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トーン・テレヘン『おじいさんに聞いた話』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

オランダ生まれの著者が幼いころ、かつてロシアで暮らしていた祖父が聞かせてくれたお話を元にした掌編小説集です。
と見せかけて、ほんとうにおじいさんに聞いた話ではなく著者の創作であるそうで、そこがまた良いです。『ビリティスの歌』の系譜です。著者の祖父も実はロシア人ではなくオランダからサンクトペテルブルクに移住した一族だそうで、虚実のあいまを縫いながら外側から見た「ロシア的なもの」が浮き彫りにされていることになります。
作品はどれも短くてひどいお話です。不幸な人は不幸なまま、特に救われるようすもなく終わって天国にすら行けません。終わりがなく、今でも事態が好転しないまま続いているお話もあります。それでいて読後感が意外とさっぱりしているのは、全編にただようユーモアのおかげですね。
皇帝や魔女やクマや悪魔といった、いかにもロシアの昔話にいそうなキャラクターたちも登場し、世界の他のどこにもないロシアのお話は続いてゆきます。

おじいさんに聞いた話 (新潮クレスト・ブックス)

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キャリー・パテル『墓標都市』(創元SF文庫) [SF]

かつての文明を滅ぼした〈大惨事〉から数百年後、人々が地下で暮らす時代が続いている世界。ヴィクトリア朝時代の文化が栄え、過去の知識や文献が禁じられた都市リコレッタで歴史学者が殺害される事件が発生。市警察の捜査官マローンは新任のパートナーとともに捜査を開始するが、貴族階級からの妨害が入って……
文化レベルは19世紀の英国風ですが都市の建築技術は明らかに未来の産物ですし地上世界は一度滅びているらしい時代が舞台となるSFです。ただし読んでいるあいだの印象は、ほとんどがヴィクトリア朝風の階級社会で展開するミステリなんですね。マローンの捜査と並行して、殺人事件に巻き込まれたリコレッタの洗濯女ジェーンの冒険も語られ、きらびやかな上流社会と混沌とした下層階級の二重性が明かされてゆきます。
地上世界も人間の住めない場所ではなく農村や他の都市も存在するようなのですが、あくまでも都市内部でのできごとが中心になっているので、SFミステリではなく歴史ミステリみたような気持ちで読んでいました。終盤で大きな事件が起こり、いったん完結しながら次巻以降に続く結末となりますが、「第一部・完」の現在でもなかなか面白く読みましたので紹介させていただきます。

墓標都市 (創元SF文庫)

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ブライアン・エヴンソン『遁走状態』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

E・A・ポーとも比較される現代アメリカ作家の短篇集です。もうひとつ同じクレスト・ブックスから出ている『
ウインドアイ
』とくらべると、こちらのほうがより現実に近い作品が多かったような印象です。日常に近くて感覚的に理解しやすい気はするんですけれども、共感できるぶんだけ読者のしんどさも上がるのでわかりやすけりゃいいってものでもありません。最終的に日常に戻る(ような)話もあるですがすっきりはしませんし、理不尽な暴力や不条理なルールに振り回されるのは主人公も読者もきついもんですよ。出版社のワンマン社長に振り回される社員の話「九十に九十」が特におすすめです。(いじわるな意味で)
ただこの情け容赦のなさが、まさに小説/文学だからこそ可能な世界だとも思うわけです。映像化されたら正視できない世界で、いやな話やへんな話、後味が悪い話がお好きな方にはぜひ手に取っていただきたいんですね。先ほども申し上げましたとおり、ほんとうに爽快感がない、それでいて見事な工芸品のような短篇世界ですから。

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)


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ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

