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キャサリン・ダン『異形の愛』(河出書房新社) [海外小説]

いろんな人に触れてほしいのですが紹介のしかたに困る本です。簡単にまとめるとサーカス一家の波瀾万丈の物語なんですけれども、このファミリーの子どもたちがゼイン員、両親の愛で肉体をデザインされて生まれてきたんですよね。
奇想天外ではあるもののファンタジーではない、それどころか非常に現実的で常識にのっとった展開ではありました。現代アメリカのサーカス団においての常識とは何なのか、という問題はさておき。
設定からして大変ですし、ストーリーもぶっちぎれていて一般的な観念では善し悪しの判定を下せません。読む人によっては数ページで投げ出しかねない小説だと思います。間違いありません。
このブログではだいたい他の人に読んでいただきたい本を紹介しているのですが、本書についてはぜひ読んで楽しんで下さいというより、できる限り多くの人に大事故を起こしていただきたい気持ちでこの文章を書いています。事故ったら事故ったで、そこから新しい世界がひらけるかもしれませんしね。

異形の愛


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深緑野分『戦場のコックたち』(東京創元社) [ミステリ]

料理を愛する祖母の影響で、従軍後はコック兵として働き始めたティム。1944年のノルマンディー降下作戦を初陣に、ティムと戦友たちはヨーロッパ各地の戦場でさまざまな謎と出会うことに……
このタイトルを見てもあましミステリとは思えないんじゃないかという感じなんですけれども、読んでみると間違いなくミステリです。ミステリの皮をかぶった青春小説でもあり、戦争小説でもあります。
おもしろいのは戦場を舞台にしながら、取り扱うのは重要人物の暗殺とかスパイが絡む謀略とか新兵器をめぐる暗闘などではなく、いわゆる日常の謎なんですよ。なぜか使用済みパラシュートを大量に集める兵士の話ですとか、戦場でしか発生しそうにない謎です。そちらのほうはティムと仲間たちの推理で意外な真相が明らかになってすっきり解決しますけれども、戦場なのでミステリの解決とは関わりなく犠牲者は出ます。
全五章にプロローグとエピローグ、1944年6月6日がはじまりですから、第二次世界大戦全体ではそれほど長い期間のお話ではありません。最終章にたどり着くまでに、なんだかものすごく長い時間を主人公たちと一緒に過ごしたような気持ちになっていました。

戦場のコックたち


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エトガル・ケレット『突然ノックの音が』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

あっという間に終わってしまう短篇が38も入っています。そんなに厚い本でもないのに38個入りで、場合によっては見開き二ページで終了です。
裏表紙やかばー見返しの紹介文を読むと軽くてさっぱりしたものがメインのようですが、実はなかなか後味の悪い料理も少なからず含まれています。だまされて下さい。
ときどき出てくるほっこりするいい話も、容赦なく落ち込んで結ばれる話も、だいたい数ページ程度で幕を下ろしてそれっきりになります。こちらがすっきりしてようが納得してなかろうがお構いなしです。
連続して読もうものなら読者は次から次へと放り出されるはめになるわけで、その理不尽さがやけに現実的な気がしてきます。暑い国(テルアビブ)在住の作家の、たぶん実体験ではないであろう奇妙なできごとが、いつの間にか「わかる」とうなずいてしまうお話に変わっています。

突然ノックの音が (新潮クレスト・ブックス)


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ジュリー・ベリー『聖エセルドレダ女学院の殺人』(創元推理文庫) [ミステリ]

十代の少女七人が在籍する寄宿学校で、ディナーを楽しんでいた校長とその弟が毒殺された。家に帰りたくない少女たちは死体を隠蔽し、押し寄せる来客をごまかしながらなんとか学校生活を続けようと奔走するが……
1890年のイングランド、個性的すぎるがゆえに実家から花嫁学校にぶちこまれた少女たちが活躍するお話です。児童文学の賞を取っていますし、人が死ぬのは死ぬとしてコミカルでスリリングで楽しめます。特に女の子(性別問わず)の皆さんにはおすすめです。
校長先生の知り合いや家政婦さんや巡査をあの手この手で追い返しつつ、間違いなくどこかにいるはずの(ひょっとすると少女たちの中の誰かかもしれない)殺人犯を捜す忙しさに加えて、外に出かける必要ができたり荷物を受け取ったりもするのでまぁ大騒ぎです。終盤までは家に帰りたくない女の子たちのどたばたが中心と見せかけて、真相が明らかになり始めるとこれまでの小さなネタがどんどんつながってゆくのは最高にミステリ的です。
19世紀の終わりという設定が効いていて、女の子ばかりの寄宿生活楽しそう!とも言えない時代背景を演出しているのがすばらしいところです。こればっかりは最初から最後まで読まないとわかりません。

聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)

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イアン・マキューアン『ソーラー』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

ノーベル賞受賞科学者のマイケル・ビアードは、五人目の妻の浮気に悩まされつつみずからも新しい愛人を物色し、新たな研究に手をつけるでもなく名誉職や講演で生計を立てる日々。たまたま手に入れた他人のアイデアを拝借し、太陽光発電の新しいアイデアで大もうけをたくらんで……
妻の愛人は許せないが強く抗議もできず、一方で自分は常に新しい女性を求め、楽をして金を儲けることには余念がない、しかもノーベル賞受賞者。大変しょうもなくて読んでいて呆れるばかりの主人公がビアードなのですが、彼を追いかけ回して時に持ち上げ時に叩くマスコミ、彼と関わる妻の愛人たちや太陽光発電事業の関係者、大衆の環境問題への関心など、現代のさまざまなしょうもなさが読めば読むほど同時に浮かび上がってくるしくみになっています。
主人公があまりにろくでもないやつで、それなりにひどい目にも遭うので読者は腹を立てたり苦笑したり指を指して笑ったりして楽しめるのですが、そうそう他人事みたいに楽しんでいられない小説でもあるのがポイントです。この本を笑って楽しめる人は、わたくしも含めてこの本の中で笑いものにされているものと近いところにいるんですよ。おそらく。

ソーラー (新潮クレスト・ブックス)


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サックス・ローマー『魔女王の血脈』(アトリエサード) [幻想文学]

美青年アントニー・フェラーラの現れる場所には、必ず謎の死がつきまとう。父とともに彼の正体を追う医学生ケルンは、やがて古代エジプトから続く恐るべき秘密を知ることに……
主にロンドンを舞台に、古代エジプトの魔術と戦う怪奇冒険小説です。1918年の作品なのでだいぶ古めかしくて、具体的にいうと東洋(エジプト含む)から来るものはみんな怖いと思っている時代のお話なんですけれども、ホラー小説としてちゃんと面白いです。どう見ても悪役であるフェラーラのほうが魅力的なところ、現代的です。
近代的なロンドンの夜を跳梁する魔物との戦いあり、エジプトまで赴いて敵のルーツを探る章ありと展開もメリハリがきいています。主人公の若き医学生は割と向こう見ずで考えるより先に行動しがちなのですが、彼の父であり魔術にも詳しいケルン医師が加わると反撃への糸口が見え始めます(それでもだいぶん苦戦するし主人公もひどい目に遭うので安心して下さい)。
著者は実在する魔術結社にも参加していた人なのですが、「はじめに」と題した文章でことわっているのが『この物語はフィクションです』とはひと味違う注釈なのもちょっといいですね。

魔女王の血脈 (ナイトランド叢書2-7)


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チャールズ・ボズウェル『彼女たちはみな、若くして死んだ』(創元推理文庫) [ミステリ]

19世紀後半~20世紀前半のアメリカとイギリスで起きた、女性が犠牲となった犯罪のみをとりあげたノンフィクションです。
全10編、冒頭にいかにも低俗な要約がついているですが騙されてはいけません、中身は扇情的な要素をいっさい排した冷静でていねいなノンフィクションです。なんといっても実話ですから、捜査の主役となるのは警察の地道な捜査。たまに有名な警視や探偵が出てくることはあっても、メインはどこまでも足を使った調査の積み重ねです。本書に影響を受けた作家が、後に警察小説の名作を生み出したというのも納得です。
読み心地はすぐれた警察小説集のような印象で、実話でありながらまるで小説のようとしか言いようがないドラマチックな展開を見せることもあります。実話であるがゆえの、小説ではちょっと考えられない驚きの結末も混じっていたりします。ひとつひとつは短いのでどれからでもすぐに読み始められる、警察小説に通じる犯罪実話ものの名作としておすすめです。

