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エリック・マコーマック『ミステリウム』(国書刊行会) [海外小説]

小さな炭鉱町で、記念碑や墓地が無残に破壊され、殺人事件までが発生し、住人たちが謎の病で次々と命を落としてゆく。行政官の命令で首都から派遣された「私」は住人への聞き込みや文書での情報収集を重ね、町の過去にまでさかのぼる因縁を追いかけてゆくのだが……
あらすじはこんな感じでぱっと見たところではミステリです。小さな町の人間関係に波風を立てるよそ者、過去に起きたふたつの痛ましい事故に隠されていた関連性など、主人公の地道な調査で少しずつ浮かび上がる驚愕の真実にはらはらしますし、ちゃんと解決にもたどりつきますので安心して下さい。そこまでは。
ただしすっきり解決したからといってふつうのミステリかと問われると、まったくそんなことはないです。思わず口ごもってしまうひねった小説なのですが、わたくしはこういうの大好きですとしか申し上げられません。
ミステリじゃないつもりで読むといいのではないかとも思うのですが、あいにくミステリとして読んでも面白いんですよね。ただ、事件と謎解きだけに終始しない、登場人物たちの思惑や記憶が絡み合って醸し出される寂寥感がどことなく心地よい、さいごまで油断のならない小説であることは保証します。重ねて申し上げますとわたくしは大好きです。

ミステリウム


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ハビエル・マリアス『執着』(東京創元社) [海外小説]

マドリッドの出版社ではたらく編集者マリアは、一週間ほどの出張から帰ったある日、毎朝カフェで見かけた理想的な夫婦の姿が消えたことに気付く。同僚の口から、カップルの夫が逆上したホームレスに殺されたことを聞かされたマリアは、やがて未亡人となった妻ルイサと知り合いになり、夫婦の友人でもある男性に引かれてゆく。ルイサに思いを寄せる男性に望みのない恋をするマリアだが、ある日彼の恐るべき秘密を知ってしまい……
ストーリー自体はとてもシンプルで、通り魔殺人事件をめぐる主人公のさまざまな感情の動きと、周囲の人々とのやりとりを中心に、出版社勤務の独身女性の生活をつづっているだけなんですけれども、これがびっくりするほど面白いんですよ。本当です。
後半にゆくにつれ、主人公の心を占めるのは「理想のカップル」から夫婦の友人だった男性に変わり、彼との対話がどんどん分量を増してゆきます。彼の秘密を耳に入れたあとはサスペンスと見まごうような流れに向かうものの、主人公の心の中をじっくり語る形式は変わりません。『三銃士』や『シャベール大佐』を絡めつつ展開する思考が実に出版社勤務の人らしくて楽しかったのですが、脱線しながらじりじり進む文章や愛についての考察など、ちょっととっつきにくそうな文体でもあります。それをとても楽しくすいすい読み終えてしまったので、今この人ちょっととんでもねぇ作家なんじゃないかと思っています。

執着 (海外文学セレクション)

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中村融編『夜の夢見の川』(創元推理文庫) [海外小説]

サブタイトルが「12の奇妙な物語」。奇妙で曰く言いがたくて全体的に後味の悪い作品が多いアンソロジーです。前回の『街角の書店』は18編収録だったので、今回は少し長めの作品が多くなっています。
とにかく主人公がひどい目に遭うだけ遭って何も解決しないで終わるとか、いちおうまとまりはしたけどなんかすっきりしないお話が好きな方にはぜひ読んでいただきたいです。そんなもん読みたい人いるのかよと思われる方もいらっしゃるでしょうが、愛好者は確実に存在するんです本当です。わたくしもたまになら嫌いではありません。明らかに一部の人がアレルギーのように苦手とするに違いないシーンが複数含まれているですが気にせずおすすめします。
ファンタジーのようなものもSFのようなものも、特に超自然的な力ははたらかないふつうの小説みたいなものも入っていてとてもバランスがよいのですが、とにかく後味がなんとも言えず悪いのでそこが問題であり魅力です。要領を得なくて誠に申し訳ない。
フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」などは、比較的ダメージを受ける読者が少なそうなウェスタンものでよろしいかと思うんですけれども。わたくしは美しいタイトルにふさわしいシーンとそうでもないシーンが交互に出てくる表題作がたいへん好きです。

夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫)

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ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』(白水uブックス) [海外小説]

