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佐伯祐三とパリ(~7/16) [美術鑑賞]
心斎橋のビルにある大阪市立近代美術館(仮称)で、「佐伯祐三とパリ ポスターのある街角」展を見てきました。思いっきりオフィス街の普通のビルの13階にある美術館なので、スペースはそんなにはありません。しかし見かけのイメージよりずっと展示数は多く、見応えは十分でした。
あまりフランスの画家で好きな人がいないんですけれども、この人とゴッホ(の晩年の作品)はついつい見てしまいます。あまりきれいすぎず、あくまでも市井の視点からパリやその郊外の風景を描き続けたところが良いですね。精神医学の用語で、華やかなパリのイメージに憧れて行ってみたら幻滅した症候群というのがあるそうなんですけれども、田舎の風景や共同便所まで題材にした佐伯さんの世界に触れていたら、こういう事態に陥るのは防げるんじゃないでしょうか。
また、今回はサントリーポスターコレクションから、当時のパリで実際に張り出されていたポスターもたくさん出展されています。佐伯さんのいた、そんなにきれいなことばかりではないけれども楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
と、ここまで普通に書いてきたですが、佐伯さんは日本人であって別のフランスの画家ではなかったです。それをついフランスの人扱いしたくなったのは、どうも佐伯さんにとって画家として活動する上では、パリにいる方が本当ではなかったか…と今回の展覧会を見ながら思ったせいです。日本との往復も「渡仏」ではなく「来日」と捉えていそうな、そのくらいの印象を受けましたよ。
あまりフランスの画家で好きな人がいないんですけれども、この人とゴッホ(の晩年の作品)はついつい見てしまいます。あまりきれいすぎず、あくまでも市井の視点からパリやその郊外の風景を描き続けたところが良いですね。精神医学の用語で、華やかなパリのイメージに憧れて行ってみたら幻滅した症候群というのがあるそうなんですけれども、田舎の風景や共同便所まで題材にした佐伯さんの世界に触れていたら、こういう事態に陥るのは防げるんじゃないでしょうか。
また、今回はサントリーポスターコレクションから、当時のパリで実際に張り出されていたポスターもたくさん出展されています。佐伯さんのいた、そんなにきれいなことばかりではないけれども楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
と、ここまで普通に書いてきたですが、佐伯さんは日本人であって別のフランスの画家ではなかったです。それをついフランスの人扱いしたくなったのは、どうも佐伯さんにとって画家として活動する上では、パリにいる方が本当ではなかったか…と今回の展覧会を見ながら思ったせいです。日本との往復も「渡仏」ではなく「来日」と捉えていそうな、そのくらいの印象を受けましたよ。
山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫) [幻想文学]
大変今さらなニュースです。私の大好きな、しかし文句の付けようがないほどマイナーな作家である山尾悠子が、何と先頃ちくま文庫に収録されました。まさか普通の書店で、山尾悠子推しのPOPを目にする日が来るとは、いや全く夢にも思いませんでした。単行本を既に持っているにもかかわらず、思わず購入してしまいましたよ。
これはとてもめでたい報せなので、文庫化というそれだけのことでも記事にする価値があります。単行本が出たのはこのブログを始める前なので、ちょうど良い機会です。
本書は5つの短篇から成り立つ連作長篇小説で、それぞれ舞台設定も長さも雰囲気もばらばらです。その中では比較的つながりの見えやすい「閑日」と「竈の秋」が気に入っています。特に「竈の秋」の、どたばた喜劇の味わいがだんだん不吉な空気に染まってゆく流れはぞくぞくします。
