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福岡道雄 つくらない彫刻家(~12/24) [美術鑑賞]

国立国際美術館の「福岡道雄 つくらない彫刻家」を見てきました。福岡さんは1936年生まれの彫刻家で、2005年に「つくらない彫刻家」となる宣言をしたそうです(でも今回2012年の作品が出ています)。「つくらない」けれども彫刻家をやめたわけではなく現役の彫刻家で、でも「つくらない」人のこれまでの仕事を一望できる展覧会です。
ひとつひとつの作品はちゃんとタイトルがついていてわかりやすく、これは何をあらわしたいのか何をいいたいのかで悩むことはほとんどありませんでした。だってそのままですからね。じゃあどうしてこんなものを作ったのかという話になると、そこは福岡さんの経歴とか日本の美術史を引っ張り出して参照することにいなるですが、特に気にせず作品と向き合ってゆくだけでも十分にとんでもない体験ができました。中之島の地下に突如として出現した反芸術のテーマパークですよこれは。
わかりやすさに加えて空間を大きく使った展示もおもしろく、難解そうに見えて実はたいへん間口の広い展覧会であるように思います。
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ヘレン・マクロイ『死の舞踏』(論創社) [ミステリ]

冬の早朝、マンハッタンに積もる雪の下から発見された若い女性の死体。真冬の雪の夜にもかかわらず、被害者の体は熱射病での死亡時のように熱かった。やがて捜査陣の前に、被害者とうり二つの女性が現れて……
精神分析医ベイジル・ウィリング博士初登場作品であり、マクロイのデビュー作でもある長篇です。冒頭のあらすじをちょっと紹介しただけで、もう著者の作品に頻出するテーマが出てきているんだからたいしたものです。
被害者の意外な身元が判明すると同時に、警察に駆け込んできた女性をめぐるたくらみが明らかになり、さらにダイエット食品やら軍需産業やら社交界デビューする娘たちやら、いろんな要素が絡まってお話が広がっていきます。ちゃんとまとまるのか、事件の謎解きとは別の意味ではらはらしながらページをめくってゆくとちゃんとまとまります。このあたりも、今までマクロイの作品を読んでいると納得できるデビュー作ならではのおもしろさがありました。ウィリング博士の精神分析による推理がちょっとストレートすぎるのも、若々しさを感じさせます。

死の舞踏 (論創海外ミステリ)


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エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫) [ミステリ]

第二次世界大戦のさなか、ドイツ占領下のフランスでイギリス軍のスパイとして捕虜になった女性。彼女は尋問の中断とひきかえに情報を求められ、親友である女性飛行士の物語を小説形式の手記として書き留めてゆく……
ぱっと見たところは女性ふたりによる戦時下の青春小説なんですけれども、冒頭から語り手が信頼できないのが大切なポイントです。最初っから、捕虜である主人公が読ませることを前提に書いている手記ですからね。
主人公は戦争中の思い出や親友の出会いと並行して、自分を尋問するドイツ軍人や捕虜としての生活など、現在の生活についても貴重な紙を消費してどんどん執筆してゆきます。おとなしく情報を渡して無事に解放されそうな性格とはとてもいえない彼女なりの戦いは、後半にさしかかって思いがけない展開を見せ、作品それ自体も戦争小説からミステリのような別の顔を見せてくれます。戦争小説でもあり青春小説でもあり殺人事件の起きないミステリでもあり、カーネギー賞の最終候補に残っているので児童文学でもあるぶあつい小説です。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)


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エリック・マコーマック『ミステリウム』(国書刊行会) [海外小説]

小さな炭鉱町で、記念碑や墓地が無残に破壊され、殺人事件までが発生し、住人たちが謎の病で次々と命を落としてゆく。行政官の命令で首都から派遣された「私」は住人への聞き込みや文書での情報収集を重ね、町の過去にまでさかのぼる因縁を追いかけてゆくのだが……
あらすじはこんな感じでぱっと見たところではミステリです。小さな町の人間関係に波風を立てるよそ者、過去に起きたふたつの痛ましい事故に隠されていた関連性など、主人公の地道な調査で少しずつ浮かび上がる驚愕の真実にはらはらしますし、ちゃんと解決にもたどりつきますので安心して下さい。そこまでは。
ただしすっきり解決したからといってふつうのミステリかと問われると、まったくそんなことはないです。思わず口ごもってしまうひねった小説なのですが、わたくしはこういうの大好きですとしか申し上げられません。
ミステリじゃないつもりで読むといいのではないかとも思うのですが、あいにくミステリとして読んでも面白いんですよね。ただ、事件と謎解きだけに終始しない、登場人物たちの思惑や記憶が絡み合って醸し出される寂寥感がどことなく心地よい、さいごまで油断のならない小説であることは保証します。重ねて申し上げますとわたくしは大好きです。