イングランドの片田舎に生まれたケイレブ・ウィリアムズは両親を失った後、人々の尊敬を集める地主フォークランド氏のもとで働き始める。人格者として慕われるフォークランドの過去に好奇心をかき立てられたケイレブはやがて主人のおそるべき秘密を知り、そのためにフォークランドから執拗に追われる身となる……
びっくりすることに大変面白い小説でした。ゴドウィンは急進的な思想家で、この本も流行小説の形を借りながら彼の思想を訴えることを目的にしています。なので登場人物の考え方がちょっとついてゆけないほど極端だったり、現代ではなく当時の社会でも浮いてたんじゃないかと感じられたり、どうも作者が言いたいのは「社会が悪い」らしく話をそこに持ってゆくために展開がくどくなったり、細かいところが力業なのですがそれでもなお面白いんです。
最初は主人の秘密をさぐる側だったケイレブが中盤から一転して主人に追われる側に回る流れ、逃亡の途中で出会う人々などサスペンスに満ちています。とにかくフォークランドが社会的地位も財産もある人物なので、どこへ行っても誰も主人公のいうことを信じてくれないんですね。ついに最後の手段に出てからのクライマックスは、たぶん今の人が読むとびっくりすると思うんですけれども、このあたりのギャップも含めて面白くなっています。フォークランドとケイレブの関係など、巻末の訳者解説に詳しいんですけれども、作者の意図と違う部分で楽しめるようになる力のある古典です。

ケイレブ・ウィリアムズ (白水Uブックス)

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サキ『平和の玩具』(白水社uブックス) [海外小説]

クローヴィス物語』『けだものと超けだもの』につづくサキ短篇集です。今回もちょっと不気味ですごくかわいいエドワード・ゴーリーの挿し絵つきです。
相変わらず毒々しいうえに時流を反映したネタがぼちぼち登場しています。困った親戚への対策を講じる話は応用すれば現代の日本でも参考に、いやなりませんかね。今回は初期作品など、ちょっといつもとは毛色の違った雰囲気のものも含まれていてバラエティに富んでいます。クローヴィス・サングレールもちょっとだけ顔を出したりしています。
巻末にはサキをめぐる書簡が翻訳されていて、没後数十年経ってからの親族と編集者のやりとりや本人から幼い姪に宛てた手紙を読むことができます。これらを見る限り、特に作風から連想されることのない楽しい親戚のおじちゃんであり国を愛する青年であったようです。作品が過激な人ほど実生活では常識のあるふつうの人だと思っているのでここは全面的に納得です。

平和の玩具 (白水Uブックス)

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パトリシア・ハイスミス『キャロル』(河出文庫) [海外小説]

デパートのおもちゃ売り場で働く舞台美術家志望のテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを買いに来た美しい女性キャロルに一目で心引かれる。衝動的に彼女へクリスマスカードを送ったことをきっかけに二人は親しくなるが、家庭に問題を抱えるキャロルとの交際は思わぬ方向へと……
パトリシア・ハイスミスといえば、人間のいやな部分を凝視した登場人物の誰も好きになれそうにないミステリや短篇のイメージが強かったですがこちらはなんとふつうの恋愛小説です。もともと心理描写は抜群にすばらしい人ですから、ミステリではないものを書いたっておもしろくないはずがないんですけれども、いやな気分だけでなく幸せな気持ちも全部描かれた恋愛小説は驚くほど素敵でした。脇役ではちゃんと不愉快な人物も出てきますし、主人公の揺れる気持ちもなかなかに身勝手で現実味があるので、これまでのハイスミス作品がお好きな方もどうぞご安心ください。
大変まっとうで美しい恋愛小説であることももちろん、1951年に発表されたことを思うと結末に拍手喝采したくなります。巻末に付された著者のあとがきや2010年版序文でさらに感慨が深まります。

キャロル (河出文庫)

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クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』(創元推理文庫) [海外小説]

当主の妻を失ったばかりのアバダール屋敷に、家庭教師として雇われたテティ。残された愛らしい双子の姉妹に魅了された彼女は、不幸な過去を忘れ新しい暮らしを始めるが、一族にまとわりつく怪異が姉妹を脅かし、やがてテティも……
ミステリで有名な作家ですがこれはあまりミステリではないと思います。とにかく大変おもしろい小説だったのでジャンルについては特にどれと決めなくてもいいんじゃないでしょうか。由緒あるお屋敷に暮らす一族と数百年前から彼らにつきまとう呪い、使用人や親族たちなど小さな世界ながら魅力的な要素が山ほどつまっています。怖い話というだけではなくかわいらしい女の子や当主の親戚のいやみなおばさまなど、笑えるポイントや心安まるポイントもちゃんと用意されています。
どこか不穏な日常が中盤のある出来事で大きく変わり、そこから二転三転を経て、屋敷と一族に隠された秘密が明らかになったそのあとまで目が離せませんでした。歯ぎしりしながら最後の一行まで世読み進めてください。

