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ニッポンの写実 そっくりの魔力(~1/14) [美術鑑賞]

奈良県立美術館の「ニッポンの写実 そっくりの魔力」を見てきました。「本物そっくり」な表現に注目し、人物から静物までさまざまな絵画や彫刻、映像作品まで近現代の日本美術を集めています。
異様にリアルな油彩の人物画はもちろん、日本画の画材で描かれた静物画もあり、一点一点に見入ってしまいました。写真よりリアルな質感に見える表現というものが実在することを自分の目で確認してきました。これで回りに額縁や窓枠でも描けば、西洋のトロンプ・ルイユ(だまし絵)の系譜に乗っけても違和感なさそうです。
昆虫やエビの自在置物のほか、彫刻作品もとんでもなかったです。牙彫によるタケノコとか、木彫で本物そっくりの石を作る人たちとか、どんな顔をすればいいんですか。
時代がくだってコンピューターグラフィックスを導入した作品も興味深かったですね。とりこんだ写真をもとにして画面上で描画された作品は「光で描かれた絵」なんですよ。絵の具やキャンバスとは違うまた新しい画材の登場に、そっくりかどうかを離れてもわくわくします。
さいごの映像作品のコーナーでは、「目を騙す」「とにかくそっくりに作る」だけにとどまらない「ほんものそっくりだけどほんものじゃない」ことの可能性を目の当たりにしてぞくぞくしました(特撮のミニチュアに親しんでいる人には特に興味深いと思います)が、これは実物をご覧になっていただかないとわたくしの文章では伝えきれません。来年1月前半までやっていますので、初詣のついでにでもぜひ足をお運び下さい。
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A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(アトリエサード) [幻想文学]

ニューヨークで次々に発生する原因不明の変死。年齢も職業も異なる人々を襲う死の謎を探る医師ローウェルは、部下を失った裏社会の顔役とも協力し、彼らと関わったある人物の存在を知るのだが……
1932年の雑誌に載った作品なので、医学関連の情報が明らかに古そうだったりするいろいろ昔風なお話なのですが、そのほかの描写や展開はびっくりするほどモダンホラーでふつうに楽しめます。昔の話とはいえ、医師である主人公が奇怪な現象を徹底して疑うタイプで、やや迷信深い協力者と好対照をなしています。
語り手でもあるこの主人公がとにかく現実的で、タイトルにある魔女なんか絶対信じないぞと意気込むものの(もちろん相手はほんものの魔女なので)自分を実験台にするはめになったり被害を広げたりもする等身大のキャラクターになっています。思慮深いんだか無鉄砲なんだかわかりませんが、おかげで読者は不気味な事件の一番こわいところ全てに立ち会えます。

魔女を焼き殺せ! (ナイトランド叢書2-6)


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ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス』(国書刊行会) [幻想文学]

イギリスの小説家ヴァーノン・リー(筆名は男性ですが女性作家です)の幻想小説集です。日本では幻想小説のアンソロジーでときどき目にする名前で、本書にはそうした既訳の短篇もいくつか収録されています。
幻想小説といってもさまざまで、収録された十四の作品も、すべて不思議なできごとを語っているものの読後感はさまざまです。こわい話もありますしロマンティックな話もありますし、笑える話やちょっといい話もあります(すごく泣ける感動秘話はないんじゃないかなと思います)。
帯に「伝説的な幻の女性作家」と書かれるくらいの知る人ぞ知る作家だと思っていたので、立派な一冊の本にまとまって日本語の作品集が出たのは、わたくし個人としては大変な驚きでしたし他にもびっくりした人はたくさんいると思います。すでに名前を知っている人はもちろん、知らない方にもぜひ一つ一つ読んでいただきたい作家さんなんですよ。
キリスト教以前のヨーロッパの神々やなくなって久しい人物など、ふいに現れて人々を翻弄する過去の美しさが印象的ですが、懐古趣味だけにとどまらず、ところどころで思いがけないユーモアがにじみ出るのも素敵です。聖人伝風味のものや、タイトルどおりのお話としかいいようがない「神々と騎士タンホイザー」などは全体の中ではちょっと異色に見えるけれどヴァーノン・リーらしくて面白いです。

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

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L・P・デイヴィス『虚構の男』(国書刊行会) [海外小説]

