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レイ・ブラッドベリ『万華鏡』(創元SF文庫) [海外小説]

全100編収録の傑作集が二冊出ているくらい多作なブラッドベリの自選による、今度こそ間違いのなさそうな傑作集です。全26編収録、有名な作品もあるんですけれどもSFでもファンタジーでもない純文学ぽい短篇がいくつか入っているのがポイントだと思います。
作者本人によるセレクトですから、傑作集としてもはじめてブラッドベリに触れる人の入り口としても最適なバランスです。ホラーもSFもファンタジーも、ミステリのような雰囲気のものもサスペンスも児童文学と呼びたいものもあります。長篇『たんぽぽのお酒』からは独立して読める四つの章が採られて、なるほどこれが彼が自分で選んだ場合のリストなのかという感じです。
わたくしは多分三分の一くらいはいろんなところで読んでいるのですが、まとめて配列されたものを順番に読んでゆくのはまた別の楽しみがあります。出世作『火星年代記』から選ばれた短篇がいくつかばらばらに配置されていまして、全体のさいごにそこから「やさしく雨ぞ降りしきる」を持ってきているのがセンス抜群ですね。

万華鏡 (ブラッドベリ自選傑作集) (創元SF文庫)

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呉座勇一『応仁の乱』(中公新書) [学術書]

どういう事情なのかちかごろ応仁の乱の新書が人気というのでこの機会に勉強しようとわたくしも手に取りました。そんな調子なので乱の知識は義務教育くらいのものです。
本書は最近の研究成果を踏まえ、応仁の乱と同時代に生きた興福寺僧の日記を史料として活用しているのがポイントです。主に京都市街を中心とした戦乱ですが、興福寺のある大和国の動乱を皮切りに、応仁の乱前夜からの畿内の情勢を追ってゆく手順がわかりやすかったです。わかりやすいものですから、読み進めるほどに「なんで延々とこんなことを」という気持ちがひたすら高まります。
どのくらい延々と続いた気分を満喫できるかというと、だいたい五分の三くらいで大乱終結と題した章に入るも全然落ち着く気配が見えないなどです。将軍家と管領と大和国の事情それぞれに関係者の思惑がかみ合わず長引く戦乱で、いやでも影響を受けることになる興福寺の人々のいらだちも伝わってきて、記録を残さなかった市井の人々もそらいやになったろうなぁと思いますね。
室町幕府を衰退させ、戦国時代への扉を開いたとされる応仁の乱ですが、市街戦での戦法の変化や文化面での影響について触れられていたのがわたくしには新鮮でした。今でもたまに足を運ぶ興福寺への見方が少し変わりそうな本です。

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)


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獅子文六『七時間半』(ちくま文庫) [国内小説]

東京-大阪間を七時間半で往復する特急「ちどり」を舞台に描かれる、乗務員たちと乗客たちそれぞれの思惑が交差する人間模様。
食堂車で働くウェイトレスと、彼女にプロポーズの返答を迫られるコック助手の青年、三人の男から好意を寄せられる客室乗務員の美女の出番が多めですが、走行中の列車内で起きるハプニングは恋愛がらみだけとは限りません。食堂車に居座る迷惑な酔っぱらい、熱海で乗り込んでくる謎の美女、三号車の首相とその警備員たちなど、いるだけで不穏になる乗客たちに加え、後半では時限爆弾の噂まで飛び交うスリリングな展開が待っています。
それはそれとして、長距離特急は何ごともなく無事に運行されているだけでもなかなか緊張感があると思うわけです。
東京を出発して横浜、熱海、浜名湖、名古屋、関ヶ原、米原、京都そして大阪とだいたい今の東海道新幹線と同じルートをたどりながら、食堂車や社内サービスの裏側が乗務員目線で語られるのがこの作品のもうひとつの楽しいところです。こっちだけでもいつまででも見ていたくなる面白さなのですが、七時間半が終われば特急ちどりは嫌でも大阪駅に到着、今回の東京-大阪間の物語は幕を閉じる、そういう思い切りのよい小説でもありました。

七時間半 (ちくま文庫)


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高原英理編『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(ちくま文庫) [幻想文学]

かわいくて素敵な文章を集めたアンソロジーです。高原さんはこういうものも扱われてる方ですが今回は文句なしにかわいくてキュートで尊いのでご安心ください。
かわいいにもいろいろあるとお思いでしょうが、もう間違いなくかわいい小動物や犬や猫、幼子に加えて、使われていることばそれ自体がかわいい作品や味わい深いかわいさのある年配の人々、不思議ないきものまで集められています。形式も小説のほか短歌や俳句や詩、ひとつだけ挿絵つきの絵本も入っています。
甘いばかりではなくてたまにほろ苦かったりぴりっとしたりもするものの、とにかくかわいいことにおいては文句のつけようがありません。割とほかのところで目にしている作家さんの名前もありまして、どなたも以前からのイメージとはがらりと変わる思いがけないかわいさなのも新鮮でした。わたくしは町田康「私の秋、ポチの秋」、小川未明「月夜と眼鏡」でもうぶっ倒れるんじゃないかと思いましたね。何なんですかねこのかわいいテキストは。
一歩引いて頭を冷やして考えてみると、人に「かわいい」という感情を引き起こすものが何なのかを分析するための資料としても優れています。それはそれとしてかわいいです。かわいい。

