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トーン・テレヘン『おじいさんに聞いた話』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

オランダ生まれの著者が幼いころ、かつてロシアで暮らしていた祖父が聞かせてくれたお話を元にした掌編小説集です。
と見せかけて、ほんとうにおじいさんに聞いた話ではなく著者の創作であるそうで、そこがまた良いです。『ビリティスの歌』の系譜です。著者の祖父も実はロシア人ではなくオランダからサンクトペテルブルクに移住した一族だそうで、虚実のあいまを縫いながら外側から見た「ロシア的なもの」が浮き彫りにされていることになります。
作品はどれも短くてひどいお話です。不幸な人は不幸なまま、特に救われるようすもなく終わって天国にすら行けません。終わりがなく、今でも事態が好転しないまま続いているお話もあります。それでいて読後感が意外とさっぱりしているのは、全編にただようユーモアのおかげですね。
皇帝や魔女やクマや悪魔といった、いかにもロシアの昔話にいそうなキャラクターたちも登場し、世界の他のどこにもないロシアのお話は続いてゆきます。

おじいさんに聞いた話 (新潮クレスト・ブックス)

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ブライアン・エヴンソン『遁走状態』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

E・A・ポーとも比較される現代アメリカ作家の短篇集です。もうひとつ同じクレスト・ブックスから出ている『
ウインドアイ
』とくらべると、こちらのほうがより現実に近い作品が多かったような印象です。日常に近くて感覚的に理解しやすい気はするんですけれども、共感できるぶんだけ読者のしんどさも上がるのでわかりやすけりゃいいってものでもありません。最終的に日常に戻る(ような)話もあるですがすっきりはしませんし、理不尽な暴力や不条理なルールに振り回されるのは主人公も読者もきついもんですよ。出版社のワンマン社長に振り回される社員の話「九十に九十」が特におすすめです。(いじわるな意味で)
ただこの情け容赦のなさが、まさに小説/文学だからこそ可能な世界だとも思うわけです。映像化されたら正視できない世界で、いやな話やへんな話、後味が悪い話がお好きな方にはぜひ手に取っていただきたいんですね。先ほども申し上げましたとおり、ほんとうに爽快感がない、それでいて見事な工芸品のような短篇世界ですから。

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)


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ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

穏やかな老後の暮らしを楽しむ男のもとへ、弁護士を通じて届けられた一冊の日記と500ポンドの遺産。日記を綴ったのは高校時代の親友で、ケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアン。託されていたのはかつて主人公の恋人であり、後に親友エイドリアンの恋人になった女性ベロニカの母だった。
前半は引退して平和な生活を送る主人公による学校時代の回想です。三人の仲間たち、特にあとから加わったエイドリアンの思い出、ベロニカとの出会いと交際と別れやいっしょに彼女の家で過ごした日のこと、エイドリアンの死、その後別の女性と出会ってからの色々あった人生……
始まってからしばらくは、それなりに幸せも不幸もあった過去を現在から振り返っているのですが、ある時点からトーンが一変します。どこまでも主人公の一人称による語りになっているのがポイントで、読者としては何ごとも彼の記憶と目を通じて見ることしかできないわけなんですけれども、老境にさしかかった現在に戻ってきたとき、主人公の見たものやおぼえているものがいかに当てにならないかをいっしょに体験することになるんですね。自分とはまったく違う境遇の人々のお話を読みながら、「わかっていない」主人公と同じくらい何もわかっていない読者の気持ちになっていました。

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)


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ブライアン・エヴンソン『ウインドアイ』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

全二十五篇入った猛烈に後味の悪い短篇集です。ほんとうにもうびっくりするくらい後味が悪くて救いがないので、読んでみてびっくりして下さい。
冒頭の表題作からして、子ども時代に突然いなくなった妹を回想する男のお話なんですけれども、いったい何があったのかは説明されないし説明のしようもありません。確かにいたはずの妹がいなくなった主人公の人生はそのまま進んでいって、読者は最後に放り出されるだけです。
SFのようだったり児童文学のようだったりおとぎ話のようだったりと語り口は多彩で、それでいてどれも居心地の悪い宙ぶらりんの結末へ持って行かれます。
主人公たちがどこで何をやっているのか判然としないがとにかく絶望的な「スレイデン・スーツ」、展開だけ見るとメルヒェンの定番みたいな「ダップルグリム」がわたくしは好きなのですが、気軽におすすめできるストーリーではないです。ただですね、最先端の英米文学を読んだ満足感はありました。

