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稲垣足穂『飛行機の黄昏』(平凡社) [学術書]

STANDARD BOOKSという「科学者視点のある」随筆を集めた作家別アンソロジーのなかの一冊です。このシリーズはとにかく装丁がかっこいいのでぜひ画像も見てください。寺田寅彦や中谷宇吉郎など学者さんとして有名な人もいますし、本書の稲垣や野尻抱影のような文学者として活躍した人もいます。科学者目線といっても専門的な用語ばかり並んでいるのではなく、読みやすい随筆や創作で編まれた楽しい読み物でどなたにもおすすめです。なんといってもルックスがかっこいいですしね。
こちらの稲垣さんの本は「天体」「飛行機」「ガス灯」「神戸」など、見ているだけで嬉しくなるようなきらきらしたことばが詰まっています。飛行機(それも第一次大戦までの)とか人間が月へ行った話をめぐる随想は、科学を本格的に勉強したことのないわたくしでも楽しく読めました。ほかに少年時代に親しんだ神戸の思い出なども、この辺に行ったことのある人にはきっと楽しいはずです。
身の回りのことや映画、出会った人など実際の経験にもとづいて書かれたエッセイが多いのですが、どれを見てもやっぱりデビュー作「一千一秒物語」からどこかつながっている気がします。あれがお好きだった方は足穂の作品は何でも気に入ると思います。

稲垣足穂 飛行機の黄昏 (STANDARD BOOKS)

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宮崎賢太郎『カクレキリシタンの実像 日本人のキリスト教理解と受容』(吉川弘文館) [学術書]

十六世紀の日本へのキリスト教伝来の後、禁教令から明治時代までひそかに信仰を守ってきたいわゆる隠れキリシタンの問題に踏み込んだ大変刺激的な本です。まずタイトルが「カクレキリシタン」とカタカナで一続きの表記になっていることにご注目ください。
江戸時代初期から現在まで、長崎県を中心に信仰を守ってきた人々は確かに存在するのですが、彼らの信仰しているものをよくよく調べてみるとそれはもうキリスト教でもカトリックでもない日本の民俗宗教であった、という結論がとにかく衝撃的です。宣教師がいなくなって正しい教義もだんだんと薄れて、二百年も経って残っているのは「代々伝わってきた神様」だったんですよ。そう考えると、現在も仏教や神道の行事と共存しているのも不思議ではありませんよね。
現地で取材された当事者の方々の声も貴重な情報です。儀式に用いられる道具や祈りの言葉や歌にわずかに見られるカトリック信仰の名残には呆然となりました。著者自身も長崎出身のカトリックであり、キリスト教の知識がある方が読まれるとさらに大きな衝撃を受けると思います。
学校で習ったりドラマや漫画で見て、なんとなくイメージしていた隠れキリシタン像がぶちこわされるものすごい本でした。

カクレキリシタンの実像: 日本人のキリスト教理解と受容


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山本博文『殉教』(光文社新書) [学術書]

副題は「日本人は何を信仰したか」。日本におけるキリスト教伝来から鎖国と弾圧に至るまでを史料から読み取り、そこで起きた「殉教」から見えてくるものを探っています。日本での布教を段階を追って説明してくれるので、歴史の授業でちょっとやっただけの知識しかなくても大丈夫ですよ。ザビエルが来てから島原の乱まで何十年も経っていれば日本と世界の事情も変わりますし、その辺りまで掘り下げてあったのは大変ありがたかったです。フランシスコ会やドミニコ会も布教に来ていたことを知らなかった(もしくは習ったのに忘れていた)レベルだったもので。
また、遠藤周作『沈黙』と史実における殉教者の比較が一番はじめの章におかれているのも入りやすさを手伝っています。『沈黙』のあらすじにも触れていますが、もとの作品を読んでいるとなおのことわかりやすいですね。わたくしはこの機会にと一足先に読んでから本書に取りかかりました。
史料から読み取れる殉教の精神と、日本の武士の精神性が一致した可能性の指摘は興味深いですね。一方で民衆のあいだの信仰については、ヨーロッパ諸国の民間信仰との共通点がみられるというのもなるほどと納得しました。

