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アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(ちくま文庫) [海外小説]

二十世紀初頭のパリで人気を博したグラン・ギニョル座の劇作家による短くてストレートな恐怖小説集です。全22作入り、すべてきっちりバッドエンドです。
当時のパリの生活や人々が恐れていたものがたびたび登場するので、たとえば外科手術に対する偏見はちょっとひどいのではないかとか、そういう部分も含めて興味深い短篇集です。超自然的な存在ではなく、あくまで犯罪や人間の異常心理から生まれる恐怖を取り扱っているのも特徴です。
どのページをめくっても低俗で強烈な三面記事の世界ですが、思いがけずサイコホラーの源流のような味わいやミステリと呼べそうな展開を見せる作品もあり、なかなか変化に富んでいます。もともとはお芝居の方面にいらした人なためか、短い作品でも登場人物がいきいきと動き回り、目の前にいるかのように残酷な目に遭うシーンがたくさんつまっています。一気読みすると胸焼け間違いなしの、ですけれども時々無性に食べたくなるお菓子のような本です。

ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)


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E・ヘミングウェイ、W・S・モームほか『病(やまい)短編小説集』(平凡社ライブラリー) [海外小説]

タイトルに「病」と入っていますから一目瞭然です。結核、梅毒、神経衰弱、ハンセン病など、さまざまな病をテーマにした英米文学のアンソロジーです。文学的な視点から取り上げたものばかりなので医学的には必ずしも正確ではなく、病気の描写がグロテスクすぎて怖くなるようなことはそんなにないと思います。表紙はおどろおどろしいですけどね。
同じ「病(やまい)」という主題によりながら出来上がった作品はさまざまで、しんみりと感傷的なものもあればゴシックホラーに近いものもあり、夜に一人で読んだらトイレには行けないわ眠れないわの大惨事を引き起こしそうなものもあります。19~20世紀の短編が幅広く拾われていますが、現在ではすでに否定されている知識がちらほら出てくるのを、迷信と笑い飛ばすのではなく当時の価値観や空気を読み取る手がかりにできるのは小説の世界ならではの特権です。
ていねいな解説がついていて、それぞれの作品にまつわる背景や最近の研究成果についても軽く触れることができます。梅毒が父親からの遺伝と考えられていた時代ですとか、癌の手術に麻酔が用いられていなかったころの話ですとか、ほんの200年ばかり前の世界が身近になったり遠くなったりする心地です。

病(やまい)短編小説集 (平凡社ライブラリー)


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R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫) [ミステリ]

エジプト学者ベリンガムが謎の失踪を遂げて二年。生死不明のままとなっている彼の遺産相続問題が持ち上がった頃、各地でばらばらになった人間の遺骨が発見される。ベリンガムの遺書をめぐる争いを知った医師バークリーは、法医学者ソーンダイク博士にこの奇妙な事件についての相談を持ちかける……
1911年の古典ともいえる時代の名作ミステリの完訳です。密室状態からの失踪と生死不明の人物、彼の生死如何によって大きく意味が変わる遺言書の存在など、どうにもならなさそうな謎を並べたうえできっちり論理的に片付けるさまは地味ながら手堅く味わい深いです。意外すぎる結末や不可能犯罪などの派手な演出がなく退屈という意見もあるようですが、要所要所で出てくるエジプト学トークは読者を煙に巻くいいアクセントになっています。
謎解き以外の味つけがまったく何にもないということはないんですよ。主人公とある女性のあいだに生まれる恋愛要素もありまして、たぶん作者が好きで入れたものだと思うですがほんとうに緊張感に欠けると言いますか、時代を感じるなぁというわかったふうな顔で読むしかありません。そこはすっ飛ばしまして、本格ミステリとしては十分おもしろいですよ。

オシリスの眼 (ちくま文庫)

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ジョン・ディクスン・カー『テニスコートの殺人』(創元推理文庫) [ミステリ]