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)


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エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』(河出書房新社) [海外小説]

フロリダで開催されるヘミングウェイそっくりさんコンテストに参加し、まったく似ていないという理由で最下位になった「わたし」が聴衆に向けて行う講演、というスタイルの自伝的小説です。作者自身のパリでの文学修業時代が題材のようです。
といってもあまりにも予想外のエピソードにあふれていて、どこまでフィクションでどこまで本当なのかわからないんですよね。いきなり「家主のマルグリット・デュラス」なんて出てくるんですから。同じ名前の一般人でもなんでもなく、作家のマルグリット・デュラスです。
主人公は作家志望ですからもちろん作家についての話題にも事欠かず、ボルヘスに影響を受けるくだりやデュラスに箇条書きのアドバイスをもらうくだりなんてとても本当らしいんですけれども、なんとなく眉につばをつけたくなります。
事実かどうかにかかわらず、作家や映画監督や俳優の名前がぽんぽん飛び出す、20世紀パリの芸術家たちの世界が覗ける楽しさはあります。知っている名前が出てくるたびに吹き出すタイプの本ですし、それと同時に創作と向き合う青年の苦悩の日々の記録でもあります。みごとなタイトルは決して前向きな意味で使われてるわけではないんですよ。

パリに終わりはこない


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スティーヴン・ミルハウザー『木に登る王』(白水社) [海外小説]

表題作「木に登る王」と「復讐」「ドン・フアンの冒険」、三つの作品が入った中篇小説集です。それぞれのお話につながりはないのでどれから読んでも大丈夫なのですが、ちょっと似通ったシチュエーションが裏側にあったりもします。どこからでも読めるけど三つ全部読みたいところです。
亡き夫の思い出が残る家を売りに出す女性が客を相手に語り続ける「復讐」、放蕩に飽いたドン・フアンが英国の貴婦人に心ひかれる「ドン・フアンの冒険」、アーサー王伝説のトリスタンの物語に取材した「木に登る王」、いずれも読者が想像しやすいテーマを扱いながら思いがけない方向に向かいます。
トリスタンの話がどう思いがけなくなるかというと、ちゃんといつも通りの皆さんご存じの展開なんですけれども、最初から最後まで王に仕える忠臣の視点から描かれているんですね。登場人物たちの心理描写もすべて彼の目を通していて、結末まで知っているはずの物語が驚くほど新鮮でスリリングになっています。ほんとうにどうしてこのテーマはこんなに面白いんでしょうね。

木に登る王:三つの中篇小説


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ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』(国書刊行会) [海外小説]

大学を出ながらどんな仕事も長続きせず、南太平洋の島に流れ着いたヘリックは同じく食い詰めた元商船船長のデイヴィス、ロンドンの下町出身のヒュイッシュと知り合う。天然痘で欠員の出た帆船に雇われた彼らは、途中で船を奪って南米で積み荷を売りさばこうとたくらむが……
落ちぶれた三人の男が船を奪い、大逆転をはかるピカレスクみたような滑り出しが大洋を航海する冒険小説へと変わりますが、その後さらに別の展開に向かいます。冒険小説を期待しているとものすごい不意打ちを食らいますけれども、『ジキル博士とハイド氏』を思い出すと納得がゆきます。
どんなに困窮してもウェルギリウスの詩集を手放せない主人公の詩的な語りが、南洋の自然とそこに生きる人々の美しかったり美しくなかったりする姿を写しとって秀逸ですが、お話そのものはなかなか厳しいところに着地します。最晩年のスティーヴンスンが苦心惨憺して仕上げた小説で、読者としてもきついお話なんですが何にも代えがたい味わいがあります。

引き潮

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L・P・デイヴィス『虚構の男』(国書刊行会) [海外小説]