領主館の花嫁たち (創元推理文庫)


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ミュリエル・スパーク『あなたの自伝、お書きします』(河出書房新社) [海外小説]

作家志望のフラーは初めての小説に取り組むかたわら、名士たちが集う自伝協会なる団体で会員の自伝執筆を助ける仕事を得る。ところが彼女の身辺では執筆中の小説そっくりな出来事が起こり、登場人物と同じセリフを口にする人物が現れる。さらに小説を出版する話は立ち消えとなり、原稿は何ものかに盗まれて……
タイトルほど自伝は書いていません。それどころか主人公の原稿が行方不明になるあたりからミステリみたいな流れになりますがジャンルはどうでもよろしいです。主人公の周囲の人々だけでも最高に面白くて、続きが気になってしょうがないですから。ほんまもんの貴族とも俗物とも見える自伝協会の主催者を筆頭に(彼の90歳になる母親は嫌いになるのが難しい強烈な人物です)や親切な顔をしながら裏で主人公に不利益をもたらす知人友人、あやしげな経歴ぞろいの自伝協会会員たちなど……主人公自身も、おとなしく被害者になっているわけではないなかなかタフな性格の持ち主で実に頼もしいです。
作品全体が後に小説家として成功する主人公の回想の形をとっているんですけれども、今の彼女は小説を発表するあてもないし仕事探しに汲々とする大変な状況です。にもかかわらず(作中の言葉にあるとおり)二十世紀に女性であり芸術家であることの喜びにあふれた楽しい回想録です。

あなたの自伝、お書きします

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レイ・ブラッドベリ『万華鏡』(創元SF文庫) [海外小説]

全100編収録の傑作集が二冊出ているくらい多作なブラッドベリの自選による、今度こそ間違いのなさそうな傑作集です。全26編収録、有名な作品もあるんですけれどもSFでもファンタジーでもない純文学ぽい短篇がいくつか入っているのがポイントだと思います。
作者本人によるセレクトですから、傑作集としてもはじめてブラッドベリに触れる人の入り口としても最適なバランスです。ホラーもSFもファンタジーも、ミステリのような雰囲気のものもサスペンスも児童文学と呼びたいものもあります。長篇『たんぽぽのお酒』からは独立して読める四つの章が採られて、なるほどこれが彼が自分で選んだ場合のリストなのかという感じです。
わたくしは多分三分の一くらいはいろんなところで読んでいるのですが、まとめて配列されたものを順番に読んでゆくのはまた別の楽しみがあります。出世作『火星年代記』から選ばれた短篇がいくつかばらばらに配置されていまして、全体のさいごにそこから「やさしく雨ぞ降りしきる」を持ってきているのがセンス抜群ですね。

万華鏡 (ブラッドベリ自選傑作集) (創元SF文庫)

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『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(白水社) [海外小説]

わたくしは今までウォーは長篇ばかり読んでいて、そもそも短篇の存在を知らないくらいの素人だったんですけれども、短篇もやっぱり間違いなく面白いですね。
訳者あとがきの引用にもあるとおり、どうしたって笑ってしまうんですけれども間違いなく悲劇的な作品ばかりです。逆にいえばひどい話だけど笑えるんですよ文句なしに。
家庭環境や教師時代など、作者自身の体験から生まれたエピソードが相当盛り込まれているのですが、さっきも書いたとおり笑えるけど悲劇的な小説ばかりなんですよね。それでもやっぱり笑えるんですよ、主人公がそんないい人じゃないのも含めて。
全15編の傑作の中には当時の社会を皮肉った面も少なからずありますけれども、そのあたりはあとがきでわかりますので気にせず笑ったりなんとも言えない顔になったりして下さい。わたくしはラストまで引っ張って引っ張って引っ張りまくる「ラヴデイ氏のちょっとした遠出」、短くきりっと終わって主人公が比較的無事に済む「気の合う同乗者」が特に好きです。

イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)


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