もともと山田風太郎の切支丹もので何度も取り上げられていた問題が気になって手に取った本で、まさにその部分を解決してくれる興味深い本でした。ば島原の乱の農民たちが殉教者として数えられないわけも得心がいきました。

殉教 日本人は何を信仰したか (光文社新書)

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長山靖生『偽史冒険世界』(ちくま文庫) [学術書]

源義経ジンギスカン説から日本人の祖先はユダヤ人だった説まで、近代日本に生まれては世間を騒がせたカルト本やあやしげな思想家たち、伝奇小説でも大人気の珍説を「偽史」という観点から切り取った本です。
出るわ出るわ、皆さん一度はどこかで目にしたことのあるような怪しげなネタが山盛りです。罪のないおとぎ話だと思っていた義経=ジンギスカン説は大正時代に出版された本が火付け役になった、ごく最近になって定着した伝説だったなんて知ってましたか。他にも日本人起源説や日ユ同祖論にユダヤ陰謀論に神代文字に竹内文書など、大正~昭和初期にかけてぞろぞろ登場した新説が目白押しです。
これは明らかに思い込みと願望と妄想の産物であるなという冷静な分析を笑って見ているうちは良かったんですけれども、それが時代の流れに追い風を受けて広まっていった背景を追ってゆくとだんだん笑えなくなっていくのがちょっと怖いです。著者の長山さんがあとがきで「本書を読んだら楽しみ、笑って欲しい」と書かれているとおり、予想外でとんでもないおもしろ歴史は笑って突っ込んで楽しむべきものだなぁという感想にいたりました。真顔で主張して国を動かそうとしちゃいけませんやね。
本書はあくまで近代までの日本を中心にごく一部のテーマをまとめてありますけれども、それ以外にも西郷隆盛が畝傍艦に乗って戻ってくる説やらもっと世界的に有名な陰謀説に触れた部分もあってこのテーマの根深さをのぞき見た感があります。個人的に面白く読んだのは、最近興味を持ち始めた特撮作品に見られる南方幻想や秘密結社趣味のくだりですね。やっぱり娯楽との相性は抜群にいいんですよ、こういう奇想天外な嘘歴史は。

偽史冒険世界―カルト本の百年 (ちくま文庫)

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宮崎市定『水滸伝 虚構のなかの史実』(中公文庫) [学術書]

中国の四大奇書(おもしろ本)の一つに数えられる『水滸伝』のエピソードや登場人物を史実と照らし合わせて魅力を探る本です。もとは歴史雑誌の連載で、著者の宮崎さんは筋金入りの水滸伝ファンだそうですから、これはもう好きな人ならどこから読んでも楽しいですよ。
「北宋末期の話」というだけで自由に創造され、さまざまなかたちで流布していた物語がまとまり、数多くの無名の作者たちによる加筆と編集を経て現代に残された姿をとったと思われる水滸伝ですが、梁山泊につどうヒーローたちすべてが民衆の願望から生まれた架空の人物かといえばそうでもない。悪役である役人やら宦官たちについては間違いなくモデルがいましたし、けっして何から何まで荒唐無稽な作り話だったわけではないんですね。冒頭から悪行の限りを尽くすやつらがじっさいには何をやった人たちだったのか、好漢たちのふるまいに見られる当時の考え方など、もっと読みたくなるテーマが盛りだくさんです。「宋江は二人いた」なんて見出し、それだけでめちゃくちゃ興味をひかれませんか。
一番もっと知りたいと思ったのは、時代の移りかわりによる水滸伝の読まれ方の変化です。中国はたびたび王朝が変わりますし近年は革命で価値観ががらりと入れ替わりましたし、昔っからいらんもんを増やしたり削ったりされてきたテキストなんですね。

