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吉村昭『高熱隧道』(新潮文庫) [国内小説]

昭和11年8月に着工され、昭和15年11月に完成した黒部第三発電所建設工事を題材にした小説です。工事過程は実際の資料にもとづきながらフィクションをまじえ、登場人物については作者の創作によるフィクションになっています。どのくらい脚色されているかは少し検索すれば出てきますけれども、思っていたより創作ではない部分の大きかったことに震える思いがしました。
トンネルが無事開通するシーンにちっともカタルシスがなくて、それゆえに大変な名作だと感じました。両側から掘り進めた坑道の食いちがいが横に1.7cmしかなかったことを褒め称えるよりも先に、岩盤温度摂氏160度超という数次に殴り倒されて言葉が出てきません。数字と言えば、全編にやんわりとのしかかるのは昭和11年という時代も過酷な工事をおしすすめた原動力のひとつであり、感動的な読み方を許しません。
何よりすばらしいのは、人間側がついつい「これほどまでに人間の挑戦を拒む自然に何らかの大いなる意思の存在を感じずにはいられない」などと言いたくなるんですけれども、おそらく自然さんサイドはまったく気にせずご自分の都合で雪崩を起こしたり地熱を急上昇させたりしていらっしゃると思われるところですね。擬人化すら受け付けないものを相手にいくら一生懸命やっても、もう戦いなんて呼べるものじゃないんですよ。
テーマを見ると「少女架刑」などの繊細な作風とは一線を画する吉村さんの別のお顔のようですが、
事故の犠牲者と向きあう技師を見ている人を描写する目線や、重苦しいトーンで結ばれたあとのさいごの段落を読むと、人間の体の外側で起きる現象をひたすら見つめるところは同じ人の小説だと思いました。

高熱隧道 (新潮文庫)

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