平和なイングランドの小村で、作家のアラン・フレイザーは五十年後の未来を舞台にしたSF小説の構想を練っている。気の置けない隣人と作品のアイデアを語り合い、のどかな朝の村へと散歩に出かけ……
この導入部からは予想もつかない展開が待っている、なんと言いますか説明に困る小説です。SFのようであり国際謀略サスペンスのようでありミステリのようであり冒険小説のようであり、ジャンルをめちゃめちゃに横断し越境してるんですよ。ただ全体としては文句なしのエンターテイメント小説で、叙述トリックで陥れるでもメタフィクションでぶち壊すでもない、ちゃんと最初から最後まで一本筋の通ったストーリーを追ってゆきます。そして特に注釈をつける必要もなくストレートに面白いです。
読んでいる最中に五回くらいは「は?」って顔をしましたね。思てたのと違うけどすごいことが起きてる、という場面を数回にわたって食らわされるとんでもない娯楽小説でした。かなり型破りで、でも間違いなく面白いです。ぜひどなたにもお読みいただき、ぽかーんとなっていただきたいです。

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

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エリック・マコーマック『ミステリウム』(国書刊行会) [海外小説]

小さな炭鉱町で、記念碑や墓地が無残に破壊され、殺人事件までが発生し、住人たちが謎の病で次々と命を落としてゆく。行政官の命令で首都から派遣された「私」は住人への聞き込みや文書での情報収集を重ね、町の過去にまでさかのぼる因縁を追いかけてゆくのだが……
あらすじはこんな感じでぱっと見たところではミステリです。小さな町の人間関係に波風を立てるよそ者、過去に起きたふたつの痛ましい事故に隠されていた関連性など、主人公の地道な調査で少しずつ浮かび上がる驚愕の真実にはらはらしますし、ちゃんと解決にもたどりつきますので安心して下さい。そこまでは。
ただしすっきり解決したからといってふつうのミステリかと問われると、まったくそんなことはないです。思わず口ごもってしまうひねった小説なのですが、わたくしはこういうの大好きですとしか申し上げられません。
ミステリじゃないつもりで読むといいのではないかとも思うのですが、あいにくミステリとして読んでも面白いんですよね。ただ、事件と謎解きだけに終始しない、登場人物たちの思惑や記憶が絡み合って醸し出される寂寥感がどことなく心地よい、さいごまで油断のならない小説であることは保証します。重ねて申し上げますとわたくしは大好きです。

ミステリウム


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ハビエル・マリアス『執着』(東京創元社) [海外小説]

マドリッドの出版社ではたらく編集者マリアは、一週間ほどの出張から帰ったある日、毎朝カフェで見かけた理想的な夫婦の姿が消えたことに気付く。同僚の口から、カップルの夫が逆上したホームレスに殺されたことを聞かされたマリアは、やがて未亡人となった妻ルイサと知り合いになり、夫婦の友人でもある男性に引かれてゆく。ルイサに思いを寄せる男性に望みのない恋をするマリアだが、ある日彼の恐るべき秘密を知ってしまい……
ストーリー自体はとてもシンプルで、通り魔殺人事件をめぐる主人公のさまざまな感情の動きと、周囲の人々とのやりとりを中心に、出版社勤務の独身女性の生活をつづっているだけなんですけれども、これがびっくりするほど面白いんですよ。本当です。
後半にゆくにつれ、主人公の心を占めるのは「理想のカップル」から夫婦の友人だった男性に変わり、彼との対話がどんどん分量を増してゆきます。彼の秘密を耳に入れたあとはサスペンスと見まごうような流れに向かうものの、主人公の心の中をじっくり語る形式は変わりません。『三銃士』や『シャベール大佐』を絡めつつ展開する思考が実に出版社勤務の人らしくて楽しかったのですが、脱線しながらじりじり進む文章や愛についての考察など、ちょっととっつきにくそうな文体でもあります。それをとても楽しくすいすい読み終えてしまったので、今この人ちょっととんでもねぇ作家なんじゃないかと思っています。

執着 (海外文学セレクション)

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