水滸伝―虚構のなかの史実 (中公文庫)


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鹿島茂『パリの王様たち ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ』(文春文庫) [学術書]

フランス近代文学の三大巨匠の生涯を、文学的業績よりもそれを生み出す糧となった(かもしれない)私生活に軸足をおいてつづった大変おもしろい評伝です。下手をしたら彼らの書いたものよりおもしろいかもしれない人生についての本です。
全編を通しての三本柱が「金」「女」「名声」でなまぐさいことなまぐさいこと、下世話だったらありゃしません。この作家さんたちの小説を楽しまれた方なら、どこかでその不行跡を耳にされてると思うんですけれども、『レ・ミゼラブル』に感動した人にはぜひとも衝撃を受けて幻滅していただきたいです。『三銃士』や《人間喜劇》をご愛読の方にはそんなにショックではなく、どちらかといえば納得していただけそうな気がします。ほんとうに小説よりおもしろい、資料なしにそのまま出したらフィクションだと思われかねない底抜けの人々なんですよ。
本書は資料があやふやだったり明らかに伝記作者の創作と思われるエピソードについてはしっかり明記し、そのうえで「こういうお話が出るのも不思議なことではない」と教えてくれる親切設計です。それがまたいちいちなまぐさくて、現代でいうタブロイド紙の自称関係者に取材した記事みたいでたまりません。
1800年前後に生まれた彼らはナポレオンの子どもたち世代であり、彼らの生涯を振り返ることはそのままナポレオン後のフランスとヨーロッパの歴史を眺めることでもあります。とんでもない時代に生まれてとんでもない時代に輝いた三巨星もあったものです。

パリの王様たち―ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ (文春文庫)


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長田龍太『中世ヨーロッパの武術』(新紀元社) [学術書]

日本のそれと比べて圧倒的に資料の少ない、中世~ルネッサンス頃のヨーロッパ各地で用いられていた戦闘術の解説書です。よく中世風創作ファンタジーの話題で言われがちな「西洋の武器は力任せに振り回すだけだから」を根本からひっくり返してくれる一冊です。
まずは軽くヨーロッパの武術の歴史をたどり、本書の資料となったフェシトビュッフ(戦闘技術の解説書)についての解説もあるので、古文書や歴史の知識がなくても楽しめます。巻末には参考文献として用いられたフェシトビュッフとその解説書の書評もあり、実際に興味を持ったらもっと深く踏み込める仕様になっているのも素敵です。
ロングソードを皮切りにダガー、ポールアックス、ファルシオン、ショートスタッフ、レイピアなどなど、ゲームやファンタジー小説をたしなむ人にはおなじみの武器名がずらりと並んでいます。武器は用いませんが武術の基本として欠かせないレスリングも含め、教本に書かれた技が見やすい図解になっているのがほんとうにありがたいです。
日本語の資料はほとんどない題材に取り組んで、こんなにわかりやすい本にまとめた著者に頭が下がります。出版された新紀元社さんもさすがですよ。

中世ヨーロッパの武術


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アビ・ヴァールブルク『蛇儀礼』(岩波文庫) [学術書]

プエブロ=インディアンに伝わる仮面舞踏や儀礼を足がかりに、古代ヨーロッパとキリスト教の根源にある蛇のイメージまで旅をする、美術史家ヴァールブルクによる講演の記録です。
講演をそのまま収録していますから、専門的な表現に偏りすぎておらず、美術史にそこまで興味がなくても面白く読める流れになっています。講演ですからスライドで提示された写真や図版もちゃんと入っているのもハードルを低くするポイントになっています。
約三十年前に旅したアメリカの風景をもとにしてのお話なので、著者とともに旅をする気分で読み進めることができました。後半は時を越えて古代のギリシャまで足を伸ばすので、さほど長くないにしてはずいぶんな大旅行をした気分になりました。