雨上がりのテニスコートの真ん中で発見された絞殺死体。残された足跡は被害者のものと、被害者の婚約者ブレンダが死体まで往復したものだけだった。彼女の無実を信じる事務弁護士ヒューは、彼女への容疑を逸らしつつ真相を探り始めるが……
足跡が片道しかない絞殺死体という、これはもう誰がどう見ても実行不可能な犯罪ですよ。犯人捜しはもちろんのこと、どうやって実行したのかも追求される歯ごたえのある探偵小説なのですが、全体的なイメージはラブコメディです。殺された男がすごく嫌なやつだわ、婚約者の女性と主人公の青年がうまくいきそうになったりいかなくなりそうになったりするわ、ヒロインには過保護な後見人が付いてたりするわでそりゃもうラブコメです。探偵役として中盤から顔を出すギディオン・フェル博士が奮闘を始める前から、すでに十分コメディ要素が山盛りです。
カーといえばおどろおどろしいオカルト仕立ての舞台設定や人間業では考えられない不可能犯罪のイメージが強いですが、毎回のように作品を彩る男女の恋愛をめぐるどたばたも忘れてはいけません。ついでにもうひとつ外してはいけないと個人的に信じているのが「科学的だけど実現には無理がありそうなトリック」で、本作の足跡なき殺人の真相もまぁ、他のケースには応用できないし無茶だと思いますよ正直なところ。それも含めて、カーの喜劇的で楽しいミステリの中でも代表作と呼んで差し支えないのではないかと思います。

テニスコートの殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

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L・P・デイビス『忌まわしき絆』(論創社) [幻想文学]

小学校で起きた不可解な死亡事故。担当教師だったわたしは、同じクラスの少年の奇妙なふるまいに不審を感じて独自の調査を開始する。やがて少年と同じ特徴を持つ子どもたちの存在と、彼らの誕生にまつわるおそるべき秘密が明らかになり……
ミステリっぽい導入部からどんどん超自然的なホラーになってゆくサスペンス小説です。SF要素もありますし、1964年に出た頃はジャンル分けが難しかったというのもうなずけます。ざっくりとまとまると、つまり「こわくてハラハラする話」ですね。
SFでもありホラーでもありミステリでもありますが、率直に申し上げまして真相はものすごい力業だと思います(大好きです)。そこだけ切り取るとB級ホラーなのですが、ここに至るまでにあった過去の事件が明らかになるにつれ、別の要素が入り込んでくるところが面白かったです。ネタバレになってしまうので詳しくは話せませんが、ホラー小説好きの人にピンと来るし、それ以外の人はびっくりできるひとひねりある展開でした。

忌まわしき絆 (論創海外ミステリ)


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ヴィリ・ザイデル『世界最古のもの』(沖積社) [幻想文学]

ドイツの小さな町に住む青年ハラルドは森の散策中、地中に埋まった奇妙な金属塊を発見する。それ以来奇妙な幻影を見るようになった彼のもとをある日、地質学者を名乗る中国人が訪れて……
ヨーロッパを舞台にしたなんとものどかな滑り出しながら、帯にてラヴクラフトとの類似点を指摘されている理由は読むうちにどんどんわかってきます。主人公が地中に見つけた物体の正体をめぐる展開は思いがけずSF的でもあり先が読めません。
全体を通して眺めてみると、ホフマンやエーヴェルスなどのドイツ怪奇小説の系譜につらなる作品であるなぁという印象になります。ただし本作品で語られる恐怖とそれがもたらす結果は、20世紀になって初めて意識されたものと感じました。訳者後記によるとまず1923年に発表され、1930年にごく短い「終章」だけが追加されたそうです。アルフレート・クビーンによる挿絵が、また不気味な味わいを醸し出していてよろしいです。

世界最古のもの


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ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』(白水社) [海外小説]

南北アメリカ諸国やキューバなど、アメリカ諸国におけるナチ文学の作家たち30人を純文学、娯楽小説、詩、SFなどさまざまなジャンルから幅広く取り上げたの評伝です。まるで短篇小説のような数奇な運命をたどった人物もいれば、わずか1ページで記述が終わってしまう人物もいます。アメリカ大陸の歴史をひとつの方向から照らし出す小説のようでもあり、ナチ文学という特異な分野に明るくない人にも読み物として楽しめます。そういう文学は、現時点でそもそも存在しないのですが。
架空歴史小説、あるいは架空の本の書評集というジャンルがありますが(あるんですよ。本当です)、本書はその中でも特に現実の歴史とのリンクが強くにじみ出た作品です。『ナチ文学』という刺激的な表題に対して、ナチズムの具体的でショッキングな描写が特に目立つわけではないのですが、登場する作家たちの言動にどことなくおぞましさを感じることはたびたびあります。
その一方で彼らの芸術活動には圧倒されるものがあり、いえまぁ読みたいかと言われたら必ずしも好みではなさそうなのですが、確かに価値はあったのだろうと思いました。巻末の「書籍」一覧に呆然としましょう。

