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ジャック・ヴァンス『スペース・オペラ』(国書刊行会) [SF]

未知の惑星からやってきた第九歌劇団は、地球の人々の前でみごとなパフォーマンスを披露した後に忽然と姿を消した。彼らを探し出すべく、オペラを愛する資産家のデイム・イサベル・グレイスは世界中から選りすぐったメンバーで歌劇団を結成し、宇宙各地の惑星で地球のオペラを上演するツアーに出発する……
ということで、宇宙でオペラをやる小説です。いわゆるSFの一ジャンルとしてのスペース・オペラでは全然ないのでどうかご安心下さい(もしくはがっかりして下さい)。
地球人とはまったく異なる生態や文化を持つ人々にオペラが理解されるのかという問題ももちろんのこと、大所帯の歌劇団にはさまざまな騒動が持ち上がります。デイム・イサベルとその甥のロジャー・ウール、腹に一物ありげな水先案内人の船長に謎の美女らを中心に、行く先々の星でも宇宙船の中でもどたばたが繰り広げられます。
彼らの訪れる惑星の幻想的な風景、見たこともない奇妙な住人たちの描写も魅力的ですし、なぜか予定外の星への訪問を執拗に求める人物とその目的が明らかになる章など寄り道もあり、SFを読んでいる気持ちにさせてくれるのですが、それはそれとして地球の歌劇団の皆さんはしっちゃかめっちゃかです。
タイトルの中篇のほかに、またそれぞれにがらりと雰囲気が変わった四つの短篇が収録されています。頭を切り替えながらひとつひとつ味わいたいところです。

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

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キャリー・パテル『墓標都市』(創元SF文庫) [SF]

かつての文明を滅ぼした〈大惨事〉から数百年後、人々が地下で暮らす時代が続いている世界。ヴィクトリア朝時代の文化が栄え、過去の知識や文献が禁じられた都市リコレッタで歴史学者が殺害される事件が発生。市警察の捜査官マローンは新任のパートナーとともに捜査を開始するが、貴族階級からの妨害が入って……
文化レベルは19世紀の英国風ですが都市の建築技術は明らかに未来の産物ですし地上世界は一度滅びているらしい時代が舞台となるSFです。ただし読んでいるあいだの印象は、ほとんどがヴィクトリア朝風の階級社会で展開するミステリなんですね。マローンの捜査と並行して、殺人事件に巻き込まれたリコレッタの洗濯女ジェーンの冒険も語られ、きらびやかな上流社会と混沌とした下層階級の二重性が明かされてゆきます。
地上世界も人間の住めない場所ではなく農村や他の都市も存在するようなのですが、あくまでも都市内部でのできごとが中心になっているので、SFミステリではなく歴史ミステリみたような気持ちで読んでいました。終盤で大きな事件が起こり、いったん完結しながら次巻以降に続く結末となりますが、「第一部・完」の現在でもなかなか面白く読みましたので紹介させていただきます。

墓標都市 (創元SF文庫)

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今日泊亜蘭『光の塔』(ちくま文庫) [SF]

火星から地球へ帰る宇宙船の中から目撃された正体不明の閃光。同じころ地球では、すべての電気が一時的に機能を停止する謎の現象が頻発していた。奇怪な事件を前兆として、やがて事態は「光」を操る侵略者による人類への一方的な攻撃へと発展し……
最初に出たのが1962年ですからもう半世紀も前の小説です。それを差し引いてもあまりにも世界観が悪い意味で古めかしくて、読むのが疲れるのですが、これが間違いなく面白いんですよ。どこから来たのかも何が目的かもわからない対話不能の侵略者をはじめとして、ちょくちょくミステリ的な謎が提示されるのもストーリーを引っ張ってゆくポイントです。
未来社会とは思えないアナクロな設定が意図的なものであろうと思われますけれどもそれでもなお古い、という話は先ほどもしましたが、それでも終盤にて明かされる侵略者の正体についてはやはり大したものだとうならされました。主人公の身辺にかかわる伏線もちゃんと回収されます。
ただ登場人物の設定は本当に口にするのがはばかられるノリですよ。特に女性キャラの魅力のなさといったら、解説で野田昌宏に苦言を呈されるレベルです。これは明記しておかないと法に触れます。

光の塔 (ちくま文庫)

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ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