崩壊が一つの音もなく信仰するような静かな破滅は、この人の作品の中で大好きなところなんですけれども、この連作ではその後の世界が続いています。続く「トビアス」「青金石」まで全て読み終えてからでないと、この本については語れません。最初から最後まで通して読むと、作品の雰囲気の移り変わりにあわせて自分の感じ方までくるくる変わるようで、一作ごとに別の世界を旅してきた気分になれます。
これを機に山尾悠子の他の作品にも触れる方が増えたら、こんなに嬉しいことはありません。ちょうど入門編にぴったりの傑作選『夢の遠近法』もありますしね。

これはとてもめでたい報せなので、文庫化というそれだけのことでも記事にする価値があります。単行本が出たのはこのブログを始める前なので、ちょうど良い機会です。
本書は5つの短篇から成り立つ連作長篇小説で、それぞれ舞台設定も長さも雰囲気もばらばらです。その中では比較的つながりの見えやすい「閑日」と「竈の秋」が気に入っています。特に「竈の秋」の、どたばた喜劇の味わいがだんだん不吉な空気に染まってゆく流れはぞくぞくします。
崩壊が一つの音もなく信仰するような静かな破滅は、この人の作品の中で大好きなところなんですけれども、この連作ではその後の世界が続いています。続く「トビアス」「青金石」まで全て読み終えてからでないと、この本については語れません。最初から最後まで通して読むと、作品の雰囲気の移り変わりにあわせて自分の感じ方までくるくる変わるようで、一作ごとに別の世界を旅してきた気分になれます。
これを機に山尾悠子の他の作品にも触れる方が増えたら、こんなに嬉しいことはありません。ちょうど入門編にぴったりの傑作選『夢の遠近法』もありますしね。

エリザベス・ピーターズ『リチャード三世「殺人」事件』(扶桑社ミステリー) [ミステリ]
英国史上に残る大悪人として知られるリチャード三世の実像に関する、新たな資料が発見された。この資料の発表が行われる屋敷には、リチャード三世を愛好する人々が当時の衣装をまとって集合した。ところが参加者たちの上に、それぞれが扮した歴史上の人物にまつわる災難が次々に降りかかり、ついには…
歴史上の人物の再評価を論じるためにコスプレで集まる人々がイギリスにもいるらしい、というのが一番のヒットでした。わが日本を振り返ってみても、こういう人たちの存在はすごく納得がいきます。こうした活動に関わっている方、もしくはこうした活動を身近にご覧になっている方などには特におすすめします。色々の意味で。
ミステリとしては、主要人物が全員リチャード三世マニアなのと、探偵役のヒロインがその中でも全く埋もれないくらい強烈な他は、きっちりした作品です。どう考えてもネタミステリだと思って読んだので、ちょっと不意打ちを食らった気分です。
史実のリチャード三世は、シェイクスピアその他のイメージのような極悪人ではなかった、という視点の人たちがたくさん出てくるとは言え、「おれはシェイクスピアのリチャード三世が好きなんだ!!」という人(私を含む)でも十分面白く読めますよ。
リチャード三世「殺人」事件 (扶桑社ミステリー)
歴史上の人物の再評価を論じるためにコスプレで集まる人々がイギリスにもいるらしい、というのが一番のヒットでした。わが日本を振り返ってみても、こういう人たちの存在はすごく納得がいきます。こうした活動に関わっている方、もしくはこうした活動を身近にご覧になっている方などには特におすすめします。色々の意味で。
ミステリとしては、主要人物が全員リチャード三世マニアなのと、探偵役のヒロインがその中でも全く埋もれないくらい強烈な他は、きっちりした作品です。どう考えてもネタミステリだと思って読んだので、ちょっと不意打ちを食らった気分です。