ミステリウム


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塚本邦雄『珠玉百歌仙』(講談社文芸文庫) [詩歌・戯曲]

短歌といえば小学校で百人一首、あとは新古今集の作風が好きでたまに開いてみたり現代の短歌を少々というくらいのぬるいファンです。どうも和歌から短歌へ、平安時代から一気に近現代まで時代が飛んでしまう感がありますが、そのあいだにも日本の歴史とともに歌という芸術はずっと続いていたわけで、この真ん中の時代も含め、前衛歌人の塚本邦雄が六世紀から二十世紀までの和歌から選び抜いたアンソロジーです。
ざっと千三百年のアンソロジーってどんなかと思いますよね。わたくしはもともと和歌に詳しくないものですから、そのまま色んな人の出てくる歌集として読みました。歌人の名前となるとさっぱりわかりませんが、意外なことに知っている名前もちらほら出てくるんですよ、歌人ではなく武将とか学者から。まずこのあたりが新鮮ですし、なんといっても塚本さんが自信を持って選んだものですから聞いたこともない人の歌でも信頼感があります。
13世紀以降、勅撰和歌集もそんなに出なくなった時代から選ぶのはほんとうに大変だったという序文がついているんですけれども、そんな時代にしっかり光を当てて傑作を拾い出した塚本さんに脱帽です。冒頭が齊明天皇、ラストが森鴎外、全部で百十二首をどうぞご賞味ください。

珠玉百歌仙 (講談社文芸文庫)


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『幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集』(松籟社) [幻想文学]

副題がふるっているじゃありませんか。ベルギーはオランダ語・フランス語・ドイツ語の三つが公用語となっている国ですが、中でも二十世紀後半までフランス語が日常的に使われていた北部フランドル地方を中心に編まれた幻想文学のアンソロジーです。これだけエリアと地域を絞って、テーマに沿った短編集ができるんですからたいしたものです。
収録された作家は全部で八人。マーテルランクやローデンバックは日本でもご存じの方はたくさんいらっしゃるかと思いますが、あとは見たこともない名前がいくつも並んでいます(わたくし調べ)。わたくし自身は以前読んだ『マルペルチュイ』があまりにすばらしかったジャン・レーが目当てで手に取りました。ジャン・レーの新しく日本語で読める作品がここにあることが嬉しいです。
それにしても、こんなに「幻想」の二文字が似合う地域ってなかなかありませんよね。ベルギーの文化の特異な歴史については解説でも少しだけ触れられていますけれども、日常生活からの踏み外し方がどの作品も感動するほどみごとです。そもそも日常なんてあったのかと疑いたくなるような世界に入り込んで、しばらく戻ってこられない覚悟で読みたい一冊です。
フランス・エレンス「分身」は比較的現実的な世界のお話で、アメリカやヨーロッパの怪奇小説でもよく出てくるテーマを扱っているのですが度肝を抜かれました。ほんとうに地に足のついた語り口なのですが、幻想小説のようなSFのような得体の知れない展開をします。

幻想の坩堝 ベルギー・フランス語幻想短編集


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キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫) [幻想文学]

真夜中に車を飛ばすマイクは、家まで乗せてほしいと頼む少女をきっかけに、十代の子どもたちだけが眠る墓地へと迷い込む。そこでは若くして命を落とした少年少女が、自分たちの最期の物語を次々と語り出して……
19~21世紀のシカゴ周辺、時代も環境もばらばらな十代の子どもたちの幽霊がひたすら自分たちの死に際を語る連作短篇集です。因果応報であったり理不尽であったり、そこに至る理由はさまざまですが、とにかく結末はぜんぶ最初から決まっています。そもそも子どもたちの幽霊が出てくる時点でファンタジーなんですけれども、彼らを死に追いやる存在もエイリアンに悪魔に古代の呪いにとバラエティに富んでいます。驚くことに、ひどい話ぞろいながら読後感はそれほど悪くなかったんですよ。語られる時代の並びはばらばらですが、年代順に追ってゆくとシカゴの歴史が浮かび上がってくる楽しみもあります。
とにかくさいごに死ぬ話ばかりなのでお気に入りを語り合うのもはばかられますが、どの作品もどこかしらユーモアが感じられるのも素敵なところです。わたくしは慣れ親しんだ名前と場面がいくつも出てくる「エドガー」が特に好きです。

