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小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』(角川書店) [SF]

全人類が記憶障害に陥り、外部記憶装置を利用して長期記憶を保存するようになった世界。個人の記憶がメモリとして保管可能な時代に、複数の人生を記憶している語り手「わたし」とは何者なのか?
第一部ではすべての人類が原因不明の記憶障害に見舞われ、それにともなって起こりうるカタストロフをすんでの所で回避する人々の奮闘が描かれます。分量としては全体の四分の一くらいですがスリルと緊迫感とイライラにあふれ(何せ記憶が続かないのでしょっちゅう同じやりとりを繰り返しているのです)、ここだけでも短篇小説として楽しめます。そのあとの短い幕間で外部記憶装置の発展と文明の再構築に至る経緯が語られ、それからようやく冒頭のあらすじに繋がります。
個人の記憶が保存された外部メディアというアイデア自体は、SFの世界ではだいぶ前からいくつもあると思うですが、USBメモリやウェアラブル端末が身近になった現在では説得力が格段に増しています。イタコや審神者など、日本の伝承をうまいこと織り込んであるのも面白いですね。
「わたし」が思い出す無数の記憶は、それ自体がSFのみならずミステリ、恋愛、人情噺などさまざまにジャンル分けできそうな短篇小説にもなっています。技術によって記憶が管理される世界がべつだん無味乾燥でもなく、かえって感情的な問題が次々に生まれつつあるのが読みどころです。

失われた過去と未来の犯罪


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