史実のリチャード三世は、シェイクスピアその他のイメージのような極悪人ではなかった、という視点の人たちがたくさん出てくるとは言え、「おれはシェイクスピアのリチャード三世が好きなんだ!!」という人(私を含む)でも十分面白く読めますよ。
リチャード三世「殺人」事件 (扶桑社ミステリー)
『トーベ・ヤンソン短篇集 黒と白』(ちくま文庫) [海外小説]
ムーミンシリーズ以降に書かれたトーベ・ヤンソンの大人向けの短編小説のうち、以前出た『トーベ・ヤンソン短篇集』には未収録の作品から編まれた一冊です。前回とどう違うかというと、あまり一般向けではない感じ…ですかね。楽しく読後感良く読み終えられるわけではないんですけれども、心に何か引っかかる作品が多数入っています。悲惨な展開になるわけではなく、かといってハッピーエンドでもなく、しかし不幸な終わりではないが、という調子。解釈とまでいかなくても、それぞれの短篇について、これは良い話なのかひどい話なのか、とつい考えてしまいました。
どうもこの本は、どの作品にどういう感想を持ったかによって、読んだ人の考え方や経験が見えてきそうな気がします。読書会で取り上げたら、各人の意見が分かれまくって喧々囂々の大騒ぎになるんじゃないかと思うので、そういう集まりを愛好されている方たちにはぜひ試していただきたいです。
私個人の感想としては、色々人生には思い通りにいかないことも多いけれど、どうにかなることも多いんじゃないか、そんな感じです。鼻持ちならない都会っ子が海辺の家族に居候する「夏の子ども」なんか、始終イヤな感じで展開する割に、ほのぼのとした読後感を持ちました。一方で「記憶を借りる女」は、もうサイコホラーじゃないかと思うほど怖かったです。
この、ままならないがそれなりに人生を楽しむ雰囲気。何かに似ていると思ったら、大好きなフィンランド映画「過去のない男」でした。フィンランドの空気なんですかね。

どうもこの本は、どの作品にどういう感想を持ったかによって、読んだ人の考え方や経験が見えてきそうな気がします。読書会で取り上げたら、各人の意見が分かれまくって喧々囂々の大騒ぎになるんじゃないかと思うので、そういう集まりを愛好されている方たちにはぜひ試していただきたいです。
私個人の感想としては、色々人生には思い通りにいかないことも多いけれど、どうにかなることも多いんじゃないか、そんな感じです。鼻持ちならない都会っ子が海辺の家族に居候する「夏の子ども」なんか、始終イヤな感じで展開する割に、ほのぼのとした読後感を持ちました。一方で「記憶を借りる女」は、もうサイコホラーじゃないかと思うほど怖かったです。
この、ままならないがそれなりに人生を楽しむ雰囲気。何かに似ていると思ったら、大好きなフィンランド映画「過去のない男」でした。フィンランドの空気なんですかね。

新説 恐竜の成長(~6/3) [美術鑑賞]
大阪市立自然史博物館の「新説 恐竜の成長」展に行ってきました。テーマが恐竜の成長ということで、今まで大きさが違う別の恐竜だと考えられていたのは、実は同じ恐竜の成長過程だったのではないか…というお話が中心です。私が小さかった頃は、とにかく大きければすごいみたいな風潮があったのえ、こんな展覧会が一般向けに開かれるようになったのは、少し学問として落ち着いて来たような感じで嬉しいですね。
今回の目玉は、外見や動作まで再現した復元ロボットです。中でも、ティラノサウルスは実はハイエナやハゲタカのように動物の死体を食べていたんじゃないかという説に基づく食事中ティラノサウルスのロボットは、これまでにない凶悪な印象のカラーリングで大変怖かったです。化石だけでは恐竜の体の色はわからないので、こういう解釈も大有りだと思いますよ。「ティラノサウルスが死体を食ってた説は、なんか格好悪いので認めたくない」派の人も、これなら満足間違いなしです。