ファイン/キュート 素敵かわいい作品選 (ちくま文庫)

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佐藤和歌子『間取りの手帖remix』(ちくま文庫) [実用書]

日本のどこかに存在する間取り図を集め、ひとことコメントを添えて紹介する本です。たまに間取りから生まれたショートストーリーやコラム、巻末では間取りをめぐる対談四編も楽しめてお得です。
間取り、つまり賃貸雑誌や物件情報に山ほど載っているあれを、ひたすら集めて鑑賞するだけなんですけれどもめちゃくちゃ面白いんですよ。かなり無茶な間取り、楽しそうな間取り、じっさいに住めるかとなるとちょっと考えてしまう間取りなど盛りだくさんです。家賃もいっしょに書いてあるのでついつい引っ越しを考えたくなりますが、ちょっと落ち着きましょう。
子どもの頃、チラシに載っている間取り情報を引っ越しの予定もないのに眺めているのが好きだったことを思い出しました。間取り好きの皆さん(こんな本が文庫化までされるくらいですから一定数存在するはずです)は必見です。ひょっとすると我が家の間取りを見直し、気付かなかったけど案外どうかしてるんじゃないかという発見をするきっかけになるかもしれません。

間取りの手帖remix (ちくま文庫)


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『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(白水社) [海外小説]

わたくしは今までウォーは長篇ばかり読んでいて、そもそも短篇の存在を知らないくらいの素人だったんですけれども、短篇もやっぱり間違いなく面白いですね。
訳者あとがきの引用にもあるとおり、どうしたって笑ってしまうんですけれども間違いなく悲劇的な作品ばかりです。逆にいえばひどい話だけど笑えるんですよ文句なしに。
家庭環境や教師時代など、作者自身の体験から生まれたエピソードが相当盛り込まれているのですが、さっきも書いたとおり笑えるけど悲劇的な小説ばかりなんですよね。それでもやっぱり笑えるんですよ、主人公がそんないい人じゃないのも含めて。
全15編の傑作の中には当時の社会を皮肉った面も少なからずありますけれども、そのあたりはあとがきでわかりますので気にせず笑ったりなんとも言えない顔になったりして下さい。わたくしはラストまで引っ張って引っ張って引っ張りまくる「ラヴデイ氏のちょっとした遠出」、短くきりっと終わって主人公が比較的無事に済む「気の合う同乗者」が特に好きです。

イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)


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本堂平四郎『怪談と名刀』(双葉文庫) [幻想文学]

名刀にまつわる怪談、と言いますか主に化け物退治のエピソードを集めた連作です。羅生門の鬼とかそのくらいメジャーなやつは敢えて省いて、民間収蔵の刀を取り上げているのが新鮮です。
まずは刀にまつわる奇談を語り、それからそれぞれの章末で刀や刀工の来歴についても説明してくれる構成になっています。著者はじっさいに刀を手にすることもあった人なので、この解説の部分が実に楽しそうです。明治生まれの人でもありますけれども、文章はたまに会話が擬古文になるくらいでとても読みやすいです。
出てくる怪異はだいたい猛獣であったり化け猫であったりたまに怨念だったりして、どれも化け物はきっちり退治する昔話のような世界です。刀の来歴はしっかりした歴史に基づいているようなのに当たり前のように不思議な話がセットでついてくるんですよ。もっとも長い「藤馬物語」は幕末が舞台で、著者自身が面識のある人物が主人公なのですが、時代の流れに翻弄されるばかりかと思いきや終盤でいきなり化け物退治になります。
刀剣をテーマに絞っただけでこれだけ怪談が出てくるとは想像していなかったので大変興味深く読みました。刀はそうでもなくても妖怪に興味ある人にも楽しめそうです。

怪談と名刀 (双葉文庫)

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シャーリィ・ジャクスン『鳥の巣』(国書刊行会) [海外小説]

博物館で働く平凡な女性エリザベスは原因不明の頭痛や、何ものかが自分に宛てて書いた手紙に悩まされていた。医師の診断を受けて明らかになったのは、彼女の中にひそむ別の人格の存在で……
1954年に発表された多重人格ものサスペンスです。ちょうどこのころに多重人格もののブームがあり、その中でも先駆けとなったのが本書だそうです。すでに何度か多重人格ブームを経た現在でも十分に新鮮で、かつ強烈にいやな感じです。
登場する人格は最初から登場する主人公を含めて全部で四人。決して多くはありませんし、その他の登場人物も主人公と同居する叔母さんと医師が二人くらいです。しかもほとんどのシーンでは一対一のやりとりで、どこをとっても落ち着かない緊迫感にあふれています。
重苦しくはあるものの、主人公の人格が次々に入れ替わり、振り回される医師が対応に悪戦苦闘するシーンなどは笑いを誘われます。なかなか意地悪で笑える作家でもあるんですよね。一方で一番怖かったのは、健康的な人であるはずの叔母さんとの対話です。
最終章において、主人公の複数の人格は無事ひとつに統合されているのですが、その後どうなったかは読者の想像にゆだねられている感じです。全然すっきりはしてませんね。

鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)


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