So-net無料ブログ作成
検索選択

久生十蘭『内地へよろしく』(河出文庫) [国内小説]

海軍報道班員として南方に向かった松久三十郎は、羅針盤も六分儀もない機船に同乗し、容赦ない爆撃にさらされる小さな分遣隊に合流する。間もなく内地へと戻り、慰問の手紙をきっかけに知った女性の縁組に首を突っ込み、銃後で繰り広げられる人生の悲喜こもごもを知り、やがてふたたび南方へ…
京都のどこかの庭のせせらぎを楽しむ夢を見ていたら船長の小便の音だった、そんな船旅から始まる戦地の暮らしですよ。海の底を歩いて敵陣まで行って帰ってくる船乗りやら、兵隊が卵から抱いて孵した鶏やら、命がけでやっってる一方でどうやっても笑ってしまうような人たちがどんんどん登場します。天災のように降り注ぐ爆弾とラブコメが同列に語られるあたり、いっさいの思想を拒む面白さがありますね。
悲惨で楽しくて馬鹿馬鹿しい、これも戦争の一つの顔です。こんないい人たちがみんな死んでしまうのかと思って悲しくなるのも、非常事態を経験するうちにダメ男が真っ当で前途有望な青年に成長するのも。

1944年7~12月にかけての雑誌連載で、現実の戦況として明らかに日本が不利になりつつあった時期に書かれているわけです。そういう話も作中に登場しますが、時局がどうなっていようともこの小説の世界の人々は純粋に笑っていますし、場合によってはほろりとなりますし、何をやってるんだと突っ込みたくなります。
戦後に発表された「風流旅情記」にて、あっさりと前線を離脱した報道班の主人公とは趣が異なります。実際に報道班員として従軍経験を持つ、当時の日本人の見た南方小説です。

内地へよろしく (河出文庫)

nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0