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アビ・ヴァールブルク『蛇儀礼』(岩波文庫) [学術書]

プエブロ=インディアンに伝わる仮面舞踏や儀礼を足がかりに、古代ヨーロッパとキリスト教の根源にある蛇のイメージまで旅をする、美術史家ヴァールブルクによる講演の記録です。
講演をそのまま収録していますから、専門的な表現に偏りすぎておらず、美術史にそこまで興味がなくても面白く読める流れになっています。講演ですからスライドで提示された写真や図版もちゃんと入っているのもハードルを低くするポイントになっています。
約三十年前に旅したアメリカの風景をもとにしてのお話なので、著者とともに旅をする気分で読み進めることができました。後半は時を越えて古代のギリシャまで足を伸ばすので、さほど長くないにしてはずいぶんな大旅行をした気分になりました。

実はこの講演が行われたのは大学や研究施設のホールではなく、開催地や発表に至る経緯がとても面白いので、そこはぜひ本書の解説にて読者ご自身の目で確かめていただきたく思います。こんなところでネタバレするのはもったいない、当時の著者の状況から社会情勢までが垣間見えて興味深いですよ。1923年に行われた講演の記録に、1988年に出版されたドイツ語版に付された解説もあわせて収録され、思いがけず「異文化を見ている人を見ている」という体験もできました。

蛇儀礼 (岩波文庫)


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平出隆『ベースボールの詩学』(講談社学術文庫) [学術書]

テーマはまさにタイトルのとおり、ベースボールと詩です。日本で「野球」と呼ばれる以前、アメリカにおけるベースボール黎明期から始まる、嘘のような本当のような嘘みたいなどうやら本当らしい不思議な本です。野球の歴史を学ぶには、ちょっと散文的すぎて不向きだと思います。ただこれは、プロアマ問わず野球にふれたことのある人ならまず間違いなく面白いですよ。
18世紀末の子どもの本にあらわれた野球にまつわる歌あり、ホイットマンや正岡子規と野球をめぐる詩あり、著者自身がアメリカの球場跡地を旅した記事あり、古代エジプト起源説に取り組む章あり。特定の試合を詳しく語る箇所はそんなに出て来ないのに、手を変え品を変えてまるまる1冊ベースボールの話ばかりしています。

わたくしはもっぱら観戦する側ですが、自身もプレイヤーである詩人の視点から見つめる野球の世界の思いがけない様相に振り回されっぱなしで、実に新鮮な体験を味わいました。
白球を追いかける熱いドラマと悲喜劇に、詩学という新しい指標を与えてくれる非常にへんてこで得がたい作品です。特に『喜劇』という部分が重要なんですよね、真剣にやっているのに笑うしかないシーンにたびたび遭遇するものです。第8章で扱われる「ケイシー打席に立つ」というバラードは、これは野球ファンなら絶対におぼえがあるシチュエーションですよ。2点差を追いかける最終回ツーアウトランナーなしからランナー二人が出塁、ここで登場するケイシーはきっとあなたの知っているあの選手と同じ結果を出します。1888年に作られた詩なのに。

ベースボールの詩学 (講談社学術文庫)

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嵐山光三郎『美妙 書斎は戦場なり』(中央公論新社) [学術書]

明治の文壇で尾崎紅葉らと同時代に活躍し、現在では完全に忘れ去られた山田美妙の評伝です。ところどころで小説形式も入るので、美妙をご存じない方でも楽しんでお読みいただけます。
と言いますかほとんどの方はご存じないんじゃないでしょうか、山田美妙。わたくしはたまたま島崎藤村方面から名前だけ知りまして、ちょっと前に岩波文庫から出た『いちご姫』で作品に触れ、こりゃ忘れられてもしゃーないなぁという感想を持ちました。青空文庫に「武蔵野」が入っているので、興味のある方はご覧下さい。

美妙のかかげた言文一致体における「作品の時代の言葉に使われていた言葉で書く」というスタイルはしっかり味わえます。文庫じゃないから読みやすいかと言いますと、全くそんなことはないんですけれども。
実際に読んでみると、美妙本人はそんなにおもしろみのある人物ではありません。最終的に成功者にはなれなかった人物で、楽しいエピソードばかりでもありません。面白いのは紅葉をはじめとする周りの人々や明治の文壇・メディアとの関わり方で、次から次へと知ってる名前が出てきます。明治の文学好きの方は美妙本人を知らなくても必読ですよこれは。で、せっかくだからこの機会に美妙をお読みになるのが良いと思います。
過激な作風とは正反対の不遇な作家を、ここまで面白く読ませる嵐山さんの手腕もすごいです。こんなに美妙を愛している人は、正直なとこ初めて見ました。

美妙 書斎は戦場なり

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グスタフ・ルネ・ホッケ『マグナ・グラエキア』(平凡社ライブラリー) [学術書]