彼女たちはみな、若くして死んだ (創元推理文庫)


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ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会) [幻想文学]

ポーランドの恐怖小説作家グラビンスキの、なんと三冊目の邦訳です。表題と同じ短篇集の収録作品にエッセイやインタビューを加えた日本オリジナル編集ということです。
短篇集『火の書』は、タイトルのとおり炎をテーマにした作品が八つ翻訳されています。前半は動的でダイナミックな炎が出現する作品群が多く、後半はがらりと傾向が変わってじわじわ怖い雰囲気の作品になってゆきます。
消防士や煙突掃除夫など、炎と戦う人々の姿はアクション映画さながらの面白さがあるのですが、一転して静かな狂気に向かう作品もまた印象的です。かと思うと童話みたいなふしぎで美しいお話もあり、共通したテーマを持ちながらバラエティに富んでいて飽きませんでした。直接的に火が出て炎上する話だと「火事場」、物理的に燃えるまでの長さがおそろしかったのは「ゲブルたち」ですねわたくしは。
後半には創作にまつわるエッセイと、雑誌に掲載されたグラビンスキへのインタビュー三本が収録されています。1930年代前後のポーランド文壇の事情を垣間見ることができる本ってめったにありませんよね。

火の書


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ジェフリー・フォード『ガラスのなかの少女』(ハヤカワ文庫) [ミステリ]

金持ち相手に荒稼ぎするいんちき霊媒師のシェルは、ある日の降霊会でその場にいるはずのない少女の姿を目撃する。やがて思わぬ場所から彼女の正体を知ったシェルは、仲間たちとともにその行方を追いはじめるが……
語り手は(自称)霊媒師シェルを父のように慕う助手の少年ディエゴ。1932年のアメリカを舞台にしたサスペンス小説であると同時に、ほろにがい青春小説の味わいもあります。メキシコからの不法移民であるディエゴをはじめとする、社会からはみだした人々の活躍も見どころですが、虐げられたものたちの苦難と悲哀ばかりには終わらず、たくましさやユーモアまでも織り込んだストーリーが展開します。第二次世界大戦前のアメリカという時代背景がノスタルジーだけにとどまらない、別の側面を見せ始める中盤からの謎解きがみごとです。さいごにもう一度プロローグを読み返したくなるタイプの小説ですね。

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


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ジャック・ヴァンス『スペース・オペラ』(国書刊行会) [SF]

未知の惑星からやってきた第九歌劇団は、地球の人々の前でみごとなパフォーマンスを披露した後に忽然と姿を消した。彼らを探し出すべく、オペラを愛する資産家のデイム・イサベル・グレイスは世界中から選りすぐったメンバーで歌劇団を結成し、宇宙各地の惑星で地球のオペラを上演するツアーに出発する……
ということで、宇宙でオペラをやる小説です。いわゆるSFの一ジャンルとしてのスペース・オペラでは全然ないのでどうかご安心下さい(もしくはがっかりして下さい)。
地球人とはまったく異なる生態や文化を持つ人々にオペラが理解されるのかという問題ももちろんのこと、大所帯の歌劇団にはさまざまな騒動が持ち上がります。デイム・イサベルとその甥のロジャー・ウール、腹に一物ありげな水先案内人の船長に謎の美女らを中心に、行く先々の星でも宇宙船の中でもどたばたが繰り広げられます。
彼らの訪れる惑星の幻想的な風景、見たこともない奇妙な住人たちの描写も魅力的ですし、なぜか予定外の星への訪問を執拗に求める人物とその目的が明らかになる章など寄り道もあり、SFを読んでいる気持ちにさせてくれるのですが、それはそれとして地球の歌劇団の皆さんはしっちゃかめっちゃかです。
タイトルの中篇のほかに、またそれぞれにがらりと雰囲気が変わった四つの短篇が収録されています。頭を切り替えながらひとつひとつ味わいたいところです。

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

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