平和なイングランドの小村で、作家のアラン・フレイザーは五十年後の未来を舞台にしたSF小説の構想を練っている。気の置けない隣人と作品のアイデアを語り合い、のどかな朝の村へと散歩に出かけ……
この導入部からは予想もつかない展開が待っている、なんと言いますか説明に困る小説です。SFのようであり国際謀略サスペンスのようでありミステリのようであり冒険小説のようであり、ジャンルをめちゃめちゃに横断し越境してるんですよ。ただ全体としては文句なしのエンターテイメント小説で、叙述トリックで陥れるでもメタフィクションでぶち壊すでもない、ちゃんと最初から最後まで一本筋の通ったストーリーを追ってゆきます。そして特に注釈をつける必要もなくストレートに面白いです。
読んでいる最中に五回くらいは「は?」って顔をしましたね。思てたのと違うけどすごいことが起きてる、という場面を数回にわたって食らわされるとんでもない娯楽小説でした。かなり型破りで、でも間違いなく面白いです。ぜひどなたにもお読みいただき、ぽかーんとなっていただきたいです。

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)

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今日泊亜蘭『光の塔』(ちくま文庫) [SF]

火星から地球へ帰る宇宙船の中から目撃された正体不明の閃光。同じころ地球では、すべての電気が一時的に機能を停止する謎の現象が頻発していた。奇怪な事件を前兆として、やがて事態は「光」を操る侵略者による人類への一方的な攻撃へと発展し……
最初に出たのが1962年ですからもう半世紀も前の小説です。それを差し引いてもあまりにも世界観が悪い意味で古めかしくて、読むのが疲れるのですが、これが間違いなく面白いんですよ。どこから来たのかも何が目的かもわからない対話不能の侵略者をはじめとして、ちょくちょくミステリ的な謎が提示されるのもストーリーを引っ張ってゆくポイントです。
未来社会とは思えないアナクロな設定が意図的なものであろうと思われますけれどもそれでもなお古い、という話は先ほどもしましたが、それでも終盤にて明かされる侵略者の正体についてはやはり大したものだとうならされました。主人公の身辺にかかわる伏線もちゃんと回収されます。
ただ登場人物の設定は本当に口にするのがはばかられるノリですよ。特に女性キャラの魅力のなさといったら、解説で野田昌宏に苦言を呈されるレベルです。これは明記しておかないと法に触れます。

光の塔 (ちくま文庫)

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ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

ネット上にドラッグのレシピが出回り、使用者の人格まで書き換える化学物質が出回る近未来の北米。精神疾患専門の治療施設に入院中の神経科学者ライダは、自分が十年前に仲間たちと開発し、世に出すことなく封印した化学物質が流通していることを知る。統合失調症の特効薬となるはずだったその薬物には、服用者に「神」の幻覚を見せるという副作用が……
まず主人公からして、自分にしか見えない天使(昔ながらの女医スタイル)の幻覚と会話しているですが、彼女の協力者をはじめとした主な登場人物がだいたいそんな感じなので心配しないで下さい。プリンタで出力された薬物がやりとりされている世界なんですよ。ちょっと想像しがたく思える設定ですが、天才科学者だった妻への追憶にさいなまれる主人公や薬物摂取で人格が一変する殺し屋、裏社会の大物おばあちゃんなど個性的なキャラクターたちにどんどん引き込まれていきました。
薬物によって自我があっさりと塗り替えられてしまう時代を背景にした脳科学SFであると同時に、十年前の事件の亡霊を追うミステリでもあり、カナダとアメリカを股にかけて展開する冒険小説のようでもあります。主人公とパートナーのやりとりの中でさらりと語られる脳科学豆知識など、すみずみまで少し先の未来らしさにあふれて読みごたえはたっぷりです。

迷宮の天使〈上〉 (創元SF文庫) 迷宮の天使〈下〉 (創元SF文庫)

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福岡道雄 つくらない彫刻家(~12/24) [美術鑑賞]