地中海の太陽と古代南イタリア賛歌が眩しい旅行記小説です。旅行記小説ってどんなものかと言いますとあれです、『土佐日記』ですよ『土佐日記』。作者の分身である青年マンフレートがイタリアの南部、「長靴の靴底」あたりの各地をめぐるお話です。街や遺跡の風景だけでなく、訪れた先で出会う人々との会話がかなりの部分を占めています。
登場人物の語る言葉はほぼ著者であるホッケの思想をそのまま反映していると思われますが、対話形式なのでさほど難解とは感じませんでした。古代ギリシアの文化に歴史、建築や思想に至るまで語り尽くす南イタリア漬けの時間がびっしり詰まっているものの、図版がちょこちょこ挿入されているおかげで息苦しさが軽減されたと言いますか。
そんな濃密な思想小説である一方、地中海地方の風景描写がとにかく美しく、紀行文としても十分に楽しめました。著者の立場から考えればどうしたってヨーロッパ精神史がメインディッシュだと思うんですけれども、わたくしとしてはどうしても明るい太陽輝くイタリアが印象に残っています。

マグナ・グラエキア: ギリシア的南部イタリア遍歴 (平凡社ライブラリー)

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エリック・ハズペス『異形再生』(原書房) [学術書]

伝説上の生物たちの実在を証明すべく研究を重ね、ついに自らの手で絶滅動物を作り出すに至った科学者スペンサー・ブラック博士の伝記と、彼の遺した『絶滅動物図録』をカップリングした1冊で2度おいしい本です。
お察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、付録と言いつつ全体の半分以上を占める『絶滅動物図録』にメインディッシュの趣があります。表紙を見れば一目瞭然、架空生物の骨格や筋肉を真剣に図表として収録しているんですからもう。骨や筋肉の名前にいちいち番号が振られた、ほんものの医学書みたいな解剖学の洋式をきっちり守っています。それぞれの生き物についての文章による解説は1ページ程度にまとめ、あくまでも図版に語らせるスタイルにはいっそすがすがしさを感じました。
と、ここまで図鑑パートを推してきたんですけれども、前半に収録された伝記の部分もなかなかの味わいです。狂気の研究に手を染めたある医者をめぐる回想に19世紀アメリカのうさんくさい空気を絡ませ、それでいて冷静な伝記的記述の域を出ずに終わる抑制の効いた語り口が想像力をかき立てます。ラヴクラフトの作品群で取り扱われるテーマが好きな方にはピンと来るんじゃないでしょうか。

異形再生: 付『絶滅動物図録』

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五十嵐太郎『新編 新宗教と巨大建築』(ちくま学芸文庫) [学術書]

近代~現代に誕生した新しい宗教の大型建築を、建築批評の視点で読み解く本です。過去に講談社現代新書から出ているバージョンに、それ以降に発表された文章と大幅な改稿、書き下ろしも加えた新版ということです。
私はもともと寺社や大聖堂を美術鑑賞みたいな気持ちで見るのが好きだったのですが、新宗教の建物についても同じ視点で見に行っても構わないという点には恥ずかしながらさっぱり思い至りませんでした。現代建築なら面白がって見物に行くのに、宗教施設には歴史を求めてしまう偏見に気付かされましたね。
町全体が宗教都市として計画されている天理市などは、宗教学とは関係なく好奇心を刺激される場所だと思いました。普段街を歩いていても時々新宗教の教会を見かけることはあっても、巨大建築と呼びたくなるくらいのスケールを持った建物となるとなかなか目にする機会はないので、かなり毛色の変わった建築ガイドみたいな調子で読み進めました。ある程度発展した宗教と建築は切り離せませんから、自然とそれぞれの新宗教の歴史をたどる形になるのも(本書の目的とはずれてしまうかもしれませんが)あまり触れたことのない経験で新鮮でした。
大本教とか天理教が今でも活動しているのは知っていても、江戸時代末期~明治にかけて始まった宗教となるともう日本史に出てくる名前のような気がしていました。もっと時代を下って、それこそオウム真理教(アレフ)くらいになるとリアルタイムで見ていた話になってしまいますけれども。当時は何とも思っていなかったサティアンについて、建築鑑賞の視点から見直すなんて本当に思いも寄りませんでしたよ。

新編 新宗教と巨大建築 (ちくま学芸文庫)

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荒俣宏『決戦下のユートピア』(文春文庫) [学術書]

第二次世界大戦期の日本の文化を、庶民の日常から切り取る異色の一冊です。ファッション、結婚、子どもの世界、お笑い、新興宗教など楽しげな見出しが並んでいます。
戦争に向かう時期も戦争が始まった後も、意外とみんな楽しそうにやっているもんです。色んなところからの圧力で楽しそうに出来ない時代が来ても、どうにか工夫してやっていこうとする人たちはちゃんといるんですね。
おもしろ方面に限らず、思わず膝を打つ商売やあっけにとられるアイデアがたくさん取り上げられていて実に興味深かったです。藤田嗣治デザインのもんぺとか傷病軍人専門の無料結婚相談所とか、現代から想像するだけではとても出てきませんでしたよ。

ちょうど本書と同じタイミングで小林信彦『ぼくたちの好きな戦争』を読んでいました。慰問団として南方を訪れる浅草のコメディアンや報道班員の作家が登場する喜劇戦争小説の名作で、併せて読むとさらに具体的な戦時中の一場面が想像できておすすめです。