ネット上にドラッグのレシピが出回り、使用者の人格まで書き換える化学物質が出回る近未来の北米。精神疾患専門の治療施設に入院中の神経科学者ライダは、自分が十年前に仲間たちと開発し、世に出すことなく封印した化学物質が流通していることを知る。統合失調症の特効薬となるはずだったその薬物には、服用者に「神」の幻覚を見せるという副作用が……
まず主人公からして、自分にしか見えない天使(昔ながらの女医スタイル)の幻覚と会話しているですが、彼女の協力者をはじめとした主な登場人物がだいたいそんな感じなので心配しないで下さい。プリンタで出力された薬物がやりとりされている世界なんですよ。ちょっと想像しがたく思える設定ですが、天才科学者だった妻への追憶にさいなまれる主人公や薬物摂取で人格が一変する殺し屋、裏社会の大物おばあちゃんなど個性的なキャラクターたちにどんどん引き込まれていきました。
薬物によって自我があっさりと塗り替えられてしまう時代を背景にした脳科学SFであると同時に、十年前の事件の亡霊を追うミステリでもあり、カナダとアメリカを股にかけて展開する冒険小説のようでもあります。主人公とパートナーのやりとりの中でさらりと語られる脳科学豆知識など、すみずみまで少し先の未来らしさにあふれて読みごたえはたっぷりです。

迷宮の天使〈上〉 (創元SF文庫) 迷宮の天使〈下〉 (創元SF文庫)

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ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房) [SF]

第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、アメリカの西半分が日本合衆国となった1988年のロサンジェルス。検閲局に勤務する石村大尉は、アメリカが戦勝国となった世界を舞台にしたゲームがひそかに流行していると知らされる。そのゲーム「USA」のの開発には、かつて石村の上官だった人物が関係しているらしく……
表紙がものすごく日本のアニメっぽい人型巨大メカなのですが、それよりもフィリップ・K・ディックですよ。とにかく大変な『高い城の男』だったので大丈夫です、安心してお読み下さい。わたくしが保証します。どちらかといえば、表紙のメカが中盤までなかなか出てこないほうが心配です。
日本合衆国(以下USJ)はスマホのように多機能な端末として電卓が発展した便利な社会であり、ネットゲームや非合法の娯楽も発展していますが同時におそるべき管理社会でもあります。主人公も、彼と行動をともにする特別高等警察課員も肉体的精神的にきつい目に遭いますし誰かをきつい目に遭わせたりもします。血みどろの攻防と巨大メカの戦闘と反政府戦力とゲーセンが入り混じった、二十一世紀らしいとんでもない娯楽小説になっています。
ゲームの中に存在する夢と希望の「アメリカ合衆国」が現実にはあり得ないと知りながら読めば、さらにものがなしさが強まって味わい深くなります。本書のテーマと説得力については、解説で著者の略歴を読むと納得できるところがありますね。

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

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シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

アメリカの片田舎で見つかった、イリジウム合金製の巨大な手。それは数千年前に地球を訪れた何ものかが遺した、巨大な人型ロボットのパーツのひとつだった。発見者の少女ローズは後に物理学者となり、謎の人物「インタビュアー」とともに地球上に散らばったパーツを回収するプロジェクトを開始する。
これはロボットアニメ好きな人っぽいなぁというあらすじです。実際そんな調子なので日本のロボットアニメしか知らない方でも面白く読めると思います。正体不明のパーツがどこから来たのかとか、どうやら身長60メートル以上の女性型らしいとか、ロボットそのものについての謎と並行してプロジェクトにかかわる人々のドラマが進行するのが特にアニメ的です。
語り口が独特で、ほぼ前編がインタビュアーと呼ばれる正体不明の人物によるインタビューによって構成されています。この人はインタビューをするだけではなくパーツ回収プロジェクトの推進者でもあり、合衆国大統領補佐官とトークしたり個人的に外部の人間と対話したりと忙しい人物です。他にも軍のパイロット、技術者、科学者などの行動と思惑が絡み合い、上巻の終わりで起きる衝撃的な事件からは予想外の展開が相次ぎます。本作はいったん上下巻で終わっているのですが、さいごにもうひとつびっくりする展開が用意されていますので続編の翻訳を楽しみに待ちましょうね。
巨神計画〈上〉 (創元SF文庫) 巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

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G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(東京創元社) [SF]

中東の専制国家で生きるハッカーの青年アリフ(ハンドルネーム)は、ある日を境に政府保安局の検閲官に追われる身となる。同じころ、突然別れを告げた恋人から託された奇妙な古写本の謎を解くべく、追っ手を逃れたアリフは異界へと足を踏み入れることに…
ほんまもんの現代アラブを舞台にしたSFファンタジイでございました。こういうブログをご覧になっている方ならよくご存じのインターネット事情と併行して登場する幻の書物が『千一日物語』ですよ。(どうも実在するそうなのですが一部フィクションが入っています)アラブものと言えばおなじみ何人いるかわからない王族も、アラビアンナイトと言えばおなじみ円柱の都も出てきます。ランプの魔神もいます。
このままサスペンスもしくはサイバーパンク系統のSFとして突っ走るのかと思っていると普通に幽精(ジン)なんかが出てきて、そのまま向こうの世界へ行ってしまったりもするんですよ。現実の中東のどこかにあるこちらの世界も、壁を隔てた向こうの世界も混沌としていることはあまり変わらず、さらに主人公の行動がきっかけにして大きな変化が生まれる終盤の展開は壮絶です。「アラブの春」のころ、2012年に出た本ということも今なら頭のどこかに置いたうえで読みたい本です。

