軋轢をあらわにし、やがてマンション全体を巻き込む大混乱へと発展する……
ことのてんまつは25階に住む医師、2階に住むテレビのプロデューサー、最上階である40階に住むマンション設計者の三人の視点でかわるがわる語られます。ちょうど三つの階層を代表する人物が割り当てられているわけですね。
はじめに登場する25階の住人である医師は「すべてが常態に戻った」時点からこれまでの出来事を回想しているのですが、次のページに行くか行かないかくらいでとても読者の考える「常態」とはいえないことが明らかになります。たった今、彼は電話帳を燃やして焼いた犬の肉を食べているんですよ。ですからこの小説は異常な事態が日常に戻るまでではなく、異常な事態がそのまま日常になるまでを描いているわけです。おそらくは。
マンションの階層がそのまま階級闘争に重なるのはイギリスの小説らしいなぁというところですけれども、それを差し引いても驚くほど現代的なお話です。ついこのあいだ映画化もされましたしね。21世紀ならマンションの階数はもっと増えるでしょうし、マンションではない一戸建ての並ぶ新興住宅地でだってありそうです。
事態が進むにつれて人間の獣性ばかりが明らかになり、どの階に行っても少しもほのぼのするシーンがない暗澹たる展開ですが、それでいてバリケードで封鎖されたフロアや水のないプールにはどことなく心躍るものを感じてしまいます。怖いけど魅惑的ですよね。

ハイ・ライズ (創元SF文庫)


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エドゥアルド・メンドサ『グルブ消息不明』(東宣出版) [SF]

オリンピック開催を間近に控えた1990年のスペイン・バルセローナを訪れた二人組の宇宙人。その片割れグルブが人気ポップシンガーの姿に擬態して外出したまま消息を絶ち、上司である「私」は仕方なくみずからバルセローナの街に彼を探しにゆくが……
宇宙人の一人称小説なので主人公がどんな姿をして理宇野かはよくわかりません。よくばらばらになったり頭を落っことしたりしていますが、バルセローナの街に出るときは手元の資料を参考に人間の外見(ゲイリー・クーパーやローマ教皇など)を真似しているので大きな騒ぎにはなりません。ですけれどもなにぶん地球の常識に疎いので、やっぱり色々と妙な事件は起こしてしまいます。
本人がそうと知らないうちに、急ピッチで開発の進むバルセローナの風景をあぶり出したりあぶり出さなかったりしながらグルブを探し、酒を楽しみ、友人をつくり、恋をしては大失敗する主人公のバルセローナ滞在は意外な形で深刻な社会問題をえぐったりもするのですが、ページをめくっているうちはとにかく笑いっぱなしだった思い出しかありません。分単位の報告書形式でつづられた文章はすらすら読み進めるので、SFを敬遠されている方にも断然おすすめいたします。

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)


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ハーラン・エリスン『死の鳥』(ハヤカワ文庫) [SF]

そんなにぼこすか邦訳が出ているわけでもないのに伝説になっているSF作家さんの日本オリジナル傑作選です。前回文庫化されたのが1979年だそうですからほんとうに久しぶりの刊行です。
どのあたりが伝説かというと、主にご本人がニュースになりやすい人物なところですかね。アンソロジストとしても有名ですし、もちろん作品も強烈なインパクトがあります。本書は全10篇収録で、うち9点が何かの賞をもらってるんですよ。
どの作品ももともと発表されたのは1960~70年代で、半世紀近くも経ってから読むと時代の流れを感じます。ああこれは20世紀中頃の時代精神かと思いますけれども、だからといって衝撃が薄れるとかつまんないということは全然ないんですね。鮮やかなイメージときりりとした文体はいつ読んでも強烈ですし、救いのあるなしだけで分ければ圧倒的に「ない」にかたよる展開も、執筆から何十年が過ぎた今でも色褪せません。
ラストの一行が強烈な表題作「死の鳥」、予想の斜め下の結末に絶句した「ジェフティは五つ」などが特にきつくてよろしかったです。当時から人気だし今でも日本で大人気の異世界転生ファンタジーを短く濃密に描いた「竜討つものにまぼろしを」が一番のおすすめですね。

死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)


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ジーン・ウルフ『ジーン・ウルフの記念日の本』(国書刊行会) [SF]