穏やかな老後の暮らしを楽しむ男のもとへ、弁護士を通じて届けられた一冊の日記と500ポンドの遺産。日記を綴ったのは高校時代の親友で、ケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアン。託されていたのはかつて主人公の恋人であり、後に親友エイドリアンの恋人になった女性ベロニカの母だった。
前半は引退して平和な生活を送る主人公による学校時代の回想です。三人の仲間たち、特にあとから加わったエイドリアンの思い出、ベロニカとの出会いと交際と別れやいっしょに彼女の家で過ごした日のこと、エイドリアンの死、その後別の女性と出会ってからの色々あった人生……
始まってからしばらくは、それなりに幸せも不幸もあった過去を現在から振り返っているのですが、ある時点からトーンが一変します。どこまでも主人公の一人称による語りになっているのがポイントで、読者としては何ごとも彼の記憶と目を通じて見ることしかできないわけなんですけれども、老境にさしかかった現在に戻ってきたとき、主人公の見たものやおぼえているものがいかに当てにならないかをいっしょに体験することになるんですね。自分とはまったく違う境遇の人々のお話を読みながら、「わかっていない」主人公と同じくらい何もわかっていない読者の気持ちになっていました。

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)


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ショーン・タン『遠い町から来た話』(河出書房新社) [漫画]

オーストラリアの作家さんによる、読み聞かせるにはちょっと小さい文字がしっかり詰まった印象のある絵本です。表紙の潜水服の人物が登場する作品などはオーストラリアの歴史にまつわるお話ですが、全体としては特に意識しなくてもおもしろく読めました。
身長数センチのちょっと変わった留学生がやってくる「エリック」みたいなほのぼのと心温まるお話もありますし、おじいちゃんのほら話かと疑いたくなる壮大なファンタジーや少しこわいSFっぽいものもあります。どれも全編が作者自身のイラストと絶妙に組み合わされていて、手書き文字(日本語に翻訳されているので大丈夫です)や新聞風活字など作品ごとに見せ方に変化があるので眺めていて飽きません。
絵本というよりは、大きなサイズでイラストといっしょに楽しめる短篇集として読んでいただきたいですね。ジャンルは「へんな話」です。

遠い町から来た話


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カーター・ディクスン『かくして殺人へ』(創元推理文庫) [ミステリ]

牧師の娘モニカは初めて書いた小説が大ヒットし、自作を映画化することになったプロデューサーのもとを訪れる。ところが脚本を担当するのは別人と聞かされ、モニカ自身も他の原作者による脚本の執筆を依頼されるも、仕事中の彼女の身に次々と危険が降りかかって……
序盤で第二次世界大戦が始まってしまい、撮影どころではなくなった映画スタジオが舞台のミステリです。と言いたいのですが世間が撮影どころでないと思っていようが、映画界のどたばたはそんなに変わることもなく続いているんですよね。駆け出し作家のモニカと、初対面の印象は最悪ながらもなぜか彼女を気にかけてしまう探偵小説作家カートライトのやりとりは軽妙で、つまり不可能犯罪よりはラブコメの度合が強いほうのカーター・ディクスンです。
戦時下の緊迫した雰囲気を背景に、正体も目的もわからない人物からの殺意におびえる若い女性なんていかにも怖そうなんですけれども、探偵役がヘンリ・メリヴェール卿なこともあってびっくりするほど楽しげな読後感が残りました。ラストシーンもそうですし、ある人物の正体が明かされるくだりでは腹を抱えて笑いましたよ。

かくして殺人へ (創元推理文庫)


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2017年・今年の10冊 [その他]

毎年開催している、今年わたくしが読んで面白かった本の中から10冊を選んで発表する企画の時間です。(わたくしが読んだ本なので今年出た本とは限りませんし10冊に収まるとも限りません)