国立国際美術館の「福岡道雄 つくらない彫刻家」を見てきました。福岡さんは1936年生まれの彫刻家で、2005年に「つくらない彫刻家」となる宣言をしたそうです(でも今回2012年の作品が出ています)。「つくらない」けれども彫刻家をやめたわけではなく現役の彫刻家で、でも「つくらない」人のこれまでの仕事を一望できる展覧会です。
ひとつひとつの作品はちゃんとタイトルがついていてわかりやすく、これは何をあらわしたいのか何をいいたいのかで悩むことはほとんどありませんでした。だってそのままですからね。じゃあどうしてこんなものを作ったのかという話になると、そこは福岡さんの経歴とか日本の美術史を引っ張り出して参照することにいなるですが、特に気にせず作品と向き合ってゆくだけでも十分にとんでもない体験ができました。中之島の地下に突如として出現した反芸術のテーマパークですよこれは。
わかりやすさに加えて空間を大きく使った展示もおもしろく、難解そうに見えて実はたいへん間口の広い展覧会であるように思います。
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ヘレン・マクロイ『死の舞踏』(論創社) [ミステリ]

冬の早朝、マンハッタンに積もる雪の下から発見された若い女性の死体。真冬の雪の夜にもかかわらず、被害者の体は熱射病での死亡時のように熱かった。やがて捜査陣の前に、被害者とうり二つの女性が現れて……
精神分析医ベイジル・ウィリング博士初登場作品であり、マクロイのデビュー作でもある長篇です。冒頭のあらすじをちょっと紹介しただけで、もう著者の作品に頻出するテーマが出てきているんだからたいしたものです。
被害者の意外な身元が判明すると同時に、警察に駆け込んできた女性をめぐるたくらみが明らかになり、さらにダイエット食品やら軍需産業やら社交界デビューする娘たちやら、いろんな要素が絡まってお話が広がっていきます。ちゃんとまとまるのか、事件の謎解きとは別の意味ではらはらしながらページをめくってゆくとちゃんとまとまります。このあたりも、今までマクロイの作品を読んでいると納得できるデビュー作ならではのおもしろさがありました。ウィリング博士の精神分析による推理がちょっとストレートすぎるのも、若々しさを感じさせます。

死の舞踏 (論創海外ミステリ)


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エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫) [ミステリ]

第二次世界大戦のさなか、ドイツ占領下のフランスでイギリス軍のスパイとして捕虜になった女性。彼女は尋問の中断とひきかえに情報を求められ、親友である女性飛行士の物語を小説形式の手記として書き留めてゆく……
ぱっと見たところは女性ふたりによる戦時下の青春小説なんですけれども、冒頭から語り手が信頼できないのが大切なポイントです。最初っから、捕虜である主人公が読ませることを前提に書いている手記ですからね。
主人公は戦争中の思い出や親友の出会いと並行して、自分を尋問するドイツ軍人や捕虜としての生活など、現在の生活についても貴重な紙を消費してどんどん執筆してゆきます。おとなしく情報を渡して無事に解放されそうな性格とはとてもいえない彼女なりの戦いは、後半にさしかかって思いがけない展開を見せ、作品それ自体も戦争小説からミステリのような別の顔を見せてくれます。戦争小説でもあり青春小説でもあり殺人事件の起きないミステリでもあり、カーネギー賞の最終候補に残っているので児童文学でもあるぶあつい小説です。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)


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エリック・マコーマック『ミステリウム』(国書刊行会) [海外小説]

小さな炭鉱町で、記念碑や墓地が無残に破壊され、殺人事件までが発生し、住人たちが謎の病で次々と命を落としてゆく。行政官の命令で首都から派遣された「私」は住人への聞き込みや文書での情報収集を重ね、町の過去にまでさかのぼる因縁を追いかけてゆくのだが……
あらすじはこんな感じでぱっと見たところではミステリです。小さな町の人間関係に波風を立てるよそ者、過去に起きたふたつの痛ましい事故に隠されていた関連性など、主人公の地道な調査で少しずつ浮かび上がる驚愕の真実にはらはらしますし、ちゃんと解決にもたどりつきますので安心して下さい。そこまでは。
ただしすっきり解決したからといってふつうのミステリかと問われると、まったくそんなことはないです。思わず口ごもってしまうひねった小説なのですが、わたくしはこういうの大好きですとしか申し上げられません。
ミステリじゃないつもりで読むといいのではないかとも思うのですが、あいにくミステリとして読んでも面白いんですよね。ただ、事件と謎解きだけに終始しない、登場人物たちの思惑や記憶が絡み合って醸し出される寂寥感がどことなく心地よい、さいごまで油断のならない小説であることは保証します。重ねて申し上げますとわたくしは大好きです。

ミステリウム


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