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中村融編『夜の夢見の川』(創元推理文庫) [海外小説]

サブタイトルが「12の奇妙な物語」。奇妙で曰く言いがたくて全体的に後味の悪い作品が多いアンソロジーです。前回の『街角の書店』は18編収録だったので、今回は少し長めの作品が多くなっています。
とにかく主人公がひどい目に遭うだけ遭って何も解決しないで終わるとか、いちおうまとまりはしたけどなんかすっきりしないお話が好きな方にはぜひ読んでいただきたいです。そんなもん読みたい人いるのかよと思われる方もいらっしゃるでしょうが、愛好者は確実に存在するんです本当です。わたくしもたまになら嫌いではありません。明らかに一部の人がアレルギーのように苦手とするに違いないシーンが複数含まれているですが気にせずおすすめします。
ファンタジーのようなものもSFのようなものも、特に超自然的な力ははたらかないふつうの小説みたいなものも入っていてとてもバランスがよいのですが、とにかく後味がなんとも言えず悪いのでそこが問題であり魅力です。要領を得なくて誠に申し訳ない。
フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」などは、比較的ダメージを受ける読者が少なそうなウェスタンものでよろしいかと思うんですけれども。わたくしは美しいタイトルにふさわしいシーンとそうでもないシーンが交互に出てくる表題作がたいへん好きです。

夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫)

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ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』(白水uブックス) [海外小説]

イングランドの片田舎に生まれたケイレブ・ウィリアムズは両親を失った後、人々の尊敬を集める地主フォークランド氏のもとで働き始める。人格者として慕われるフォークランドの過去に好奇心をかき立てられたケイレブはやがて主人のおそるべき秘密を知り、そのためにフォークランドから執拗に追われる身となる……
びっくりすることに大変面白い小説でした。ゴドウィンは急進的な思想家で、この本も流行小説の形を借りながら彼の思想を訴えることを目的にしています。なので登場人物の考え方がちょっとついてゆけないほど極端だったり、現代ではなく当時の社会でも浮いてたんじゃないかと感じられたり、どうも作者が言いたいのは「社会が悪い」らしく話をそこに持ってゆくために展開がくどくなったり、細かいところが力業なのですがそれでもなお面白いんです。
最初は主人の秘密をさぐる側だったケイレブが中盤から一転して主人に追われる側に回る流れ、逃亡の途中で出会う人々などサスペンスに満ちています。とにかくフォークランドが社会的地位も財産もある人物なので、どこへ行っても誰も主人公のいうことを信じてくれないんですね。ついに最後の手段に出てからのクライマックスは、たぶん今の人が読むとびっくりすると思うんですけれども、このあたりのギャップも含めて面白くなっています。フォークランドとケイレブの関係など、巻末の訳者解説に詳しいんですけれども、作者の意図と違う部分で楽しめるようになる力のある古典です。

ケイレブ・ウィリアムズ (白水Uブックス)

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G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(東京創元社) [SF]

中東の専制国家で生きるハッカーの青年アリフ(ハンドルネーム)は、ある日を境に政府保安局の検閲官に追われる身となる。同じころ、突然別れを告げた恋人から託された奇妙な古写本の謎を解くべく、追っ手を逃れたアリフは異界へと足を踏み入れることに…
ほんまもんの現代アラブを舞台にしたSFファンタジイでございました。こういうブログをご覧になっている方ならよくご存じのインターネット事情と併行して登場する幻の書物が『千一日物語』ですよ。(どうも実在するそうなのですが一部フィクションが入っています)アラブものと言えばおなじみ何人いるかわからない王族も、アラビアンナイトと言えばおなじみ円柱の都も出てきます。ランプの魔神もいます。
このままサスペンスもしくはサイバーパンク系統のSFとして突っ走るのかと思っていると普通に幽精(ジン)なんかが出てきて、そのまま向こうの世界へ行ってしまったりもするんですよ。現実の中東のどこかにあるこちらの世界も、壁を隔てた向こうの世界も混沌としていることはあまり変わらず、さらに主人公の行動がきっかけにして大きな変化が生まれる終盤の展開は壮絶です。「アラブの春」のころ、2012年に出た本ということも今なら頭のどこかに置いたうえで読みたい本です。

無限の書 (創元海外SF叢書)


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サキ『平和の玩具』(白水社uブックス) [海外小説]