ぼくが死んだ日 (創元推理文庫)


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レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫) [幻想文学]

虚実入りまじった幻想的歴史小説でわたくしの心をわしづかみにしているレオ・ペルッツの待望の短篇集です。待望していたのはわたくしだけではないはずです。
長篇の緻密さ濃密さをコンパクトに凝縮した読みごたえある中篇、短いながらも作風のよくあらわれた短篇など8作品が収録されています。まさかいきなり文庫で読めるとは思わなかったので嬉しい驚きです。19~20世紀に移り変わる時代のヨーロッパを背景に、月を憎み恐れる一族や自分の息子がアンチクリストであると確信した男など、異様な思考にとりつかれた人々の繰り広げる予想もつかない物語を、この機会にぜひたくさんの方々に読んでいただきたいです。訳者の垂野さんがブログで原作本挿し絵(ネタバレあり)を公開してくれましたので読後にどうぞ。
解説でも少し触れられているですが、長篇でもしばしば登場したテーマが中短篇だとよりはっきり見えているので、こちらを足がかりにして長篇にも手を伸ばしていただきたいものです。翻訳が出てほんとうに嬉しい作家なので、わたくしの感想などよりとにかくたくさんの人にペルッツの名前が知られればと思っています。

アンチクリストの誕生 (ちくま文庫 ヘ 13-1)

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ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房) [SF]

第二次世界大戦で枢軸国側が勝利し、アメリカの西半分が日本合衆国となった1988年のロサンジェルス。検閲局に勤務する石村大尉は、アメリカが戦勝国となった世界を舞台にしたゲームがひそかに流行していると知らされる。そのゲーム「USA」のの開発には、かつて石村の上官だった人物が関係しているらしく……
表紙がものすごく日本のアニメっぽい人型巨大メカなのですが、それよりもフィリップ・K・ディックですよ。とにかく大変な『高い城の男』だったので大丈夫です、安心してお読み下さい。わたくしが保証します。どちらかといえば、表紙のメカが中盤までなかなか出てこないほうが心配です。
日本合衆国(以下USJ)はスマホのように多機能な端末として電卓が発展した便利な社会であり、ネットゲームや非合法の娯楽も発展していますが同時におそるべき管理社会でもあります。主人公も、彼と行動をともにする特別高等警察課員も肉体的精神的にきつい目に遭いますし誰かをきつい目に遭わせたりもします。血みどろの攻防と巨大メカの戦闘と反政府戦力とゲーセンが入り混じった、二十一世紀らしいとんでもない娯楽小説になっています。
ゲームの中に存在する夢と希望の「アメリカ合衆国」が現実にはあり得ないと知りながら読めば、さらにものがなしさが強まって味わい深くなります。本書のテーマと説得力については、解説で著者の略歴を読むと納得できるところがありますね。

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

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シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

アメリカの片田舎で見つかった、イリジウム合金製の巨大な手。それは数千年前に地球を訪れた何ものかが遺した、巨大な人型ロボットのパーツのひとつだった。発見者の少女ローズは後に物理学者となり、謎の人物「インタビュアー」とともに地球上に散らばったパーツを回収するプロジェクトを開始する。
これはロボットアニメ好きな人っぽいなぁというあらすじです。実際そんな調子なので日本のロボットアニメしか知らない方でも面白く読めると思います。正体不明のパーツがどこから来たのかとか、どうやら身長60メートル以上の女性型らしいとか、ロボットそのものについての謎と並行してプロジェクトにかかわる人々のドラマが進行するのが特にアニメ的です。
語り口が独特で、ほぼ前編がインタビュアーと呼ばれる正体不明の人物によるインタビューによって構成されています。この人はインタビューをするだけではなくパーツ回収プロジェクトの推進者でもあり、合衆国大統領補佐官とトークしたり個人的に外部の人間と対話したりと忙しい人物です。他にも軍のパイロット、技術者、科学者などの行動と思惑が絡み合い、上巻の終わりで起きる衝撃的な事件からは予想外の展開が相次ぎます。本作はいったん上下巻で終わっているのですが、さいごにもうひとつびっくりする展開が用意されていますので続編の翻訳を楽しみに待ちましょうね。
巨神計画〈上〉 (創元SF文庫) 巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

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