ちなみに私は、パキケファロサウルスは実は頭突きをしていなかったんじゃないか説が衝撃でした。それじゃあの丸い頭は、一体どういう事情があって出来たんでしょうね…この衝撃を表すのに「パキケファロサウルスに頭突き食らったみたいな気分」という表現も、もう使えなくなってしまうじゃないですか。
謎を残したまま、次にここの博物館で開催される恐竜関連の展覧会を楽しみにします。
今回の目玉は、外見や動作まで再現した復元ロボットです。中でも、ティラノサウルスは実はハイエナやハゲタカのように動物の死体を食べていたんじゃないかという説に基づく食事中ティラノサウルスのロボットは、これまでにない凶悪な印象のカラーリングで大変怖かったです。化石だけでは恐竜の体の色はわからないので、こういう解釈も大有りだと思いますよ。「ティラノサウルスが死体を食ってた説は、なんか格好悪いので認めたくない」派の人も、これなら満足間違いなしです。
ちなみに私は、パキケファロサウルスは実は頭突きをしていなかったんじゃないか説が衝撃でした。それじゃあの丸い頭は、一体どういう事情があって出来たんでしょうね…この衝撃を表すのに「パキケファロサウルスに頭突き食らったみたいな気分」という表現も、もう使えなくなってしまうじゃないですか。
謎を残したまま、次にここの博物館で開催される恐竜関連の展覧会を楽しみにします。
日欧のサムライたち(~5/6) [美術鑑賞]
大阪歴史博物館の「日欧のサムライたち オーストリアと日本の武器武具展」に行ってきました。何が目当てかというと、黒死館にあるような鎧を期待したからです。入って早々、ポスターにも使われている「貴人の四分の三身甲冑 ブラックアンドホワイトデザイン」が出てきたので、その点はもう大満足です。
サムライとか、刺激的な文字が目立つ割にとても真面目な展示でした。前半がオーストラリア・グラーツのエッゲンベルグ城編、後半が大阪城編という感じに分かれていて、それぞれでテンションが上がりました。そもそも近世ヨーロッパの鎧や戦争についてじっくり見る機会がなかったので、そこからして新鮮でしたよ。洋の東西で似たような戦術が用いられていたというのは面白いですね。
大阪城サイドは、けっこうな有名人愛用の品がぞろぞろ出てきて、そんなに日本史マニアでもない私も、心の中でしょちゅう歓声を上げていました。武将の装備品は美術品とはまた違った、実用性からにじみ出る美しさがあります。
ちょうどGW末までやっているので、お近くの方は家族連れでご覧になってはどうでしょうか。私はもう、黒死館にありそうな鎧(森にいそうな女の子=森ガールだそうなので、それにならって命名すると黒死館鎧)が見られたので文句なしです。
サムライとか、刺激的な文字が目立つ割にとても真面目な展示でした。前半がオーストラリア・グラーツのエッゲンベルグ城編、後半が大阪城編という感じに分かれていて、それぞれでテンションが上がりました。そもそも近世ヨーロッパの鎧や戦争についてじっくり見る機会がなかったので、そこからして新鮮でしたよ。洋の東西で似たような戦術が用いられていたというのは面白いですね。
大阪城サイドは、けっこうな有名人愛用の品がぞろぞろ出てきて、そんなに日本史マニアでもない私も、心の中でしょちゅう歓声を上げていました。武将の装備品は美術品とはまた違った、実用性からにじみ出る美しさがあります。
ちょうどGW末までやっているので、お近くの方は家族連れでご覧になってはどうでしょうか。私はもう、黒死館にありそうな鎧(森にいそうな女の子=森ガールだそうなので、それにならって命名すると黒死館鎧)が見られたので文句なしです。
草原の王朝 契丹(~6/10) [美術鑑賞]
大阪市立美術館で特別展「草原の王朝 契丹」を見てきました。
展覧会公式サイトでは、「美しき3人のプリンセス」という副題もついてちょっとだけ華やかな雰囲気なんですけれども、実際足を運んでみたらこれが実に地味で。市立美術館の建物の雰囲気も、渋さの演出を手伝っていたのかもしれません。私が契丹国を強く意識した経験というと、中野美代子『契丹伝奇集』(フィクション)くりのものですが、さてはて。