クローヴィス物語』『けだものと超けだもの』につづくサキ短篇集です。今回もちょっと不気味ですごくかわいいエドワード・ゴーリーの挿し絵つきです。
相変わらず毒々しいうえに時流を反映したネタがぼちぼち登場しています。困った親戚への対策を講じる話は応用すれば現代の日本でも参考に、いやなりませんかね。今回は初期作品など、ちょっといつもとは毛色の違った雰囲気のものも含まれていてバラエティに富んでいます。クローヴィス・サングレールもちょっとだけ顔を出したりしています。
巻末にはサキをめぐる書簡が翻訳されていて、没後数十年経ってからの親族と編集者のやりとりや本人から幼い姪に宛てた手紙を読むことができます。これらを見る限り、特に作風から連想されることのない楽しい親戚のおじちゃんであり国を愛する青年であったようです。作品が過激な人ほど実生活では常識のあるふつうの人だと思っているのでここは全面的に納得です。

平和の玩具 (白水Uブックス)

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没後40年 幻の画家 不染 鉄(~11/5) [美術鑑賞]

不染鉄(ふせん・てつ)という画家さんです。東京に生まれて日本画を学び、伊豆大島で漁師になったり帝展に入選したり絵の学校を首席で卒業したり、不思議な経歴のある不思議な日本画を描く人で、現在奈良県立美術館で回顧展をやっているんです。
わたくしはお名前もまったく聞いたこともない人だったのですが、たまたま目にした富士山がこれまで見たこともないような姿をしていたので気になって気になってつい行ってきてしまいました。
材質や題材はこれ以上ないくらい日本画ですし、水墨画や南画っぽい作品もたくさんあって、確かに日本画の伝統にのっとった画家さんだと思うんですけれども、薬師寺の東塔や富士山や自転車をああいう風に描いている人はちょっと記憶にありません。ガラスケースに横たわる堂々たる絵巻物かと思いきや、細かな字で書き込みがしてある手紙だったときにはちょっと度肝を抜かれました。1976年になくなった方ですから十分に現代画家と呼べるはずですが、あまりにカジュアルでマイペースで身近な雰囲気の人です。
それなのに風景画はまるでこの世のものではないようで、特にわたくしは薬師寺を題材にした一連の作品の前でしばらくぼうっとしていました。色んな人に知っていただきたい、そして作品にびっくりしたい名前が読めなくて戸惑ったりしていただきたい画家さんでした。
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パトリシア・ハイスミス『キャロル』(河出文庫) [海外小説]

デパートのおもちゃ売り場で働く舞台美術家志望のテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを買いに来た美しい女性キャロルに一目で心引かれる。衝動的に彼女へクリスマスカードを送ったことをきっかけに二人は親しくなるが、家庭に問題を抱えるキャロルとの交際は思わぬ方向へと……
パトリシア・ハイスミスといえば、人間のいやな部分を凝視した登場人物の誰も好きになれそうにないミステリや短篇のイメージが強かったですがこちらはなんとふつうの恋愛小説です。もともと心理描写は抜群にすばらしい人ですから、ミステリではないものを書いたっておもしろくないはずがないんですけれども、いやな気分だけでなく幸せな気持ちも全部描かれた恋愛小説は驚くほど素敵でした。脇役ではちゃんと不愉快な人物も出てきますし、主人公の揺れる気持ちもなかなかに身勝手で現実味があるので、これまでのハイスミス作品がお好きな方もどうぞご安心ください。
大変まっとうで美しい恋愛小説であることももちろん、1951年に発表されたことを思うと結末に拍手喝采したくなります。巻末に付された著者のあとがきや2010年版序文でさらに感慨が深まります。

キャロル (河出文庫)

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『失敗の本質』(中公文庫) [学術書]

六人共著なので著者名は省かせていただきます。範囲の広すぎるタイトルですけれども副題が「日本軍の組織論的研究」で、第二次世界大戦で日本軍が失敗した局面を六つの場面から科学的に分析するとても意欲的な本です。テーマがしっかり設定されていて驚くほど読みやすかったので、このジャンルに詳しくない人にもおすすめできます。ほんとうに面白かったんですよ。組織論の立場からの分析という目的とアプローチの方向が最初にちゃんと書いてあるので、後知恵は卑怯とか、数百人の死が些細な損害と呼ばれる世界とか、戻ってきたら降りる場所がなくなってるかもしれないのに飛び立つ米軍の兵士の皆さんとかそういう情緒的なことは一切廃して読めるのが特によろしいです。そういう本じゃないんですよ。
現代においてビジネスやスポーツの世界で戦っている人にはぜったいに収穫のある本だと思います。もちろん自分が失敗する側であると肝に銘じた上で読んだ場合のお話ですけれども、すでに結果の出ているでかい失敗から学ぶのは間違いなく役に立ちますよね。
それからもう一度言いますけれども、読み物として面白かったです。表紙が難しそうとかこの時代に詳しくないとか、現都知事が推薦してるとかそういうこととは関係なくわたくしもおすすめします。日本的風土、あるいは人間的風土が犯しがちな失敗だけでなく二十世紀戦史の入り口にもなります。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)