決戦下のユートピア (文春文庫)

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半藤一利『荷風さんの昭和』(ちくま文庫) [学術書]

永井荷風の『断腸亭日乗』とともに昭和を歩く、と言いますか昭和とともに荷風を歩くような本でした。
昭和3~20年を中心に荷風の日記をひたすら読み込んでゆくわけで、この1冊だけでものすごく荷風という人をわかった気持ちになれること請け合いです。
昭和史の荷風さん的変奏としてだけではなく戦時下東京の資料としても、半藤さん自身の体験を多数交えた豊富な情報量で十分に楽しめます…が、詳細な解説の一方で荷風の世相に対する無関心っぷりが浮かび上がってくるのが何とも面白いです。端から気にしていないのか、嫌でも視界に入ってくる雑音を意地でも無視しているのか。
特に忘れがたいのは昭和16年の開戦当時、どんな人の日記を見ても少しくらいは喜びの色がうかがえる頃、荷風だけは徹頭徹尾クールな記述を崩していないという分析と検証です。マイペースなんてものじゃない、読んでいるこっちがいたたまれなくなるくらいの徹底ぶりです。あまりにも世間に背を向けすぎていて心配になってくるんですけれども、それこそ余計なお世話も良いところですね。

荷風さんの昭和 (ちくま文庫)

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服部幸雄『さかさまの幽霊 〈視〉の江戸文化論』(ちくま学芸文庫) [学術書]

『東海道四谷怪談』にて、破れた提灯の中からさかさまの姿で現れるお岩の幽霊を皮切りに、歌舞伎の中にあらわれた江戸末期の価値観と鶴屋南北の視点を切り取ってみせる文化論です。思いもしなかった目線にびっくりしてつい手に取ってしまいました。
これまで歌舞伎というと、ついストーリーや登場人物、元ネタになった歴史上の出来事にばかり注目していたので、舞台の上の出来事を図像として眺めて議論する本書は大変新鮮でした。歌舞伎のワンシーンを描いた浮世絵を見るのも好きでしたが、これからはもうちょっと別の楽しみ方が出来そうです。「歌舞伎の色彩論」と題された第2部はその名の通り「色」のことだけが集中的に論じられているんですけれども、ここも掘り下げたら色々思いも寄らないものが発掘できそうです。
文庫化にあたって追加された2編のエッセイがまた、おまけと呼ぶのはもったいない面白さでおすすめです。美術方面から愛好していた河鍋暁斎の話も良いのですが、本文でも扱われている和合神という良くわからない神様を追いかける「図像の創成」がとても楽しいです。貧乏神のイメージがどこから来たのかとか、普段まず考えたりしませんしね。

さかさまの幽霊―“視”の江戸文化論 (ちくま学芸文庫)

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ウンベルト・エーコ『小説の森散策』(岩波文庫) [学術書]

1992~1993年にかけてのハーヴァード大学ノートン詩学講義の記録です。徴収に語りかける講義草稿の形を取っているので、とても読みやすくリラックスして楽しめる本になっています。学術書としてではなく余暇に読みたくなりました。
読者は手にした小説とどんな風に向き合うべきかという問題を、「モデル読者」という聞いたこともない用語を持ってきてわかりやすく解説してくれます。(「何か聞いたことある」と思った方、もしかしてそれは「読者モデル」ではないでしょうか)著者の専門分野である記号論の考え方を持ち込んで、かなりややこしい話をしているんですけれども、何せ語り口が親切なので騙されてほいほい森の奥へついて行ってしまう感覚でした。
前半ではネルヴァル「シルヴィー」の分析が圧巻で、作品を手元に置いて精読したくなること間違いなしです。ちょうど本棚に同作品が収録されたちくま文庫の『火の娘たち』があったわたくしはもう欣喜雀躍でした。
ひょっとすると、エーコさんは講義で扱うテーマに合致するからというだけでなく、自分の愛する小説を聴衆の皆さんに広めたいがたえにこちらを取り上げたのではないかと思うくらいのていねいな読解ですよ。ナウなヤングにバカウケの表現で言うところの、ステマを疑うレベルです。
後半では虚構と現実の関係についての問題を論じています。何だか難しそうに見えますが、アニメやドラマのファンがたびたび行う、舞台になった土地に実際に足を運んでみるいわゆる「聖地巡礼」が実は昔からあった話などは大変身近に感じました。エーコさんも大好きな作家ボルヘスの、私の大好きな短篇「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」を思い出しました。でもフィクションの話だし、罪のない遊びの延長だし…なんて思っていると、最終回の講義ではこの実例が背筋の寒くなるような話につながります。小説への向き合い方を、楽しみながら知らず知らずのうちに考えさせられます。

ところでわたくしはヴィットリオ・エマヌエーレ2世のエピソードでこの王様の視点に共感したのですが、これはあまり一般的ではない見方なのでしょうか。うーむ。

ウンベルト・エーコ 小説の森散策 (岩波文庫)


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