感想を申し上げますと、めったにないテーマということもあって展示はどれも目新しく、とても楽しく鑑賞させていただきました。個人的には、プリンセスより墓所を前面に押し出していただいた方が心引かれたように思います。
今回の展示は10~12世紀、日本では平安時代に栄えた契丹の美術品や副葬品が中心です。見ていると日本と全然接点がなくて、これは普段我々が契丹となじみがないのも道理だと思いました。このなじみの薄さが幸いして(?)、出ている作品がどれも目新しいことと言ったら。中央アジア~東アジアに至る広大な帝国だったので、ロシアから中国、ヨーロッパの端っこくらいの文化までが全部入っているみたいです。これまで知っている色々な文化と頭の中で比べながら見ていくうちに、今まで詳しく知らなかったけど、昔アジアに大変スケールの大きな国があったことがだんだんわかってきました。
この展覧会は、この後夏から東京にも巡回します。
契丹がこんなに大きく取り上げられる機会はもう二度とないかもしれないので、ぜひ見に行っておいて下さい。
展覧会公式サイトでは、「美しき3人のプリンセス」という副題もついてちょっとだけ華やかな雰囲気なんですけれども、実際足を運んでみたらこれが実に地味で。市立美術館の建物の雰囲気も、渋さの演出を手伝っていたのかもしれません。私が契丹国を強く意識した経験というと、中野美代子『契丹伝奇集』(フィクション)くりのものですが、さてはて。
感想を申し上げますと、めったにないテーマということもあって展示はどれも目新しく、とても楽しく鑑賞させていただきました。個人的には、プリンセスより墓所を前面に押し出していただいた方が心引かれたように思います。
今回の展示は10~12世紀、日本では平安時代に栄えた契丹の美術品や副葬品が中心です。見ていると日本と全然接点がなくて、これは普段我々が契丹となじみがないのも道理だと思いました。このなじみの薄さが幸いして(?)、出ている作品がどれも目新しいことと言ったら。中央アジア~東アジアに至る広大な帝国だったので、ロシアから中国、ヨーロッパの端っこくらいの文化までが全部入っているみたいです。これまで知っている色々な文化と頭の中で比べながら見ていくうちに、今まで詳しく知らなかったけど、昔アジアに大変スケールの大きな国があったことがだんだんわかってきました。
この展覧会は、この後夏から東京にも巡回します。
契丹がこんなに大きく取り上げられる機会はもう二度とないかもしれないので、ぜひ見に行っておいて下さい。
柳宗悦と丹波の古陶(~5/27) [美術鑑賞]
兵庫陶芸美術館の「柳宗悦と丹波の古陶」に行ってきました。丹波焼というのは、日本六古窯の中では断然知名度の劣る大変地味なやきもので、「雪のような白」とか「鮮やかな発色の青」といったものとは全く縁がありません。土の色に釉薬をかけて上から灰が降ってきたくらいのシンプルな意匠で、最近の作品にはパステル超のかわいらしい器もあるとは言え、今回の出品作品に関してはまあ地味なこと地味なこと。
こんな地味な展覧会に、一緒に見に行く友人を二人も捕まえられたのは望外の喜びです。面白い趣味の友人は持つものです。
ここまで「地味」という単語を既に4回使ってしまうくらいの渋い企画なのも当然で、表題の通り柳宗悦さんが晩年にはまった丹波焼のコレクションが中心になっています。この地方は土もあまり良くないし、やきもの作りには決して恵まれた環境でなかったことからこうした渋い渋い作品が生まれたわけで、なるほどこう言われてみると、柳さんの好みにあったのもわかる気がします。