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クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』(創元推理文庫) [海外小説]

当主の妻を失ったばかりのアバダール屋敷に、家庭教師として雇われたテティ。残された愛らしい双子の姉妹に魅了された彼女は、不幸な過去を忘れ新しい暮らしを始めるが、一族にまとわりつく怪異が姉妹を脅かし、やがてテティも……
ミステリで有名な作家ですがこれはあまりミステリではないと思います。とにかく大変おもしろい小説だったのでジャンルについては特にどれと決めなくてもいいんじゃないでしょうか。由緒あるお屋敷に暮らす一族と数百年前から彼らにつきまとう呪い、使用人や親族たちなど小さな世界ながら魅力的な要素が山ほどつまっています。怖い話というだけではなくかわいらしい女の子や当主の親戚のいやみなおばさまなど、笑えるポイントや心安まるポイントもちゃんと用意されています。
どこか不穏な日常が中盤のある出来事で大きく変わり、そこから二転三転を経て、屋敷と一族に隠された秘密が明らかになったそのあとまで目が離せませんでした。歯ぎしりしながら最後の一行まで世読み進めてください。

領主館の花嫁たち (創元推理文庫)


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久生十蘭『魔都』(創元推理文庫) [ミステリ]

大晦日の東京の夜、夕陽新聞記者の古市加十は日比谷公園の鶴の噴水が唄うという奇妙な噂を耳にする。それをきっかけに知り合った来日中の安南国皇帝は行方をくらまし、さらに彼が持ち込んだとされる宝石をめぐる駆け引きが浮上して……
昭和九年の大晦日から一月二日未明、わずか三日間の東京を駆け抜ける長篇ミステリです。とはいえ明確に指名される犯人を追及するというより、探偵役をつとめる警視庁の眞名古明警視が対決するのはタイトルにもなっている「魔都」東京そのものという趣です。登場早々『レ・ミゼラブル』のジャヴェルそっくりと言われるこの警視と、冒頭で出てきたいかにもぱっとしない記者古市氏の名コンビでみごと事件を解決、という展開には最初に申し上げておきますがならないです。
安南国皇帝の愛人墜死事件、ダイヤモンド行方不明事件、噴水の鶴の歌事件と山積みの問題を前に、辞職願を懐に必死の捜査を続ける眞名古も特ダネを狙う加十も警察もやくざもその他の関係者たちも、みんなして無秩序に大きくなってゆく事件に引きずり回されていただけでは、と読み終えて振り返ると思います。1936年発表の、現実のきなくささをも匂わせる帝都の狂騒に読者もまた巻き込まれ、戻ってこられなくなりそうな都市小説でした。

魔都 (創元推理文庫)


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福永武彦『風のかたみ』(河出文庫) [国内小説]

信濃から都へ上った大伴の次郎信親は、かつて中納言に愛された叔母の忘れ形見の姫君に思いを寄せる。都を騒がす正体不明の盗賊不動丸もまた姫君を付け狙うが、姫君はただ一度だけ出会った貴公子を忘れられず……
「今昔物語」のなかのいくつかのエピソードを題材にした王朝ロマンです。上記のような男女の恋が絡まり合い、さらに幾人かの登場人物たちの思惑が交錯したストーリーで一気に読み終えました。おもしろくて読みやすくてしかも文章が格調高い、どこにも隙がありません。あまり読まないジャンルなので時間がかかるかと思っていたらまったくそんなことはなく、先が気になってページをめくっていたらもう読了していました。
導入部分から登場する陰陽道の修行を積んだ法師、次郎と関わりを持つ笛師とその娘、都の治安を守る検非違使の尉など、王朝ものの雰囲気を盛り上げるキャラクターも魅力的です。姫君との恋を諦めようとする貴族の青年が、あまり悪いふうに描かれていないのがよろしいですね。幸せな話ではないのですが、オープニングと呼応するようなものさびしいラストシーンまで、平安時代終わりかけごろの空気をまとった小説でした。

風のかたみ (河出文庫)


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