J・G・バラード『ハイ・ライズ』

ハニヤ・ヤナギハラ『森の人々』

吉村昭『高熱隧道』

ローラン・ビネ『HHhH』

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』

イアン・マキューアン『甘美なる作戦』

ミュリエル・スパーク『あなたの自伝、お書きします』

『失敗の本質』

パトリシア・ハイスミス『キャロル』

ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

L・P・デイヴィス『虚構の男』

ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』

短編賞:ジョージ・ムア「アルバート・ノッブスの人生」(『クィア短編小説集』所収)
東京都課題図書:『失敗の本質』

ずらりと並べてみると自分の趣味がなんとなくわかるような気がして面白いものです。語り口に工夫のある話、何かしらショッキングなところのある小説が好きですね。

それでは皆さん、良いお年を。
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ブライアン・エヴンソン『ウインドアイ』(新潮クレスト・ブックス) [海外小説]

全二十五篇入った猛烈に後味の悪い短篇集です。ほんとうにもうびっくりするくらい後味が悪くて救いがないので、読んでみてびっくりして下さい。
冒頭の表題作からして、子ども時代に突然いなくなった妹を回想する男のお話なんですけれども、いったい何があったのかは説明されないし説明のしようもありません。確かにいたはずの妹がいなくなった主人公の人生はそのまま進んでいって、読者は最後に放り出されるだけです。
SFのようだったり児童文学のようだったりおとぎ話のようだったりと語り口は多彩で、それでいてどれも居心地の悪い宙ぶらりんの結末へ持って行かれます。
主人公たちがどこで何をやっているのか判然としないがとにかく絶望的な「スレイデン・スーツ」、展開だけ見るとメルヒェンの定番みたいな「ダップルグリム」がわたくしは好きなのですが、気軽におすすめできるストーリーではないです。ただですね、最先端の英米文学を読んだ満足感はありました。

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)


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エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』(河出書房新社) [海外小説]

フロリダで開催されるヘミングウェイそっくりさんコンテストに参加し、まったく似ていないという理由で最下位になった「わたし」が聴衆に向けて行う講演、というスタイルの自伝的小説です。作者自身のパリでの文学修業時代が題材のようです。
といってもあまりにも予想外のエピソードにあふれていて、どこまでフィクションでどこまで本当なのかわからないんですよね。いきなり「家主のマルグリット・デュラス」なんて出てくるんですから。同じ名前の一般人でもなんでもなく、作家のマルグリット・デュラスです。
主人公は作家志望ですからもちろん作家についての話題にも事欠かず、ボルヘスに影響を受けるくだりやデュラスに箇条書きのアドバイスをもらうくだりなんてとても本当らしいんですけれども、なんとなく眉につばをつけたくなります。
事実かどうかにかかわらず、作家や映画監督や俳優の名前がぽんぽん飛び出す、20世紀パリの芸術家たちの世界が覗ける楽しさはあります。知っている名前が出てくるたびに吹き出すタイプの本ですし、それと同時に創作と向き合う青年の苦悩の日々の記録でもあります。みごとなタイトルは決して前向きな意味で使われてるわけではないんですよ。

パリに終わりはこない


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スティーヴン・ミルハウザー『木に登る王』(白水社) [海外小説]

表題作「木に登る王」と「復讐」「ドン・フアンの冒険」、三つの作品が入った中篇小説集です。それぞれのお話につながりはないのでどれから読んでも大丈夫なのですが、ちょっと似通ったシチュエーションが裏側にあったりもします。どこからでも読めるけど三つ全部読みたいところです。
亡き夫の思い出が残る家を売りに出す女性が客を相手に語り続ける「復讐」、放蕩に飽いたドン・フアンが英国の貴婦人に心ひかれる「ドン・フアンの冒険」、アーサー王伝説のトリスタンの物語に取材した「木に登る王」、いずれも読者が想像しやすいテーマを扱いながら思いがけない方向に向かいます。
トリスタンの話がどう思いがけなくなるかというと、ちゃんといつも通りの皆さんご存じの展開なんですけれども、最初から最後まで王に仕える忠臣の視点から描かれているんですね。登場人物たちの心理描写もすべて彼の目を通していて、結末まで知っているはずの物語が驚くほど新鮮でスリリングになっています。ほんとうにどうしてこのテーマはこんなに面白いんでしょうね。

木に登る王:三つの中篇小説


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