やきものに関しては、具体的な何かの絵が描いてあるとついそちらを見てしまうので、普段家で使うなら絵のない、釉薬の味わいで楽しむものがいつの間にかお気に入りになっていました。そんな流れで私が丹波焼をやたら気にするようになったのは比較的最近なんですけれども、柳さんもお気に入りだったと知った時はちょっと嬉しかったです。趣味の近い人がいると、その人の好きなものも見てみたくなって自分の趣味が広がり、結果としてさらに好きなものが増えることもよくありますからね。
こんな地味な展覧会に、一緒に見に行く友人を二人も捕まえられたのは望外の喜びです。面白い趣味の友人は持つものです。
ここまで「地味」という単語を既に4回使ってしまうくらいの渋い企画なのも当然で、表題の通り柳宗悦さんが晩年にはまった丹波焼のコレクションが中心になっています。この地方は土もあまり良くないし、やきもの作りには決して恵まれた環境でなかったことからこうした渋い渋い作品が生まれたわけで、なるほどこう言われてみると、柳さんの好みにあったのもわかる気がします。
やきものに関しては、具体的な何かの絵が描いてあるとついそちらを見てしまうので、普段家で使うなら絵のない、釉薬の味わいで楽しむものがいつの間にかお気に入りになっていました。そんな流れで私が丹波焼をやたら気にするようになったのは比較的最近なんですけれども、柳さんもお気に入りだったと知った時はちょっと嬉しかったです。趣味の近い人がいると、その人の好きなものも見てみたくなって自分の趣味が広がり、結果としてさらに好きなものが増えることもよくありますからね。
宮部みゆき『模倣犯〔全5巻〕』(新潮文庫) [国内小説]
公園のゴミ箱から女性の右腕とハンドバッグが発見され、バラバラ殺人として捜査が開始される。そんな中、右腕とバッグの別人だという電話を皮切りに、犯人はマスコミや被害者の遺族への接触を繰り返し…
この異様な事件の発覚から、犯人と見られる二人組の事故死で唐突に解決が訪れるまでが第1部になります。文庫にして1冊目で事件はいったん解決し、続いて第二部では事故死した二人の過去にページを割き、第三部で事件のその後の展開を語る、大変にぜいたくな書きぶり。文庫で全5冊というと、地平線まで続くような長い長い話と受け取られる方もいるでしょうか。単行本で2冊分、3部構成なので、実際に読んでみるとあっという間でした。
事件そのものが語られるページ数はそれほど多くなく、むしろ事件に関わった人々の過去や現在について割かれたパートの方がずっと分量があります。死体を発見した少年、被害者の遺族、ジャーナリスト、容疑者の家族、犯人と近しい人物、等々…これだけの冊数を使って書かれても、まだこれはこの事件に関わった人々のうちのほんの一握りに過ぎないだろう、書かれないところにはこれ以上の物語があったのだろうと思わせる、無数の色合いを覗かせる巨大な断層のような作品でした。
警察の関係者も主要人物の一人として出てくるものの、彼らの捜査が本筋になってくるわけではありません。犯人の内面を語る第2部で、真相は読者に対しては既に明かされているので、謎解きが興味の中心になってくるでもない。事件をめぐる報道の加熱と沈静化、世論の動きが大きな波のように行ったり来たりするさまの方を、私は面白く読みました。
最後の最後、タイトルの「模倣犯」が何通りもの意味を持って浮かび上がるクライマックスには身震いしました。この数ページのための文庫5冊でしたね。
この異様な事件の発覚から、犯人と見られる二人組の事故死で唐突に解決が訪れるまでが第1部になります。文庫にして1冊目で事件はいったん解決し、続いて第二部では事故死した二人の過去にページを割き、第三部で事件のその後の展開を語る、大変にぜいたくな書きぶり。文庫で全5冊というと、地平線まで続くような長い長い話と受け取られる方もいるでしょうか。単行本で2冊分、3部構成なので、実際に読んでみるとあっという間でした。