アメリカ合衆国の記念日や祝祭日に関連した作品を集めた短篇集です。まずこのテーマが面白いじゃありませんか。
アメリカの記念日なので日本ではなじみのないものも多いです。日付はもちろんどういう日なのか、わたくしは収録作品18点のうち半分もわかりませんでした。簡単な説明は巻末の解説にありますし、もともとは色んな雑誌に発表された作品を記念日に絡めてまとめた本なので、どんな日なのかについてはそんなに気にせず読んでも大丈夫です。もっとがっつり読みたい人は、作品ごとに指定された日に読むのももちろん大丈夫です。
ジーン・ウルフはSF作家として知られていますが、本書に入っているのがすべていかにもSFぽいものかというと全然そんなことはありません。ちょっと見るとおとぎ話っぽいものからきつめの風刺まで、現実とは少しだけ違う世界を舞台にしているのはSFらしいと感じたんですけれども、そこは読む人によって感想が違うかもしれません。
読み終わってからどんな顔をしていいかわからない話、笑っちゃうけど笑っていいのかわからない話、滑稽だけどちょっと怖い話が好きな方にはお楽しみいただけると思います。記念日や祝祭日の本って言いましたけれども、○○の日おめでとう!という雰囲気はあんまりしないですね。

ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)

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M・ブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』(新潮文庫) [SF]

人間の器官を移植された犬が大暴れする「犬の心臓」、生命力を高める光線が引き起こす騒動を描く「運命の卵」の二本立てです。どちらも奇想あふれるSFでありながら誰もそういう読み方をしないし作者もそのつもりで書いたのではなさそうな気がしてしまう、そういういびつさが忘れがたい印象を残します。
まごうかたなきSFであるのは間違いなく、それと同時にみごとな風刺文学でもあります。何を言ってるんだかさっぱりわからないナンセンスなコントでありながら、知ってる人が見れば何の話をしてるかが全部わかってしまうので、こりゃ関係者の皆さんはたまったもんじゃなかったでしょう。
悪趣味すれすれの展開はどうしても受け付けない人もいると思いますが、SFとしての尖りっぷりはもちろん、ソ連批判の書であったはずが今では西側諸国批判の書にも見えていました。既になくなったひどい国のひどい話だと思っていると、予想外のところからかみつかれますよ。
ていねいな訳注が当時のソ連のありようを教えてくれるのでソ連初心者も安心です。一人の作家の目を通して見る在りし日の20世紀ロシアという趣を感じますね。

犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

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アンナ・カヴァン『氷』(ちくま文庫) [SF]

異常な寒波に襲われ、氷に包まれてゆく世界で一人の少女を探す男。暴力と野蛮が支配しつつある地上で男はやがて、少女を監禁する「長官」と対決することになるのだが…
主人公と少女と長官の名前はどこにも出てきませんし、色んな国や街を駆け回っているのに地名は一つも出てきません。何となく現代とほぼ同レベルと思われる文明の、何となく現実の地球と同じだと思ってよさそうな地球が氷に覆われて滅びに向かっている、この描写がとにかく最高に美しいです。略奪に走る人々もいるし、不利益な情報から目をそらしてはかない楽しみを享受する人々もいます。
時折主人公が目にする、間近まで迫り来る氷の壁の描写もみごとですし、どこを探しても救いのない破滅SFとしてまず読みたいです。
これに加えて、少女をひたすら追い求める主人公の夢とも現実ともつかない語りが、作品全体に異様な雰囲気を添えています。少女を追いかけるためなら手段を選ばない主人公、行く先々で権力を握って主人公の行く手を阻む長官、むしろ主人公から逃げようとしているように見える少女、三者のやりとりの微妙にかみ合わない気持ち悪さは、氷に閉ざされて滅びゆく世界の中に置かれているとまるごと一つの悪夢のようです。

氷 (ちくま文庫)


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カレル・チャペック『絶対製造工場』(平凡社ライブラリー) [SF]

とある技師が開発した、物質の燃焼から生まれるエネルギーを最大限に引き出す画期的な発明「カルブラートル」。しかしそれは膨大なエネルギーと同時に、物質の中に閉じ込められた「絶対」を解放する恐るべき力を持っていた。やがてカルブラートルと「絶対」は世界中に広まり、それぞれの「絶対」をあがめる人々の間に大混乱を引き起こして…
1943年、執筆された当時における未来のお話です。発端が新発明ですから、科学技術の発展から生じる問題を扱っているように見えるんですけれども、ストーリーが進むにつれて宗教や政治的主張、国際問題にまでばりばり「絶対」が猛威をふるい、最終的にはとんでもない混乱と世界戦争へなだれ込んでいきます。科学万能主義への批判かと思いきや、矛先がどんどん別の方向に向かって拡散されてゆくあたり、本書のストーリー自体もカルブラートルが生み出したパニックのようにしっちゃかめっちゃかとも言えます。
著者の初めての長篇ということでそりゃ突っ込みどころも多いですし評判もかんばしくなかったようですが、今になって読み返すとなかなか楽しゅうございました。見方によっては痛烈な皮肉になりそうなアイデアについて深く考えるもよし、あまりにも馬鹿馬鹿しい世界戦争の行く先を見守りながら居酒屋で一杯やるもよし。著者の兄ヨゼフによるユーモラスな挿絵が、深刻になりそうなお話に絵本のような牧歌的な雰囲気を添えています。

絶対製造工場 (平凡社ライブラリー)

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