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イアン・マキューアン『甘美なる作戦』(新潮社クレスト・ブックス) [海外小説]

小説好きの大学生セリーナは恋仲になった教授との縁で諜報機関の面接を受けて採用されるが、待っていたのは安い給料と下級事務職員の地味な仕事ばかり。やがて本好きの経歴を評価された彼女は反共的作家の支援任務を与えられ、新進作家ヘイリーに接近するうち彼と恋に落ちて……
恋愛小説とスパイ小説の合わせ技のようなあらすじなんですけれどもそうとも言い切れない、色んな読み方のできる小説です。そうは言ってもMI5と恋愛と小説家だとどうやってもそんな流れにしかならないのでは、せいぜいミステリやサスペンスの道に進むくらいではないかとお思いですか。大丈夫です。
裏表紙の松田青子さんやフィナンシャル・タイムズ紙のレビューでさえほんの一面を見ただけでしかない、読む人によって感想が変わるおばけ煙突みたいな本です。わたくし自身は、これは小説を書くことについての小説だと思ったのですけれどもどうでしょう。70年代英国の冷戦下の政治とカルチャーを描き出した歴史小説でもありますし、作中に登場する作家の小説がいくつも登場する枠物語でもあります(この中にマキューアン自身の作品も紛れているというお話です)。エンターテイメント小説のスタイルとして楽しく読めるストーリーがある一方で急に文学談義がはじまったり、かと思うとシリアスな国際情勢の話が出てきたりで驚かされてばかりですが、主人公と作家の恋が予想通りの結末に至ったあとの一撃にわたくしは一番驚かされました。

甘美なる作戦 (新潮クレスト・ブックス)

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