無限の書 (創元海外SF叢書)


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小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』(角川書店) [SF]

全人類が記憶障害に陥り、外部記憶装置を利用して長期記憶を保存するようになった世界。個人の記憶がメモリとして保管可能な時代に、複数の人生を記憶している語り手「わたし」とは何者なのか?
第一部ではすべての人類が原因不明の記憶障害に見舞われ、それにともなって起こりうるカタストロフをすんでの所で回避する人々の奮闘が描かれます。分量としては全体の四分の一くらいですがスリルと緊迫感とイライラにあふれ(何せ記憶が続かないのでしょっちゅう同じやりとりを繰り返しているのです)、ここだけでも短篇小説として楽しめます。そのあとの短い幕間で外部記憶装置の発展と文明の再構築に至る経緯が語られ、それからようやく冒頭のあらすじに繋がります。
個人の記憶が保存された外部メディアというアイデア自体は、SFの世界ではだいぶ前からいくつもあると思うですが、USBメモリやウェアラブル端末が身近になった現在では説得力が格段に増しています。イタコや審神者など、日本の伝承をうまいこと織り込んであるのも面白いですね。
「わたし」が思い出す無数の記憶は、それ自体がSFのみならずミステリ、恋愛、人情噺などさまざまにジャンル分けできそうな短篇小説にもなっています。技術によって記憶が管理される世界がべつだん無味乾燥でもなく、かえって感情的な問題が次々に生まれつつあるのが読みどころです。

失われた過去と未来の犯罪


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今日泊亜蘭『最終戦争/空族館』(ちくま文庫) [SF]

日本SFの黎明期から活動している伝説的作家の文庫オリジナルアンソロジーです。「宇宙塵」同人にも参加ですとか、佐藤春夫に紹介されて探偵小説を書き始めたとか豪華なエピソードがもりもり出てきます。
そのくらいの人ですから当然いろんな作家に影響を与えていて、本書に収録された作品だけでも星新一や筒井康隆を想起させる要素がぼちぼち含まれています。ミステリっぽい雰囲気のものから子ども向けのややほんわかした作品まで幅広く、クスッと笑えるしゃれた結末もあるしぞっとするカタストロフィも入っています。表題作のうち「最終戦争」は毒を含んだ風刺がありますが、もう一方の「空族館」は登場人物たちにとってはさっぱり笑えない喜劇です。
わたくしは「博士の粉砕機」が無慈悲ですばらしいと思いますね。子ども向けにリライトされたバージョンも収録されてるですが文章がやさしくなった以外に特に違いはないです。

最終戦争/空族館 (ちくま文庫)


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ジャック・ヴァンス『宇宙探偵マグナス・リドルフ』(国書刊行会) [SF]

あるときは数学者、またあるときは老哲学者、しかしてその実体は宇宙を駆ける凄腕のトラブルシューター。白髪白鬚の紳士マグナス・リドルフの活躍する全10篇をおさめた短篇集です。宇宙が舞台ですから基本的にはSFですが、ミステリあり海洋冒険ものありカジノとの対決ありとバラエティ豊かな展開です。
まずお伝えしておきたいのは、この表紙のじいさんは強きを挫き弱きを助ける正義の味方では全然ありませんよということです。トラブルシューターとして仕事をするのは自分が大損をしたときばっかりですし、そもそも濡れ手で粟の儲け話の当てが外れたケースもありそうな雰囲気ですし。ターゲットとなる悪党どもも大概ですが、その斜め上を行く手で彼らを出し抜き、澄ました顔で自分の儲けはしっかり確保してゆくタイプの主人公です。
そもそもなんで数学者だったり哲学者だったりするのかというと設定が固まっていなかったからではないかと思われるところがあるなど、かっこよさより笑いに多くポイントが入るような連作だなぁというのがわたくしの個人的な感想です。オイルサーディン缶詰の異物混入に端を発する事件が未知の○○○との接触につながる「ユダのサーディン」ですとか、とある惑星で起きた住民行方不明事件に隠されたスケールのでかい真相「暗黒神降臨」など、大変シリアスなSFでありながら大笑いです。

宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)


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