実はこの講演が行われたのは大学や研究施設のホールではなく、開催地や発表に至る経緯がとても面白いので、そこはぜひ本書の解説にて読者ご自身の目で確かめていただきたく思います。こんなところでネタバレするのはもったいない、当時の著者の状況から社会情勢までが垣間見えて興味深いですよ。1923年に行われた講演の記録に、1988年に出版されたドイツ語版に付された解説もあわせて収録され、思いがけず「異文化を見ている人を見ている」という体験もできました。

蛇儀礼 (岩波文庫)


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平出隆『ベースボールの詩学』(講談社学術文庫) [学術書]

テーマはまさにタイトルのとおり、ベースボールと詩です。日本で「野球」と呼ばれる以前、アメリカにおけるベースボール黎明期から始まる、嘘のような本当のような嘘みたいなどうやら本当らしい不思議な本です。野球の歴史を学ぶには、ちょっと散文的すぎて不向きだと思います。ただこれは、プロアマ問わず野球にふれたことのある人ならまず間違いなく面白いですよ。
18世紀末の子どもの本にあらわれた野球にまつわる歌あり、ホイットマンや正岡子規と野球をめぐる詩あり、著者自身がアメリカの球場跡地を旅した記事あり、古代エジプト起源説に取り組む章あり。特定の試合を詳しく語る箇所はそんなに出て来ないのに、手を変え品を変えてまるまる1冊ベースボールの話ばかりしています。

わたくしはもっぱら観戦する側ですが、自身もプレイヤーである詩人の視点から見つめる野球の世界の思いがけない様相に振り回されっぱなしで、実に新鮮な体験を味わいました。
白球を追いかける熱いドラマと悲喜劇に、詩学という新しい指標を与えてくれる非常にへんてこで得がたい作品です。特に『喜劇』という部分が重要なんですよね、真剣にやっているのに笑うしかないシーンにたびたび遭遇するものです。第8章で扱われる「ケイシー打席に立つ」というバラードは、これは野球ファンなら絶対におぼえがあるシチュエーションですよ。2点差を追いかける最終回ツーアウトランナーなしからランナー二人が出塁、ここで登場するケイシーはきっとあなたの知っているあの選手と同じ結果を出します。1888年に作られた詩なのに。

ベースボールの詩学 (講談社学術文庫)

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嵐山光三郎『美妙 書斎は戦場なり』(中央公論新社) [学術書]

明治の文壇で尾崎紅葉らと同時代に活躍し、現在では完全に忘れ去られた山田美妙の評伝です。ところどころで小説形式も入るので、美妙をご存じない方でも楽しんでお読みいただけます。
と言いますかほとんどの方はご存じないんじゃないでしょうか、山田美妙。わたくしはたまたま島崎藤村方面から名前だけ知りまして、ちょっと前に岩波文庫から出た『いちご姫』で作品に触れ、こりゃ忘れられてもしゃーないなぁという感想を持ちました。青空文庫に「武蔵野」が入っているので、興味のある方はご覧下さい。

美妙のかかげた言文一致体における「作品の時代の言葉に使われていた言葉で書く」というスタイルはしっかり味わえます。文庫じゃないから読みやすいかと言いますと、全くそんなことはないんですけれども。
実際に読んでみると、美妙本人はそんなにおもしろみのある人物ではありません。最終的に成功者にはなれなかった人物で、楽しいエピソードばかりでもありません。面白いのは紅葉をはじめとする周りの人々や明治の文壇・メディアとの関わり方で、次から次へと知ってる名前が出てきます。明治の文学好きの方は美妙本人を知らなくても必読ですよこれは。で、せっかくだからこの機会に美妙をお読みになるのが良いと思います。
過激な作風とは正反対の不遇な作家を、ここまで面白く読ませる嵐山さんの手腕もすごいです。こんなに美妙を愛している人は、正直なとこ初めて見ました。

美妙 書斎は戦場なり

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