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)


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ハニヤ・ヤナギハラ『森の人々』(光文社) [海外小説]

南太平洋に浮かぶイヴ・イヴ島を訪れた科学者ペリーナは、森の奥深くに暮らす部族と出会い、彼らの風習から生まれた驚くべき存在と遭遇する。この発見で功績を挙げノーベル医学賞を受賞したペリーナだが、やがてそれは島と彼自身の人生に大きな代償をもたらすことに……
南の島、見たこともない奇妙な動植物、理解できない儀式、伝説に登場する亀、不死の人々など、SFのような冒険小説のようなキイワードが躍ります。ですけれどもまぁ、この夢みたいな島で楽しい日々を過ごす時間はそう長くはなく、まもなく全ては容易に想像できる崩壊の中に落ち込んでゆくんですよ。
大変面白くて先が気になる小説ですが、ひとつ書いておかないといけないのは主人公のペリーナと、彼の自伝(これが本書のメインパートです)を編集し必要に応じて注釈を行っている友人の男性があんまり好ましくない人物なんですよね。語り手がふたり揃って信用ならないことを念頭に置いた上で読む科学的大発見の物語、というスタイルでの小説です。
訳者あとがきによると、主人公の生涯についてはある実在の科学者の経歴がなぞられているそうです。科学者や研究者のありようについて、フィクションの枠に留まらず外側まで考える足がかりになるすぐれた小説でした。編者による序文とエピローグ、注釈がついた自伝に本文から削除された補遺と年表まで付した伝記らしい構成で、さいごまで全部読まないと読者としての判断は下せません。

森の人々

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ピエール・アレシンスキー展(~4/9) [美術鑑賞]

国立国際美術館ピエール・アレシンスキー展に行ってきました。1927年生まれですから今年で90歳になる方ですけれども二年前の作品が出てるんですよ。ベルギーの横尾忠則みたような人ですね。
1950年代に日本の前衛書道に触れ、来日して映画も撮っているんですけれども、床に紙を置いて描かれた作品群は書道っぽいところもありますしベルギーの伝統的な芸術の血を引いていることも感じさせます。初期の作品は明らかにアンソールをリスペクトしていますし、前衛美術といっても何となく具象絵画の味わいが残されていて、何があるのかまったくわからないという画家さんではありません。画面が大きくて色合いもはなやかで、意味はわからなくても絵本のように眺めて楽しめます。
とにかく色んなものを試していらっしゃって、マンホールの拓本とか古い郵便物や地図がキャンバスとして用いられることもあります。最近の作品では直径一メートルを超えてそうな丸いキャンバスに描かれたものもあって、全然知らない画家さんだったのにとても楽しく拝見しました。
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クラーナハ 五百年後の誘惑(~4/16) [美術鑑賞]

国立国際美術館の「クラーナハ 五百年後の誘惑」に行ってきました。
何が驚いたかって、びっくりするくらいできるビジネスマンだったことですよ。宗教改革の出発点となったヴィッテンベルクの宮廷画家であり、ルターと個人的な付き合いもあって肖像画を多数描いているルカス・クラーナハ(父)ですが、それはそれとしてローマ教会サイドのための絵もたくさん残しているんですよね。大きな工房を構えて仕事をしていた人気画家ですから当たり前なんですけれども、ルター派のイメージが強くなっていたものでちょっと衝撃を受けました。
「ホロフェルネスの首を持つユディト」「ヴィーナス」など、よく見かける作品がいくつも来ているので気になっていた人には絶対に見逃せない展覧会です。すぐれた実業家でもあったわけですから、当時の画家の主な仕事である肖像画のお仕事についても見ることが出来るのがいいですね。あまり大きくない作品のほうが、精緻な描き込みぶりが堪能できてよろしいのではないかと思います。
あとは裸体像のへその描き方が現代日本における一般例と違うことが気になりました。昔のヨーロッパといっても医学的な事情はあまり関係なさそうなので土地柄かモデルさんの都合ですかね。
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