事件そのものが語られるページ数はそれほど多くなく、むしろ事件に関わった人々の過去や現在について割かれたパートの方がずっと分量があります。死体を発見した少年、被害者の遺族、ジャーナリスト、容疑者の家族、犯人と近しい人物、等々…これだけの冊数を使って書かれても、まだこれはこの事件に関わった人々のうちのほんの一握りに過ぎないだろう、書かれないところにはこれ以上の物語があったのだろうと思わせる、無数の色合いを覗かせる巨大な断層のような作品でした。
警察の関係者も主要人物の一人として出てくるものの、彼らの捜査が本筋になってくるわけではありません。犯人の内面を語る第2部で、真相は読者に対しては既に明かされているので、謎解きが興味の中心になってくるでもない。事件をめぐる報道の加熱と沈静化、世論の動きが大きな波のように行ったり来たりするさまの方を、私は面白く読みました。
最後の最後、タイトルの「模倣犯」が何通りもの意味を持って浮かび上がるクライマックスには身震いしました。この数ページのための文庫5冊でしたね。
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坂口安吾『不連続殺人事件』(角川文庫) [ミステリ]
文士の「私」こと矢代は、妻と共に旧知の富豪・歌川一馬の邸を訪れる。一馬の名をかたった招待状に集められた芸術家と歌川家の一族がひしめく屋敷で、次々と殺人事件が発生し…
文庫本としてはそんなに分厚くないのに、裏表紙のあらすじを見ると「8つの殺人」なんて書いてあります。本当にこんなにたくさん事件が起こるのかと思っていたですが、実際きっちり8人亡くなってから解決編に入りました。参りました。あまり続けて事件が起こるので、目次を見ると「火葬場帰り」という章が一つおきにあるのが、怖さを通り越してかえって笑えてきます。
第一章で提示される登場人物たちの人間関係の、まぁ錯綜していることと言ったら。誰と誰が昔付き合っていた、誰と誰が離婚して今この人と一緒になっている、誰誰はまだ未練があるらしい、そんな感じでまるまる一章使われています。いかにも容疑者っぽく、同時にいかにも被害者になりそうな人々を一カ所にどっさり集めておいて、その後どんどん死んでいく。
これはもうパロディじゃないか、ミステリで良く突っ込まれる、普通に考えると無理のある部分を先鋭化した普通小説じゃないかと思いそうですが、文句なしの本格ミステリとしての解決がちゃんと用意されています。もともと懸賞小説として書かれた作品だそうなので、自身のある方は挑戦してみて下さい。
こちらの角川文庫(改変再版)版は高木彬光・法月綸太郎両氏による解説もついているので、読み終えた後もまだ楽しめるのが良いですね。

文庫本としてはそんなに分厚くないのに、裏表紙のあらすじを見ると「8つの殺人」なんて書いてあります。本当にこんなにたくさん事件が起こるのかと思っていたですが、実際きっちり8人亡くなってから解決編に入りました。参りました。あまり続けて事件が起こるので、目次を見ると「火葬場帰り」という章が一つおきにあるのが、怖さを通り越してかえって笑えてきます。
第一章で提示される登場人物たちの人間関係の、まぁ錯綜していることと言ったら。誰と誰が昔付き合っていた、誰と誰が離婚して今この人と一緒になっている、誰誰はまだ未練があるらしい、そんな感じでまるまる一章使われています。いかにも容疑者っぽく、同時にいかにも被害者になりそうな人々を一カ所にどっさり集めておいて、その後どんどん死んでいく。
これはもうパロディじゃないか、ミステリで良く突っ込まれる、普通に考えると無理のある部分を先鋭化した普通小説じゃないかと思いそうですが、文句なしの本格ミステリとしての解決がちゃんと用意されています。もともと懸賞小説として書かれた作品だそうなので、自身のある方は挑戦してみて下さい。
こちらの角川文庫(改変再版)版は高木彬光・法月綸太郎両氏による解説もついているので、読み終えた後もまだ楽しめるのが良いですね。

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